59 機能改修工事
ガイドさんからの提案。
いったいどんな打開策があるんでしょうか!
頭の中が真っ白に染まる。
そして、なぜかその白い世界にわたしは居た。
ふと、何かが頭から吸い取られる感覚をわたしは覚える。
『個体名パルトより、機能改修に必要な熟練度の譲渡を確認しました。これにより【ガイド(深慮遠謀)】の熟練度が一定レベルに達したため、機能改修を実施します。』
そう告げるガイドさんに対して、聞きたいことは山ほどあるが、意識がはっきりせず為されるがままだ。
『スキル【オブザベーション(観察)】の改修を開始します。』
ガイドさんの声が響くと、突然頭の中にいくつかの言葉が浮かんできた。
『【オブザベーション(観察)】を媒体として、新たにスキル【アナライシス(分析)】を獲得しました。さらにスキル【アナライズ(解析)】を獲得。スキル【オブザベーション(観察)】の消失を確認。』
知らない言葉たちが、次々に頭に浮かんでは消えていく。
『続けて、スキル【アプライザル(鑑定)】を獲得。これにより、スキル【スペキュレーション(推測)】を媒体として、スキル【ジャッジメント(判定)】を獲得しました。』
今までとは違い、ガイドさんの声色は少し無機質に聞こえた。
それに少々戸惑いもするが、真っ白な頭の中で何かが書き加えられていく感覚に意識が奪われてしまい、それどころではない。
そうして、1分も経たないうちに、ガイドさんから終了を告げられた。
『スキル【ガイド(深慮遠謀)】の機能改修に成功しました。獲得したスキルは個体名パルトの判断で使用可能です。』
(や……やっと終わった……長かった……。)
『それほど時間はかかっておりません。ものの数秒程度のことです。』
そう言われても、わたしにはかなり長い時間に感じられたのだから仕方がない。
この感覚はあまり好きじゃないなと思いつつ、小さくため息をついた。
……が、まだ自分が真っ白な世界にいることに気づいた。
(……てか、わたし今どこにいるの!?)
『ここはあなたの意識の世界です。』
(で……でも、目の前に敵がいるのに……!?こんなことしてて大丈夫……!?)
『問題ありません。【思考加速】を数段高いレベルで発現させていますので、外の世界はまだ1秒も経っていない状態です。』
なんだそれは……。
まさに反則技じゃないか……。
少し唖然としたが、わたしはふとあることに気づく。
(そんな反則技が使えるなら、敵の意識外から攻撃も可能なんじゃないの?)
思考を加速させることで、体感時間を引き延ばせるなら、その間に敵を倒せるのではないか。
わたしはそう考えたが、その推察はガイドさんに簡単に否定されてしまう。
『それは不可能です。確かに【思考加速】とは、体感時間を引き延ばすことはできます。ですが、あくまでも思考時間のみを何倍にも延長するものです。体自体が【思考加速】と同じ速度で動けるようになるわけではありません。』
(なるほど……考える時間が増えたってことだね。)
『その通りです。理解が早くて助かります。』
またそんな言い方をする……。
相変わらず皮肉っぽいガイドさんに対して、わたしは内心で愚痴を溢した。
『ところで……まもなく【思考加速】の効果が切れます。準備はよろしいですか?』
(え……?)
『まもなくスキルの効果が終わり、元の体感時間へと戻ります。あとは獲得したスキルを使い、目の前の敵を倒してください。』
ガイドさんの言葉のとおり、思考加速の世界である白の世界が徐々に崩れ始めた。
それはスキル【思考加速】の効果が切れることを意味するらしい。
しかし、新たに得たスキルを使えと言われても、ガイドさんの言葉は速過ぎて聞き取れなかったのに、そんな状況でどうすればいいのだろうか。
そんなわたしの思考を察して、ガイドさんは助け舟を出してくれる。
『まずは、スキル【アナライシス(分析)】を使ってください。あとはこちらで行います。』
(それだけ……でいいの!?)
『はい。それだけで。それがわたしの役割です。それと……』
そんなことでいいなら簡単だ。
わたしは胸を撫で下ろして安堵する。
だが、ガイドさんの次の言葉には耳を疑った。
『それと【思考加速】の効果が切れると、三半規管に負担がかかり、目眩と吐き気を催す可能性があります。備えてください。』
(は……?)
