72 追われる少女
混乱パルト。
今回は少し物語が動きます。
わたしはクレアの下へと戻ろうと、森の中をゆっくりと歩いていた。
もちろん、頭は混乱したままだ。
情報量が多過ぎてクラクラしている。
レベルとか、世界のシステムとか、責務とか……。
何やら話が壮大過ぎて、意味不明だった。
『混乱するのも無理はありません。』
わたしに賛同してくれているが、ガイドさんの声からは満足感が感じられた。
大方、話し終えて満足しているんだろう。
しかし、そっちはそれでいいかもしれないけど、聞かされたこっちは大変だ。
頭の中でいろんな言葉がぐるぐると回っており、その一切が消化できずにいるのだから。
しかし、混乱したままというのも良くない。
少し冷静にならなければ、わかることだってわからなくなるし、このまま戻ってもクレアに不審に思われる。
そう考えたわたしは、とりあえず1つだけでも疑問を解消しようと思い、ガイドさんへ聞いてみることにした。
「スキルって、自ら編み出すものだと思ってたんだけど……それはどうなの?」
『考え方としては、間違ってはおりません。スキルは自ら獲得するものです。』
スキルは、生まれ持った魔力と属性因子を練ることで発動できる。
わたしは師匠からそう学んだし、だからこそ、与えられるものではないと理解している。
スキルは魔力操作の精度を高め、より強力に、より柔軟に発展させていくものなのだ。
そして、鍛錬を続ければ新たなスキルを思いつく。
そう……思いつくのだ。
誰かから渡されるものではないはずだけど……。
「でもさ……わたしはそのレベルというのが上がった時、【脱兎如】を獲得したよね?これはどういうこと?」
そんなわたしの疑問を聞いて、『良い質問です。』と前置きしたガイドさんは、どこか嬉しそうに答え始めた。
『この世界の生き物にとって、スキルは自身が閃くものです。どうすれば、より強いスキルが放てるのか。それを試行錯誤し、突き詰めていけば、新たなスキルを閃き、獲得することができます。』
それはそうだ。
さっきも言ったとおり、鍛錬を続けていけば新たなスキルを思いつくのだ。
わたしの【駿影】だって、一般的な移動スキル【駿歩】と身体強化による切り返しを組み合わせたもの。
これは誰かから貰ったものじゃなく、自分自身で考え抜いて辿り着いた1つのゴールなのだ。
『その考えは正しいと言えます。ただし、先ほどお伝えしたレベルという仕組みを考えてみれば、その閃きがなぜ起こるのか……ということがわかるはずです。』
ガイドさんにそう言われ、少し疑問に思いつつもレベルについて思い出してみる。
レベルとは個体の成熟度を示す数値。
そして、成熟度とは肉体的、精神的にどれくらい成長したかを指し示すもの。
成長したことが世界に認められて、評価されることで初めてレベルは上がる……だっけ?
『その通りです。世界が認める……これが重要です。この世界に生きとし生けるもの全て、世界に見守られており、個々の努力は評価されます。そして、認められた個体には、世界よりギフトが贈られることがあります。それが"スキルへの閃き"という形で現れるのです。』
やばい……また新しい言葉が出てきたよ……。
ギフト……?
スキルへの閃き……?
それに世界が見守っている……?
パンクしそうになる頭を必死で回転させていると、ガイドさんはどんどん話を進めていく。
『この世界の住人が新たなスキルを習得する時、必ず閃きが生まれます。その閃きとは世界が個を認めたという福音……祝福であるということです。ちなみに、このギフトはスキルのみに適用されます。人々が考え出した技術などスキル以外のことに対しては、決して贈られることはないものです。』
そこまで聞いたわたしは、自分の頭の中で何かが爆発した音を聞いた。
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「お……帰ってきた!遅かったね!」
わたしの姿を見つけたクレアが、笑いながら手を振っている。
だが、今のわたしにはそれに応える余力はない。
ふらふらと歩いてクレアの横まで来ると、大きめの石の上に腰を下ろした。
「どうしたの……?何かあった……?」
心配してくれたクレアが水が入った皮袋をくれた。
お礼を伝えて、水を口に含む。
口と胃の中に冷たく広がる感覚に、少しだけ落ち着きを取り戻したわたしは、大きなため息をついた。
「ごめん……何でもない。ちょっと考え事をしてただけ……かな。」
そう返すと、クレアは「ふ〜ん。」とだけ言い、平らな石の上で焼いている肉を上手にひっくり返した。
香ばしい匂いが鼻をつき、口の中によだれが広がった。
空腹感がお腹を刺激して、グゥーっという音が鳴ってしまう。
恥ずかしくなってお腹を抑えると、それを聞いたクレアが「もう焼けるからね。」と笑った。
いい感じに焼けたブラッディウルフの肉。
クレアはそれを、わたしが森で見つけてきた大きめの葉っぱに盛り付る。
「なかなかいい感じ!やっぱり塩は持ってきておいてよかった!」
クレアは小瓶に入った白い粉のようなものを取り出すと、焼き上がった肉にパラパラと振りかけた。
そして、2つあるうちの1つをわたしに手渡すと、クレアはさっそく手を合わせた。
「これでよし!じゃあ、食べよっ!」
