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90 強引なクレア

ついに召還状が2人の下へ。

今回はカネガ邸での一幕です!

翌朝、わたしとクレアが泊まっている宿に1件の伝言が届けられた。


朝食中、受付に預けられた書簡を宿の者から手渡され、わたしはクレアと目を合わせた。


ゆっくりと封を開け、綺麗に折り畳まれた紙を開いていくクレア。


その様子を、わたしは静かに見守った。



「え〜と……Aランク冒険者クレア=デストロイは、本日の正午、サンタク家邸宅へと来るように……だってさ!」



内容は想像通りのもので、カネガからの召還命令。


わたしは大きくため息をついた。



「やっぱり……こうなるよね。」


「まぁ、仕方ないよ。」



クレアは書簡を畳み直して肩をすくめると、テーブルの隅にそれを置いて朝食を再開する。



「……でも、なんか悔しいなぁ。」



パンを齧りながら呟くわたしに、クレアはハムを口に運びながら笑う。



「考えても仕方ないよ!とりあえずはお腹満たさないと!」



ちゃんと食べておかないと、肝心なところで力が出せないからと言って、クレアは5つ目のパンを近くを通った店員から受け取っている。


その様子を見ていたら、わたしの気分も変わってきた。


確かに、どうしようもないことを悩んでいても仕方がない。


それより、その後どうするかを考えるべきだ。



『そのマインドは大切です。』



ガイドさんもそう言ってるし、今はできることだけを考えて行動しよう。


わたしはそう切り替えると、目玉焼きを口へと運んだ。



◆



正午になり、わたしとクレアはカネガの邸宅を訪れた。


さすがに今回は召喚状もあったので、通行料は取られなかった。


というか、もし今回も通行料をとられそうになったら、わたしはひと暴れしていたかもしれない。


あの仕組みは、それくらい理不尽だと思っていた。



邸宅の前まで来ると、執事のカズーロがわたしたちを出迎えた。



「お待ちしておりました。旦那さまがお待ちです。」



カズーロはそう言って頭を下げると、わたしたちを邸宅内へと案内する。


応接室まで案内されたわたしたちは、ソファへ腰掛けるように促されたので、静かに腰掛けた。


ミケルのために、いろいろと情報は取っておくべきなので、ここで暴れるわけにはいかないのだ。



少し待っていると、部屋のドアが開き、カネガと黒ずくめの闇魔術士……たしかサヌラと言っていたが、2人が入ってきた。


相変わらず、恰幅の良い体つきをしていて、ハムにしてやりたい気持ちでいっぱいになった。



「それで……手に入れたものはあったのか?」



偉そうな態度で笑うカネガに殺意が湧く。


だが、クレアが冷静なので、わたしもそれは崩さずに内心だけに留めていると、クレアが懐から真紅の宝玉を取り出した。


もちろん、わたしはカネガが気持ちの悪い笑みで喜ぶのだと想像していた。


だが、それを見て喜んだのはカネガ……ではなく、サヌラの方だった。


一瞬だけ見せた彼女の笑みを、わたしは見逃さなかった。



カネガでなく、何でこいつが喜ぶんだ……?



