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73 お風呂 in ゼルケイ

暴漢らしき男たちに襲われていた少女を助けたパルトたち。

少女に優しく声をかけますが…

「大丈夫そうで何よりだね!」



駆け寄って来たクレアがそう笑った。


わたしも少女が無事とわかって安堵した。


しかし、同時に疑問も浮かぶ。


なぜこんなところで、男たちに追われていたのだろうか。


街からも離れたこんな人気のないところで、追われていた理由……。



おそらく、そこには深刻な理由があるのだと推察できた。



『奴隷にしては身なりは綺麗かと……。』



ガイドさんの言葉に、わたしも内心で賛同する。


奴隷なら、もっとボロボロの服を着せられている場合が多い。


だが、この少女の場合、そこまで酷くはないのだ。


おそらくは身寄りのない孤児とか……そっちの方が当てはまる気がした。


だが、そんな野暮なことを今聞く必要はない。


わたしは膝を折り、少女と目線を合わせると、優しく微笑みかけた。



「もう安心していいよ。あなたはどこから来たの?」


「……ゼルケイ。」



その声は小さくて、とてもか細く、震えている。


その声を聞いたわたしは、一瞬だけ弟のポルンのことを思い出し、気持ちが暗くなった。


弟は……ポルンはこの世にいないのだ。


ミッドウェルのせいで……。



だが、ここで、落ち込むわけにもいかない。


小さくため息をついて気持ちを切り替えると、落ちていた視線を再び少女へと戻した。



「ゼルケイなら、わたしたちも向かっているの。一緒に帰る……?」


「ゼルケイに……?」



少女は少しだけ顔を上げた。


その瞬間、フードの奥で2つの双眸が光った気がした。


小さく幼い顔立ちが少しだけ見え隠れする。



「お姉ちゃんたち……もしかして冒険者……?」



少し震えが残る声で、少女はわたしたちにそう問いかけた。



「そうだよ。トゥウランから来たの。これからゼルケイの街に……」



だが、そこまで言いかけた途端、少女は急に血が上ったように声を荒げた。



「お前たちもダンジョン狙いの冒険者だな!!」



勢いよく飛び上がった拍子に、少女のフードがハラリと落ちる。


そして、現れたのは栗色の髪の毛から可愛らしく顔を出す猫耳と、ぱっちりとしたつぶらな瞳。


少女は猫人族であった。



「あれはお姉ちゃんが見つけたんだ!それなのに……それなのに……!!」


「ちょ……待って……!何か勘違いして……」


「うるさい!」



まったく聞く耳を持たない少女は、取り出した丸い玉を地面へと投げつけた。


その玉は地面に当たると同時に、モクモクと白い煙を撒き散らし、一瞬で辺りを包み込んだ。



『煙玉です。害はありません。』



口を塞ぐわたしを、ガイドさんがとっさにフォローする。


だが、すでに少女の姿はどこにも見当たらない。


得意の聴力で音を追おうとしても、煙が音を吸い込んでいるのか、何も聞くことはできなかった。



「パルト……!大丈夫……?」


「うん……毒ではないみたい。」



煙を掻き分けてやって来たクレアが、わたしの言葉に頷いた。


クレアはすぐに問題ないと判断したらしい。


そういう直感的なところは、本当にすごいなと思う。


さすがはAランク冒険者であると、わたしは感心させられた。



「私が追っても良かったんだけど……」



そう溢すクレアだが、どうやら私を心配してこっちに来てくれたらしい。


その配慮がわかって、わたしは嬉しくなった。



「しっかし、あの猫人族の子……いったい何なんだろうね。」


「わからない。ダンジョン狙いの冒険者……って言ってたけど……。」


「ダンジョンかぁ……この街にも出たのかなぁ?」



クレアは何やら思案するように腕を組んだ。


ダンジョンについて、何か知っているようだ。


反対に、わたしは父から教えられたことがあるだけなので、どんなものなのかは実際にはわからない。



「ダンジョンって、自然発生する迷宮のことだよね。」


「そうだよ。その原理はよくわからないけど、突然現れる迷路のようなもの。それがダンジョン!」



楽しげに笑うクレアをよそに、わたしは父の話を思い出していた。



ダンジョンとは、ある場所に集まった魔力が変質し、形を変えて空間を生成することでできると言われている。


できる場所も様々で、物質があるところにはどこにでも生成されるらしく、これまでにも地下や空の上、海の中にもその存在が確認されているらしい。


中には、都市のど真ん中に突然現れたこともあるとか……。


だが、その原理はいまだに解明されていない。


どうして魔力が溜まるのか。


どうして魔力が変質するのか。


なぜ空間が造り上げられるのか。


そして、その起因は何なのか……。



その研究には、長年に渡って様々な者たちが力を注いでいる。



「あの子……お姉さんがダンジョンを見つけたとか言ってたね。」


「そうなの?全然聞いてなかった!」



