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89 黒いモヤモヤ

フロアボスを倒して、地上へ帰還するパルトたち。

その手には真紅の宝玉が。



ダンジョンからの帰還途中。


クレアが宝玉を見ながら、ふと呟いた。



「この宝玉……何なのかなぁ。」



クレアが手に持っている真紅の宝玉。


いったいどんなアイテムなのか、わたしにもクレアにも見当がつかなかった。


ならば、こういう時はガイドさんに……



『現時点では解析不明です。』



とのことだった。



ガイドさんにもわからないなら仕方がないし、とりあえず外に出るために地上を目指す。



「でもさ……持って帰ったらカネガに取られるよね。」


「そうなんだよね。契約があるから、おそらくあいつに会った瞬間に嘘はつけなくなっちゃうし……。」



そんなことを話し合いながら、1階層を抜けて出口に辿り着くと、隻眼の男が出迎えてくれた。



「よう!生き延びたか!」



わたしたちに気づいた男は嬉しそうに笑ったが、その後で当たり前かと肩をすくめている。


どれだけクレアの強さに対する信頼度が高いんだと感じたが、それは言葉に出さないでおく。



「何か宝は手に入れたか?」


「ん……特にこれといって目ぼしいものはなかったかな。」



本当は手に入れたんだけど、そんな嘘をついて大丈夫なのかな。



わたしはクレアの回答に少し驚いた。


だが、男の反応は軽いものだった。



「そうかい。まぁ、カネガの奴には嘘はつけねぇからな。嬢ちゃんたちが出てきたことは報告させてもらうぜ。そのうち、召還命令が来るだろうさ。」



要するに、ここで隠しても契約を結んでいるからすぐにバレる。


そういうことなんだろうと、わたしは理解した。



しかし、そうなると宝玉については隠し通せないだろう。


今日は遅いのでカネガのところへ行かないが、わたしたちがダンジョンから出たことは男が報告するみたいだし。


そうなると、明日にはカネガから召還命令が下る……。



「とりあえず、ミケルのところへ行こうか。」



一度、ミケルたちと話す方がいいかもしれない。


直感的だったが、何となくそう考えたわたしは、クレアの言葉に頷いた。



◆



「ミケル……いる……?」



入口の布をくぐり抜け、中へ声をかけると、出てきたのは妹のタマルだった。



「ね……姉ちゃん!帰ってきた!!」



タマルはわたしたちを見るや否や、驚いた顔で奥へと駆けて行き、姉のミケルを連れてきた。



「無事でよかった……。」



ミケルはわたしたちを見てホッとした顔を浮かべると、奥へと入るように促してくれた。



「それで……ダンジョンはどうだった?」



わたしとクレアにお茶を配り、そのまま座り込むと、ミケルは心配げにそう尋ねた。



「まぁ……余裕だったよねぇ!」



クレアは嬉しそうに笑い、ガッツポーズ。


わたしはその横で、今回のダンジョン探索の内容を簡単にミケルへ説明した。


ミケルは終始驚いていたが、その表情には好奇心に満ちていた。



「……でね。その牛頭を倒したら、これを手に入れたんだ。」



わたしが鞄から赤い宝玉を取り出して、机の上に置く。


ミケルはそれをまじまじと見つめていたが、小さくため息をつくとわたしたちに視線を戻した。



「すごいね……でも、契約はしたんでしょ?」


「うん……クレアがサインした。」


「なら、これは明日にでもカネガの手に渡っちゃうね。」



ミケルはそう言って肩を落とした。


ミケルの言うとおり、このままだとこの宝玉はカネガたちの手に渡る。


カネガ宅で会ったあの闇魔術師の女。


あいつがクレアにかけた闇魔術スキルの中でも隷属スキルと呼ばれる【誓約堅守】。


そのスキルのせいでクレアはカネガに嘘がつけず、ダンジョン内で手に入れたもの全て、カネガに渡さなくてはならないのだ。



ダンジョンに入るためだったとはいえ……。



もともと、ミケルたちのための敵情視察だったが、あの場でダンジョンへ入らないとは言えなかった。


わたしは悔しさを滲ませた。


だが、そんな折、タマルが突然意味不明なことを言い出した。



「クレアの姉ちゃん。胸についてる黒いモヤモヤはなぁに?」


「……黒い……モヤモヤ?」



問われたクレアは、自分の胸を見て首を傾げている。


