70 強さを求めて
お待たせいたしました。
今日から第三章が始動します!
師匠の仇、ミッドウェルを殺すためにトゥウランの街を後にしたパルト。Aランク冒険者クレアが強制的に同行を始めてしまいますが、王国を目指し、まずはゼルケイの街を目指します。
まずは、その道中の場面から。
よろしくお願いします。
「パルト!左から来るブラッディウルフ3匹!よろ!」
そう言い放つと、クレアは反対側から飛び出してきたブラッディウルフの群れに自ら飛び込んでいった。
「ちょ……!クレア!」
突然の指示に困惑するが、クレアはすでに戦いの中。
呼んだところで返事をするわけがなく……わたしは大きなため息をついた。
しかし、剣を振る度に魔物たちが千切れては吹き飛んでいく光景は、爽快……とも言えなかった。
クレアの戦い方は、一言で例えるなら"獅子奮迅"。
獣が暴れるような動きで、魔物たちを軽々と屠っていく。
その血飛沫の中を、赤い髪と真紅の剣が流麗に舞う様は、小さなレッドドラゴンが暴れているようにも見える。
加えて、その顔には笑みが……。
これがAランク冒険者か……。
それともクレアが特別なのか……。
その答えは見つかるはずもない。
そんな感想を持ちつつ、わたしはわたしで左手から来るブラッディウルフたちに集中した。
3匹とはいえ、こいつらの連携は面倒くさい。
兎人族であるわたしは、狼型の魔物の厄介さはよくわかっている。
1匹が死角から飛びかかり、それをかわして攻撃しようとしても、他の奴らが牽制して相手に攻撃をさせない。
互いの距離を把握し合いながら、攻撃と防御を行う連携力は、ランクの低い冒険者なら苦戦を強いられることも少なくない。
だが、わたしはこんなところで足踏みするわけにはいかないのだ。
『一気に肩をつけましょう。』
(だね!!)
ガイドさんの言葉に同意して、魔力を全身に巡らせた。
「スキル【駿影】!!!」
兎人族ならではの脚力に、魔力による身体強化を上乗せ。
爆発的にブラッディウルフの周りを駆け回る。
もちろん、風術スキルによって構築された足場……【空歩】で立体的に飛び回った。
その動きに翻弄されたブラッディウルフたちの動きが、一瞬止まる。
その隙を見落とさず、瞬時に斬りかかった。
「はぁぁぁぁ!!!」
流れるような素早い連撃を繰り出せば、奴らの首がストンと地面に転がり、血飛沫を上げた。
その様子を背に、自分の勢いを殺しながら砂埃を上げて滑り止まると、わたしは刀を鞘に納めながら立ち上がった。
「ふぅ……」
『お疲れ様でした。』
ガイドさんからの労いを受けつつ、倒したブラッディウルフへと視線を向ける。
本当は死ななくてもよかった魔物たちの亡骸に、わたしはお悔やみ申し上げた。
トゥウランの街からゼルケイの街までは、街道がちゃんと整備されている。
帝国内は物流も盛んに行われているため、街を繋ぐ街道の整備は必須だったからだ。
だから、本来ならその街道をずっと進めば、ゼルケイの街へ3日で着くはずだった。
なのに、それをクレアが「修行しよ!」とか言い初めて、横道に逸れることになったのだ。
さすがに街道を外れると、魔物との遭遇率も高くなるわけで、ここまで何度も魔物たちに襲われては迎撃を繰り返して今に至る……というわけだ。
『トゥウランの街を出て、すでに5日です。』
ガイドさんの言うとおり、完全に予定は狂いまくっていた。
突然、横から手を叩く音が聞こえてきたので、そちらに視線を移せば、全ての魔物を斬り伏せたクレアが、拍手しながら歩み寄って来る。
「やっぱりすごいなぁ!その動き!!」
「そんなこと……ない。クレアの方がすごいよ……。」
わたしからすれば、一振りで何匹もの魔物を屠るクレアの方がすごいんだが……。
内心でそう思っていたが、意外にもクレアはわたしの称賛に対して謙遜を隠さない。
「いやいや!わたしなんか全然だって!パルトみたいに考えて動いてないからね!」
あれで……何も考えてないの……?