てへぺろと舌を出すクレアに呆れつつ、あの少女が言っていた言葉を思い出す。



ーーーあれは、自分の姉が見つけたダンジョンだ。



そう豪語したあの表情には、何かに対する怒りが含まれていた。


だが、今となっては、それについて聞くことは叶わない。



「…………。クレア……先を急ごう。」


「ん……!」



得体の知れない感覚……これを胸騒ぎと呼ぶのだろうか。


そんな感覚を胸に抱きながらわたしがそう促すと、クレアも賛成するようにニカリと笑った。



◆



猫人族の少女の救出劇から半日程度。


わたしとクレアは、ゼルケイの街へたどり着いていた。


思った以上に近くまで来ていたことには驚いたものの、何にせよ、これでお風呂には入れるし、ちゃんとしたご飯にもありつくことができる。


そう思うと、嬉しさが込み上げてきた。



街へ入る手続きは、トゥウランと一緒だ。


街には城壁が聳え立ち、ところどころに門が点在する。


そこにいる門兵に対し、通行するための証明書を提示する。


もしくは、決められた額の税を支払う。


そのどちらかを選択し、問題なければ通してもらうことができる。


もちろん、わたしたちは冒険者なので冒険者カードを提示するだけで通ることができた。


ただ、わたしが見せたEランクのカードを門兵の1人ががバカにし、それに怒ったクレアが暴れそうになったのを止めつつ、クレアのカードを見た門兵が腰を抜かす……


とまぁ、情報量たっぷりの入城となったことは余談である。




「さぁ!まずは宿探しだね!」



街へ入ると、まるで先導者のように特に何もない先に人差し指を向けるクレア。


彼女はAランク冒険者で、よく遠征にも行っていたようなので、どうやら宿屋には当てがあるようだ。


少し心配だが、わたしは彼女に任せてみることにした。



・

・



「ここにしよう!」



クレアが選んだのは、質素な装いの小さな宿屋だった。


もっとこう仰々しいものを想像していたわたしとしては、何とも拍子抜けと言うか……。


だが、わたしの反応を見て察したのか、クレアは少し自慢げな笑みを溢した。



「パルト……見た目で判断するのは良くないよ。」



何かに勝ち誇ったようなその笑みを見て、逆に不安になるのはわたしだけだろうか。


この宿屋に何が待ち受けているのか……。


クレアに続いて恐る恐る建物へと入り、受付にて手続きを済ませ、部屋の鍵を受け取る。


番号からするに、部屋はクレアと隣同士。


さっそく部屋に行こうとクレアに言われて、わたしは手を引かれるままに客室棟へと足を運んだ。



クレアとは一度部屋の前で別れることにして、わたしは自分の部屋へと足を踏み入れた。


中に入ってみると、部屋自体はベッドと小さな棚が置かれている簡易的な造りてあることがわかった。


トゥウランで拠点にしていた宿屋と、さほど変わらない感じだ。


だが、ただ一つ違うのは部屋の奥に備え付けられているある設備。


わたしはそれを見て、感嘆を漏らした。



「お……お風呂付き……」



大抵、宿屋にお風呂が付くことはない。


帝国の中心である帝都には、そういった豪華な宿屋が存在するらしいが、それは貴族が集まる国の中心部ならではのこと。


それ以外の街において、お風呂が付いている宿屋などほとんど見かけることはない。


もしあったとしても、共同浴場が隣接しているのが堰の山だろう。


クレアは道中でそう教えてくれた。



それなのに……!



この部屋にはプライベートのお風呂が付いている。


広いわけではないが、1人で入るには十分な大きさ。


十分満足できるレベルであった。


だが、同時に宿泊料金が気になった。


帝都以外には存在しないはずの風呂付き宿。


しかも、客室にはプライベートのお風呂付き……。


お風呂だけに特化するならば、その点については最上級とも言えるだろう。


なら、その料金も自ずと高くなるはず……。



わたしの中で、次第に不安が膨らみ始めていた。



「パルト……!驚いた!?」



突然開くドア。


そこから飛び出したクレアに驚いたわたしは、その場で飛び上がった。



「ク……クレア!ノックくらい……する!」


「あ……ごめんごめん!なんか楽しくてさぁ!1人じゃない旅なんて久しぶりで……!」



さすがに悪いと思ったのか。


クレアはポリポリと頭を掻きつつ謝罪する。


それはさておき、どうしたのかと尋ねると、彼女は温泉へ行こうと提案してきた。



「え……でも、部屋にお風呂あるよ?」


「これはこれだよ!寝る前にゆっくり入るとかすればいいの!それよりも温泉!温泉に行こう!」



温泉があるのか……!!



わたしの目に映った好奇心を、クレアは見逃さなかった。


そのまま腕を引かれ、わたしはクレアとともに温泉を目指すことになった。

猫人族の少女はいったいなぜ追われていたのか。

それも大事ですが、やっぱりお風呂も大切なのです!!


今回もご愛読いただき、ありがとうございました!

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