62 ワイバーン強襲
今回の舞台はトゥウランの街です。
混乱に乗じて街へと向かうワイバーン。
果たして、街は守られるのか。
「ワイバーンが1匹、街に近づいてきている!?」
Fランク冒険者からの報告を受けたリプリーは、勢い余って座っていた椅子を倒してしまった。
だが、今それを直している暇はない。
リプリーは、Fランク冒険者に対してすぐに指示を出す。
「至急、パルトさんとアナスタシアさんに連絡を!それ以外の冒険者たちは、今すぐ城壁前に集合するように伝達を!!」
「は……はい!!」
リプリーの勢いに気圧されたFランク冒険者は、緊張を浮かべたまま急いで走り出すと、近くにいた仲間にも指示を出し始めた。
リプリーは、次にギルドの職員たちに指示を出す。
「職員全員で住民の皆さんの避難を行います!ホウレン家との連絡はいまだに取れませんが、契約に基づき、屋敷付近を避難場所として開設し、そこへ誘導してください!」
有事の際、街を管理している貴族の敷地へ避難できること、並びに貴族はそれを受け入れ、必要な物資を民へ提供することが約束されている。
これは、各都市を管理するために帝国皇室がギルド協会と協議して定めたルールのひとつである。
帝国とギルド協会は、本来対等な関係だ。
だからこそ、ギルドも帝国もお互いに言いなりになることはないが、そもそもこの両者は民が居てこそ成り立っている。
双方において、それは不変の真理であり、だからこそギルドも帝国も民を守るために動いているわけだ。
リプリーの言葉に、ギルド職員たちは大きく返事をすると、すぐに行動に移っていった。
(よし……あとは、この街に現在残っている冒険者の把握を……)
リプリーは、手元にあるリストに目を落とす。
ワイバーンがこちらに来たということは、前線の状況は思わしくないということになる。
あれだけの人数の冒険者を投入しているにも関わらず、ワイバーンがこちらに来ているのだから、おそらくそれは間違いない。
だとすれば、前線からの援軍は見込めない。
現在の戦力で、ワイバーンを倒さなければならないわけだ。
だが、この街に所属しているほとんどの冒険者たちが、前線となる草原へと出向いている。
現在、この街に残っている冒険者は、Fランク以下しかいない。
そんな状況で、ワイバーンをどう迎え討つのか。
1匹とはいえ、Dランクの魔物であるワイバーンの力は驚異的だった。
(パルトさんとアナスタシアさんが戻れば……あるいは……)
あの2人を、別の依頼に行かせたことが悔やまれる。
完全に自分の采配ミスだと、リプリーは悔やんでいた。
2人ともEランクで新人ではある。
だが、試験とはいえ、Dランクのゴズルに勝っている。
その実力は、本来ならばDランクでも遜色はないはずなのだ。
だが、悔やんでいても状況が良くなるわけではない。
2人が戻ることを祈りつつ、現時点で最大限できることを実行しなければ。
リプリーはそう考えて、前を向く。
そして、リストを握り締め、冒険者の招集場所である城壁へと急いだ。
◆
スラックがパルトの一撃を受ける少し前。
エルバは手元の水晶に映る映像を見て、1人で楽しんでいた。
水晶には複数の映像が映し出されており、それぞれが一人称視点……要するに何かが見ている映像が展開されている。
そのひとつひとつには、草原で戦う冒険者たちの姿があり、見ている何かに向かって挑んでくる者もいる。
エルバはそれらを見ながら、ニヤリと笑った。
(うまく前線を抜け出せたぁ〜!このまま、こいつは街に向かわせようっと……!)
ひとつだけ……冒険者たちとは戦わず、ただひたすら街道の上を飛ぶ映像がある。
エルバが今まさに注視しているのは、それ。
混乱に乗じて前線を抜け出した、1匹のワイバーンの視点であった。
トゥウランの街の冒険者たちのほとんどは、あの草原に集結している。
その情報は、ワメキアからも聞いていた。
ということは、今のトゥウランの街には、ほとんど冒険者はいないわけで、そこにワイバーンを1匹でも送り込めれば、もっと混乱させられる。
エルバはそう考えていたのである。
(パルトちゃんともまた会えたし、ワイバーンも上手く街へ仕向けられそう……。わたしって運がいいなぁ〜アハッ!)