わたしの目にもそんなものは映っていないので、タマルが何のことを言っているのかよくわからなかった。


しかし、ガイドさんは何かに気づいたようだ。



『もしかすると……タマルは聖光属性を持っている可能性があります。』



聖光といえば、闇魔と対となる属性のひとつである。


だが、この属性は持ち得る者が多くないレア属性。


ガイドさんは、それをタマルが持っていると言うのだ。


本当だろうかと疑心暗鬼のまま、タマルへ問いかける。



「タマル……モヤモヤって?」


「え……?見えないの……?クレア姉ちゃんのここに……」


不思議そうな表情を浮かべ、クレアの胸元を指差すタマル。


わたしもクレアも、ミケルでさえも困惑の色が隠せずにいる。


だが、再びタマルが驚いた表情を浮かべた。



「あ……消えちゃった……。」


「え……?消えたの?」


「うん……わたしが触ったら消えちゃった。」



タマルは残念そうに俯いた。


正直、本当かどうかは甚だ疑問であるが、気になることも事実だ。


ガイドさんだって、タマルが聖光属性を持っているかもと言っているし。



「ミケル……タマルって何か特殊な能力とかあるの?」


「いや……ないと思うけど……。今まで聞いたことないし。」



タマルのことについて、姉のミケルに聞いてみたが、ミケルもわからないようだった。


だが、クレアをちらりと見ると何かを思案している。



「う〜ん……」


「クレア……どうしたの?」


「ん……?いやさ、黒いモヤモヤを触ったら消えたって話、どこかで同じような話を聞いたような気がしてねぇ。」


「心当たりのあるの?」


「うん……でも、それが思い出せないんだよぉ。」



今のところ、クレアの記憶が頼りだから思い出して欲しいけど、あまり期待できそうにないな……。


さっきからずっと首を傾げて考えているし……。



今日はいったん帰って、ゆっくり休んだ方が良さそうだ。


わからないことをずっと考えるよりも、優先すべきことについて先に考えるべきである。


ミケルたちをどうやって助けるのか、そして、カネガたちをどうやってぶっ飛ばすのか。


今の最優先事項はこの2つなのだ。



「クレア。とりあえず、その話は置いておこうか。明日はカネガのところに行かないといけないだろうし。」


「……ん。悔しいなぁ。思い出せなくて……。」



いまだに首を傾げつつ、ミケルとタマルに見送られて、わたしとクレアは宿屋への帰路についた。



◆



「首尾は上々……。」



カネガ宅にて。


部屋の隅にある椅子に腰掛けていたサヌラは、暗くなった窓の外を見つめながら静かに笑う。


ボス部屋へ挑んだ2人は、無事にフロアボスを倒したらしい。


先ほどダンジョンの管理を任せている者たちから、あの2人が帰還したと報告があったから、おそらく間違いない。


明日には、奴らがここを訪れ、例のアイテムを持ってくるだろう。



「そうすれば、宝玉は我が手中に……」



再び口元に笑みが溢れた。



「失礼する。」



ドアがノックされ、カネガの執事であるカズーロが部屋へと入ってきた。


そして、すぐに横へと避け、ドアを開けたまま頭を下げると、後からカネガが入ってきた。



「サヌラ殿。どうやら奴ら、ダンジョンから帰ったようですな!」



恰幅の良いお腹をさすりながら、カネガは嬉しそうに笑う。



「えぇ……そのようで……。で、わかっているのでしょうね。」



サヌラが真面目な顔でカネガに問う。


その表情を見て、カネガは少し焦りを浮かべた。



「も……もちろんですよ!サヌラ殿のお求めのものを奴らが持ってくれば、それはあなた様のものです!」



その言葉を聞き、サヌラはくすりと笑った。



「わかっているのなら……いいのです。」



ゆっくりと立ち上がり、再び窓の外へと目を向ける。



(スラックもエルバも……頭を使えばいいんですよ。戦う必要など、ないのですから。)



サヌラは明日のことを想像し、クククと笑みを溢した。

この宝玉は何なのでしょうか。

このサヌラという女性の正体は、エルバたちと関係がある?


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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