わたしはそう思った。
ガイドさんも言っていたが、クレアの戦闘センスは天性のものだ。
敵の位置を瞬時に把握し、奴らが次にどう動くかを予測する。
そして、体の動きを最小限に抑えながら、効率よく斬り伏せていく。
それも、笑いながら……。
そんなこと、わたしには絶対にできない。
わたしは、ガイドさんから言われた動きを、ただトレースしているだけだから。
『そんなことはありません。それができるのは、あなたに実力があるからです。悲観されずとも良いかと思います。』
ガイドさんの励ましは嬉しい。
わたしは落ち込む気持ちを何とか持ち上げた。
『そもそも、クレアはあれだけの動きをほとんど反射的に行っています。経験とセンス……それだけであの動きをしているので、参考にはなりません。』
その言葉、大いに正しい。
その通り、クレアの動きは全く参考にはならない。
本当に同じ師匠から基礎を学んだのかと疑うくらい、動きも考え方も常軌を逸脱している。
わたしから見れば、彼女は完全に化け物。
だから、彼女と同じ土俵で物事を考えてはいけない。
考えたところで、それは意味を為さない……。
クレアとの旅を始めてから、わたしはそう考えるようにしていた。
「なら、ゼルケイ目指して突き進もう!」
わたしよりも7つ歳上のクレアだが、その性格は自由奔放で子供っぽい。
気になったことには何でも首を突っ込むし、自分の気持ちには素直に従う。
そして、魔物を見ればすぐに斬りかかる……。
アナスタシアの方が断然大人びていてお姉さんだった……。
地面に突き刺していた剣を突き上げ、満足げに進む方を指し示す彼女の様子を見て、わたしは小さくため息をついた。
そのまま、薄暗い森の中を突き進んでいくと、森を抜けて目の前に小さな小川が現れた。
「お!川だ!」
クレアは小川を見るや否や嬉しそうに笑うと、ブーツと靴下を脱ぎ捨てて、そのまま川へと駆け込んで行った。
「パルト〜!気持ちいいからおいで〜!」
川の中心では、クレアが楽しそうに手招きしている。
この小川はクレアの膝下ほどの深さのようで、流れもゆったりしている。
川幅はさほど広くなく、川根も近いため、休憩にはもってこいかもしれないなと思った。
だが、ゼルケイの街に早く着きたいと思ってもいる。
クレアのせい……とは言うつもりはないが、予定よりも2日ほど遅れてしまっていることが、わたしの気持ちを逸らせた。
だが、わたしが小さくため息をつくと、ガイドさんの声が響く。
『休息も必要ですよ。』
それもそうだと思ったわたしは、クレアに続いた。
「綺麗な川だねぇ〜!」
キャッキャと笑い、楽しそうに水と戯れるクレア。
さらさらと流れる川面が太陽の光を反射して、キラキラとクレアを飾る。
この光景を男たちが見たら、地上に舞い降りた天使が遊んでいるように見えるかもしれないな……。
そんなことを考えていると、爽やかな風が体を包み込み、とても心地が良くなる。
風がどこからきたのかと顔を向けると、雄大な山の緑と空の青のコントラストがとても美しかった。
「クレア……お昼にしよう。」
ふと、本音が溢れると、クレアがすぐに賛同してくれる。
「お!いいね!さっきのブラッディウルフの肉があるから、それにしよ!」
わたしの提案に、クレアはすぐさま賛同。
水飛沫を飛ばしながら川辺まで駆け上がると、適当な石を組み始めた。
おそらくはフライパン代わりにするのだろう。
そうなると……
「肉は切っておくから、パルトは薪よろ!」
その指示は想定通り。
わたしはその言葉に手を挙げて応え、反対側の森へと引き返した。
木々の間を歩き、できるだけ乾燥しているものを探しながら、適度な長さの木の枝を見つけては拾う。
その動作を繰り返しながら、わたしはふとある事を考えていた。
強さとは一体何なのか……。
師匠と出会った時から考えてみても、数段に強くなっている……と思う。
その理由のひとつに、これまでの旅の中で、わたしは魔物や強敵と戦いながらいくつかの力を手に入れた。
だが、それらをちゃんと把握できていないことは事実で、しかも使いこなせていないものが多い。
結果として、戦う場面では使うスキルが限られて、攻撃が単調になっている気がするのだ。
例えば、【カマイタチ(烈風刃斬)】は複数の風の刃を放つことができるスキルで、殺傷力は高い。
【駿影】と組み合わせるとより効果的で、わたしはこれをよく多用している。
だが、魔物相手なら何とかなるこのスキルたちも、エルバやスラックのような強者が相手だと話は違った。
あの2人との戦闘では苦戦を強いられたことは事実であり、下手をすれば、わたしはあそこで死んでいたかもしれない。
それはわたしの実力不足であることは否めないが、戦いの組み立て方についても、もっと考えていかなければならない。
そう考えると、自分の今の状況を把握することは優先事項であると感じずにはいられなかった。
『それなら、一度自身のスキルについて、おさらいをしてみてはいかがでしょう。』
その提案は、わたしに安堵と自信をもたらしてくれる。
ガイドさんは、わたしにとってかけがえのない存在となっていた。
ガイドさんの提案に、わたしは薪拾いを続けながら頷いた。
クレアの強さがやばすぎますが、それよりも何よりも笑いながら屠っていく姿が……w
しかし、彼女は美人なんですよね〜。
今回もご愛読いただき、ありがとうございました。
次回はスキルのおさらいですが、その内容の中には……