エルバは自分の運の良さに笑みを深めた。
そのパルトとスラックの戦いも、もうすぐ終わりそうだ。
スラックが【ウルカヌス(怒る神の砲台)】を撃つとは思っていなかったけど、もう1人の冒険者はその攻撃を受けて沈黙した。
パルトはうまく避けたみたいだが、スラックが本気になっているなら、この勝負ももうすぐ終わるだろう。
そう確信していた。
(……できれば、パルトちゃんには死んでほしくないけどなぁ……。)
エルバはそう思ったが、それだけだ。
あくまでも興味本位で考えただけのこと。
再び、映像へと視線を落とすと、少し離れたところに街の外郭が見えてきた。
ワメキアからの情報によれば、あそこには防衛用の砲台が備え付けられているはずだ。
それをかわすか壊して、ワイバーンを街に侵入させれば、エルバの役目もほぼ終わる。
(ククク……笑いが止まらない。終わったら、宝玉取ってボスのところに早く帰ろっと。)
口角が自然と上がる。
エルバは楽しげに映像を眺めていた。
◆
城壁付近で待機していた冒険者たちを招集し、幾ばくかの時間が経った頃、監視員の声が響いた。
「約2kmほど先に、ワイバーンを確認!!」
リプリーたちな街道沿いの上空を見ると、1匹のワイバーンがゆっくりとこちらへ向かってくる様子が窺えた。
緑がかった黒い鱗と翼。
この距離からでも、その大きさがよくわかるほどの体躯。
リプリーはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らした。
だが、怯んでいる暇はない。
ここが……自分たちがこの街にとっての最後の要なのだから、絶対に死守せねば。
ギルマスが不在の中、自分がしっかりしなくてはと、リプリーは覚悟を決めた。
「よく引きつけてからお願いします!」
リプリーがそう告げると、砲術長はこくりと頷いたのち、ワイバーンの動向を観察し始めた。
そして、500mほどの距離まで近づいたことを確認すると、砲術長は声を上げる。
「砲手……てぇぇぇ!!」
砲術長の指示のもと、城壁の上から放たれる砲弾。
激しい衝撃を残して飛んでいく鉛の弾は、街に向かって飛んでくるワイバーンを狙って放たれた。
だが、その砲弾はいとも簡単に避けられてしまった。
「くそ……!次弾の装填を急げ!!」
撃ち終えた砲台では、次の弾を装填するよう指示が飛ぶ。
その間に、他の砲台からも同じように鉛の弾がワイバーンへと撃ち出されるが、やはり簡単にかわされる。
「冒険者の皆さん、スキルの準備を……!!」
リプリーの指示に、Fランク冒険者たちが魔力を練り始めた。
リプリー自身は、砲弾が当たるとは思っていない。
むしろ、これでワイバーンの足止めをしている間に、冒険者たちのスキルをぶつけ、落ちたところを一気に討ち取る……。
そう考えていたわけだ。
「砲手……てぇぇぇ!!!」
かなり近づいてきたワイバーンに向けて、再び砲弾が放たれた。
それに合わせて、リプリーも冒険者たちへ指示を送る。
「スキル、放てぇぇぇ!!」
リプリーの掛け声で、冒険者たちが一斉にスキルを放つ。
砲弾をかわすために、ワイバーンの動きは制限される。
そこにありったけのスキルを撃ち込めば勝機はある。
リプリーはそう思っていた。
もしかすると、このワイバーンが野生の個体であれば、その作戦も効果的だったかもしれない。
しかし、このワイバーンはエルバが操作している個体。
リプリーがそれを知ることはないが、その事実は彼女たちにとって言葉どおり想定外であった。
空中で大きな体を器用に旋回させ、ワイバーンは全ての攻撃を難なくかわす。
そして、御礼だと言わんばかりに城壁へ向けて【エアスラッシュ(風刃)】を放った。
「きゃぁぁぁ!!」
「ぐわぁぁぁ!!」
いくつもの風の刃が城壁へ着弾し、砲台や壁を吹き飛ばすと、近くにいた冒険者や砲手たちもそれに巻き込まれ、何人かが城壁から落ちていった。
リプリーは何とか直撃を免れ、壁際で必死に捕まっていたが、その頭上を大きな影が超えていくのが見えた。
「し……しまった……!!」
しかし、そう思った時にはすでに遅く、ワイバーンは街の中へと飛び立って行く姿が見えた。
リプリーはどうにか追いかけなくてはと思い、周りを見渡したが、ほとんどの冒険者たちが戦意を喪失してしまっている状態だ。
(これは……まずい……!!)
リプリーは何とか立ち上がると、そのまま駆け出していた。
こうなれば、彼に……Dランク冒険者のゴズルに何としても戦ってもらうしかない。
彼がトラウマを乗り越えて、ワイバーンと戦ってくれることを信じるしかない。
そう祈りながら、彼女は城壁の階段を一気に駆け降りるのであった。
今回もご愛読いただき、ありがとうございました。
ついにワイバーンの侵入を許してしまいました。
このままでは住民たちにも被害が出てしまいます。
頼みの綱はゴズル、、、
彼はトラウマを…過去を乗り越えられるのでしょうか!