そう言うや否や、クレアが肉を頬張り始めたので、私もつられて肉を口に運ぶ。
口の中で肉汁が溢れ、それが塩と合わさって何とも言えない香ばしさが口の中に広がっていく。
空腹だったことも相まって、わたしは貪り食うようにそれを平らげてしまった。
「狩ったばかりだから、新鮮だったねぇ。」
食事を終えて大きくため息をつくと、クレアも満足げにお腹をさすっている。
だが、ちゃんとした料理が恋しくなるのは、わたしだけだろうか。
トゥウランの街を出て早5日……本来ならとっくにゼルケイに着いていたはずなのに、いまだに森の中でサバイバルを繰り返している。
「クレア……ゼルケイの街まであとどれくらいかな。」
そう尋ねると、クレアは上に視線を泳がせた。
「う〜ん……多分だけどあと1日くらい?そもそも、この辺はよく来るんだけど、街までどれくらいかは調べたことないんだよね!」
クレアはそう言って笑っているが、わたしはがっくりと首を項垂れた。
あと1日もかかるのか……。
その間は、美味しいご飯も食べられなければ、お風呂にも入れない。
まるで拷問のような時間が、あと1日も……。
「でも、魔物と戦えるから良い修行になるよね!」
目の前では、Aランク冒険者が脳天気に笑っている。
それを見て、わたしが大きなため息をついたその時だった。
わたしの耳に悲鳴が聞こえてきたのは。
突然立ち上がったわたしに驚くクレア。
だが、今はそれどころではない。
わたしは目を閉じて両耳を素早く動かし、悲鳴の聞こえた方向を確認する。
「どうしたの!?」
「悲鳴が……誰かが襲われてる!」
「悲鳴……?そんなの聞こえた?」
「わたしは兎人族だから……耳は良い。」
なるほどと納得するクレアをよそに、わたしの耳は再び声を捉えた。
「女の子……それと……無数の男……?!こっち……!」
「ちょ……パルト!?」
捉えた位置はここからそう遠くはない。
わたしが突然駆け出したのでクレアは驚いていたようだが、すぐに後ろをついて来ていることがわかった。
「まっひぇよぉ(まってよぉ)〜!!」
残りの肉を頬張ったまま叫んでいる声が、後ろから聞こえたことが何よりの証拠だろう。
わたしたちは、全速力で声の聞こえた場所を目指した。
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多くの木々が生い茂る森の中。
木の枝から枝へと、わたしは軽快に駆けていく。
チラリと下に目を向けると、クレアがわたしを見上げながらついて来る様子が窺えた。
「パルト、この先!?」
「もうすぐ……!この先は開けた場所に出るみたい!そこにいる!」
拾い上げた声の音が、突然薄くなったことには気づいていた。
おそらく、それが意味するのは、対象が森の中から外に出たということ。
音を反射する遮蔽物が、周りに無くなったのだ。
視線を向けると、森の先に光の壁が見える。
おそらく、あの先は木々がない広い場所になっているはずだ。
『推測のとおり、この先は平原のようです。少女が1人、男4人に追いかけられています。』
ガイドさんが告げる位置が、わたしの予想とおおよそ合致した。
そのまま森を飛び出し、地面に着地すると同時に勢いを殺さずに前転。
受け身をとって起き上がると、目の前にはかなり広い平原が顔を出す。
そして、十数メートル先に追われる少女と追う男どもの姿を捉えた。
「クレア!」
「OK!!」
クレアに声をかけると同時に、わたしは【駿歩】で一気に距離を詰める。
そして、一瞬で少女の下へ舞い降り、彼女の体を担ぎ上げてその場を離脱。
「な……なんだ……!?」
突然のことに困惑したのは男たちだ。
豆鉄砲を食らった鳩のような顔を浮かべ、その場で急停止する。
だが、そのうちの1人は意外と冷静で、すぐにわたしに向けてスキルを発動しようとした。
だが……
「ぐあ……!」
その男の体が吹き飛び、呻き声が響く。
今度は何事かと残りの3人が振り向くと、そこにいたのは美しい赤毛の女冒険者。
その美貌に、一瞬だけ3人は気を取られたようだ。
誰がどう見てもわかるほど、隙だらけになっている。
「いじめは……良くないよね〜!」
クレアは愉悦を浮かべて、そんな3人に突進する。
彼女が猛進する様子は、男たちにとっては恐怖以外の何ものでもなかっただろう。
わたしが心の中でご愁傷様と呟くと、同時に3人の男がクレアの一振りで吹き飛んだ。
呻き声だけをその場に残して。
「あれ〜!?もう終わり!?根性ないなぁ!」
あまりの手応えの無さに、クレアはプンスカと足踏みしている。
だが、わたしからすれば笑いながらスキル一振りで数人を吹き飛ばすクレア自体、もはや魔王なのではないかと感じられるほどだった。
吹き飛んだ4人以外に、周りには誰もいない……か。
他に危険はないかと、少女を背負ったまま辺りを見回す。
『周辺には敵の姿、反応はないようです。』
ガイドさんもそれに同意してくれたので、安心して少女を地面に下ろした。
「大丈夫……?」
少女はフードを被っているので、表情はわからない。
だが、彼女は小さくこくりと頷いた。
この少女は一体何者なんでしょうか。
追われる理由とは?
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