ふと湧き上がる疑問に、わたしはサヌラから目が離せなくなっていた。


無表情のまま、カネガの横に座っているこの女を、わたしは怪しむようになっていた。



「ほう……宝玉とな。他には?これだけか……?」


「ん〜あとはちょっとしたアイテムかな。」



カネガの催促にクレアが応え、取り出したのはダンジョンのところどころで集めたお宝たち。


ポーションなどの重宝するアイテムから、鉄鉱石などの鉱石まであり、わたしたち冒険者からすればかなりいい結果である。


しかし、カネガはそうは思わないようで、クレアが出した物を見て、わかりやすく舌打ちをしていた。


おそらく、大金になるようなアイテムを想像していたのだろう。


だが、ダンジョンのお宝も湯水が沸くようにあるわけではないので仕方がないのである。



「では、契約に則り、この宝玉は我々が……」



サヌラがそう切り出したので、いよいよかと内心でため息をついた。


ガイドさんから事前に聞かされていたが、例の契約に付与された闇魔術【誓約堅守】は、契約主の命令を必ず聞くしかないらしい。


それだけ聞けば、かなり強力なスキルである。


だが、強力な分、その発動には難しい制約がついて回る。


例えば、いくつかの条件を満たさないと発動しなかったり、効果範囲をかなり限定的にしないといけないなど。


そう聞けば、スキルはかなり奥が深い。


と、話が逸れたが、ガイドさん曰く、このスキルの使い所はかなり難しいのだそう。


なので、それをかけられているクレアは、おそらく奴らに逆らうことができないのだ。



ゆっくりとサヌラの手が宝玉へと伸びていく。


その顔には、無表情の中に歓喜が満ち溢れている。


ゆっくりと……焦らずに……その指先を宝玉へと向ける。


そうして、宝玉に手が触れそうになったところで、突然目の前にあった宝玉が無くなり、サヌラは困惑した。



辺りをキョロキョロと見回ながら、宝玉の所在を必死に確認している彼女の目が、ふと止まった。


その先には、クレアが満遍の笑みを向けているのだ。



「やっぱり、あ〜げない!」


「な……!!」



わたしも目の前の光景には驚いた。


逆らえないと思っていたクレアが、簡単に契約を反故にする行動を取ったのだから。


しかし、わたしよりもカネガたちの方の混乱が大きい。


カネガもサヌラもカズーロでさえ、目を見開いてその理由を探している。



「何を言っとるんだ!契約を守らない気か!?」


「いやいや、契約内容はちゃんと守ってるよぉ。」



クレアはニヤリと笑う。



「どこがだ!契約にはダンジョン内で見つけた物は全部回収となっとるはずだ!」


「なぁに言ってんのぉ!ちゃんと契約内容は確認してよねぇ!」



要するに、クレアの言い分はこうだ。


まず、[見つけた金品類と倒した魔物の素材は相場で買い取る]という点について、宝玉は金品類ではないし、魔物からドロップはしていないので対象外。


次に[魔剣などのレアアイテム、レア素材は子爵家へ献上する]だが、この宝玉はレアなアイテムではない。


それが彼女の考えであった。



「バカな!宝玉がレアなアイテムでないと!?どう見てもレアではないか!」



カネガがそう怒鳴ると、クレアは徐に鑑定書を取り出した。



「鑑定してもらったら、不明なアイテムってさ!」



いつの間に鑑定などしてもらっていたのやら。


鑑定書を指差して笑うクレアを見て、少し呆れもする。


しかし、ガイドさんは腑に落ちない様子だ。



『もっともらしく言っていますが、かなりこじつけています。』



だよね……。


わたしもそう思う……。



もちろん、カネガたちもそう思っているので怒っているのだ。


しかし、クレアはさっさとこの場を切り上げたいようで、周りを黙らせるように大きなため息をついた。



「こっちはちゃんと契約守ってるんだよね……。」



ドスのきいたその声は、カネガたちを黙らせるのに十分だ。


それに本来ならスキルの効果で強制的に渡してしまうはずなのに、そうならない事実がカネガたちを尻すぼみさせていた。


そんなカネガたちを見たクレアは、ポンと手を合わせた。



「なら、この話は終わりでいいよねぇ!」



満面の笑みを浮かべ、ゆっくり立ち上がるクレアに続き、わたしも立ち上がる。



「それじゃあねぇ〜!」



何ともあっけない結果となったが、これはこれでラッキーという他ない。


まだ不明な点が多いけど、この宝玉を奴らに渡さずに済んだのだから、御の字か。


短絡的な思考かもしれないが、今はそれで良しとしよう。



そんなことを考えながら、鼻歌混じりにカネガ邸宅を後にするクレアの背中をわたしは追いかけた。



◆



「ふざっっっけるなぁぁぁ!!」



目の前に置いてある花瓶を床へと叩きつけるサヌラ。


その顔には青筋が走り、今にも噴火しそうな火山のように顔を赤くしている。



「やっぱり……やっぱりあの猫人族の娘ぇ!!殺しておくべきだったのに……!!」



サヌラはそう吐き散らすと、カネガを睨んだ。


睨まれたカネガは、蛇に睨まれたカエルのように微動だに出来ずにいる。



「奴ら……あの娘に接触したんだ!だから、わたしのスキルが解除された!お前ら……この落とし前はどうつける……!!」


「ひぃぃぃ!!も……申し訳ございません!!」



カネガとカズーロは、すぐさま土下座に移行した。


だが、サヌラの怒りは収まらない。


「謝るだけなら誰でもできるんだよ!!どうするのかを聞いてるんだ!!それとも、このまま悪事がバレて捕まるかあ!?そうなれば、打ち首……少なくとも島流し……。」



その言葉を聞いたカネガたちの顔色は、一層青に染まる。



「どのみち、何もしないのならあんたたちはこれで終わりだ。今までのこと全部、公爵家に伝わる。それでいいのかい!?」



カネガもカズーロも、真っ青な顔を何度も横に振った。



「……ちっ。使えないねぇ……こうなったら仕方がない。わたしがあの兎っ子と赤毛をやる。あんたたちは猫人族の娘を殺しな!」



ため息を混じりのサヌラが、これからの方針を提示すると、カネガたちの顔が少し明るくなった。



「わ……わかりました!猫人族の方が確実に殺します!しかし……Aランクをどうやって倒すのですか?」



カネガのふとした疑問に、サヌラは眉を顰めた。



「あのダンジョンの最奥の魔物を解き放つ。さすがのAランクでも、あれは倒せまい。」


「そ……それは……!!」


「街が壊れるってかい!?なら、あんたらも街と一緒に沈むかい?」



優柔不断さを嫌うサヌラは、カネガの考えを一蹴するように睨みつけた。


その意味を理解して、カネガは観念したように項垂れ、そして頷いた。



「わかったなら、さっさと動きな……。」



その言葉を皮切りに、カネガは何かを決心したように顔を上げ、カズーロに的確に指示を飛ばし始めた。


その様子を見て、サヌラは小さく笑みを溢す。



(予定は変わったが……あれは必ず手に入れる。)



窓からは遠目にだが、邸宅の門を抜けるパルトたちの姿が見えた。


サヌラはその姿を消えてもなお、睨み続けていた。

何でスキルが解除されてるんでしょうか。

やっぱりこれってタマルの?


それは次回わかります。


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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