『それでは……』
ガイドさんはそれだけ言い残して喋らなくなった。
混乱している思考とは裏腹に、白い世界がゆっくりと崩壊し、最後にわたしはブラックアウトした。
・
・
「はっ……!」
唐突な目覚め。
視界が急に元に戻る感覚には、さすがに頭が混乱した。
だが、それよりも何よりも、突然襲いかかってきた浮遊感と激しい吐き気。
わたしはついつい下を向いてしまった。
「おぇぇぇぇ……」
「パ……パルト!?」
私が突然吐いたので、アナスタシアは心配して近寄ってきてくれた。
落ち着かせようと、背中を優しくさすってくれるその手が温かい。
だが、それに甘えている暇はない。
わたしが【思考加速】を使う前、スラックは次の攻撃へと転じようとしていた。
隙を見せれば、一気に畳み掛けてくるだろう。
わたしは吐き気をなんとか抑え込み、スラックを向く。
「クソどもが……」
案の定、スラックは大きな両手を振り翳そうとする。
だが、わたしはそれを好機と捉えていた。
確かに巨人化したことで、スラックの防御力と攻撃力は手に負えないほど向上している。
だが、そのせいで奴のスピードは格段に落ちているわけだ。
最初の身軽な姿なら、今の一瞬で殺されていたかもしれないが、今のスピードならわたしたちにも勝機はあるはず。
いつしか、そんなポジティブな思考が頭を巡っていた。
「【アナライシス(分析)】……」
ガイドさんに言われたとおり、わたしは獲得したスキルのうちの1つである【アナライシス(分析)】を発動する。
すると、視界に大小無数の円が現れ、膨張伸縮を繰り返しながらスラックの姿を捉えた。
何……この円……!?
初めて見る……というか初めての体験に驚いていると、ガイドさんが待ってましたとばかりに行動を開始する。
『【アナライシス(分析)】の発動を確認しました。スキル【アナライズ(解析)】を開始します。』
わたしが【アナライシス(分析)】を唱えたことを確認したガイドさんは、言っていたとおりに何やら始めたようだ。
ガイドさんの言葉に合わせて、大小無数の円がスラックを捉え、無数の情報を表示していく。
そして、その情報をガイドさんが受け取り、片っ端から解析しているようだ。
だが、その解析の精度には驚かされた。
『個体名スラック。種族不明はドワーフ族。性別は男。使用スキルは火術、土術、鉄鉱術。体に纏っているのは、火術と土術の合成スキルである鉄鉱術で構成された鎧。』
見ただけで、種族や使えるスキルまでわかるなんて、そんなの反則技じゃないだろうか。
率直にそう感じさせられた。
完全にスラックのことを丸裸にしていく【アナライズ(解析)】というスキル。
その万能性は、わたしに喜びよりも畏敬のようなものを感じさせる。
『攻撃がきます。回避をお忘れなく。』
その言葉にハッとした。
気づけば、目の前のスラックが大きな腕を振り下ろそうとしているではないか。
「アナスタシア!避けて!」
言葉と同時に、わたしは右横へステップして巨大な腕をかわした。
地面が歪み、鈍い音が響き渡る中、スラックの腕の反対側でアナスタシアが無事であることを確認する。
『あの鎧について、解析にはもう少し時間がかかります。回避もしくは反撃により、時間を稼いでください。』
「えぇ……!?」
ガイドさんからの無茶振りを聞き、つい変な声が出てしまう。
だが、相手は止まってくれない。
「オラァァァ!!」
スラックは叩き下ろした腕を、今度は真横へ振り抜いた。
もちろん、わたし目掛けてである。
だが、さっきも言ったが、そのスピードでは遅い。
わたしは軽々と跳躍してそれをかわした。
「アナスタシア!!」
眼下にアナスタシアの姿を確認し、咄嗟に声をかけた。
アナスタシアもこくりと頷いて走り出す。
『ちょこまかと……うっぜぇ!!』
両手を振り回し、まるで羽虫でも叩き落とそうとするかのように見えるスラックに対して、わたしは再び【駿影】を発動。
四方八方から、無数の刃とともに風術スキル【カマイタチ(烈風刃斬)】を叩き込む。
アナスタシアは、わたしの【駿影】の合間に火術スキル【メテオストライク(流星装撃)】を何度も打ち込んでいく。
わたしとアナスタシアのスキルの応酬。
だが、スラックの絶対防御はそれらの突破を許さない。
「無駄だって言ってんだろうが!!お前らのチンケな攻撃じゃ、この【ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)】は壊せねぇ!!」
そう叫び、苛立ちを爆発させると、スラックは力を込めるように体を縮こめた。
『注意してください!!大きな魔力が練られています!』
ガイドさんの注告が頭に響く。
同時に、アナスタシアへそれを伝えようとした瞬間、スラックが勢いよく立ち上がり、両手を大きく突き上げたのだ。
「【ウルカヌス(怒る神の砲台)】!!」
同時に放たれたのは、無数の岩石。
しかも、熱く燃え盛り、その様子はマグマの塊にも見える。
そんな大きな岩たちが、360°全方向へ余す所なく放たれたのである。
「きゃぁぁぁ!!!」
「アナスタシア……!!」
攻撃に転じようとしていたアナスタシアは、防御が間に合わなかった。
スラックが放つスキルは、大きな衝撃波を伴いながらアナスタシアを軽々と吹き飛ばした。
追わなきゃ……アナスタシアを追って回復してあげないと……!
そう考えたのも束の間、ガイドさんの言葉が頭に響いた。
『解析が完了しました。これより弱点判定に入ります。スキル【ジャッジメント(判定)】。』
その言葉が唱えられると、わたしの目には再び円が現れた。
だが、今回は1つだけ……ひとつの円がスラックの体をなぞるように動いていき、ある場所で止まると、情報が頭に流れ込んでくる。
『その位置が奴の弱点です。そこへスキルを撃ち込んでください。』
わたしの頭の中には、"ウィークポイント: 後頸部"という文字が浮かんでいた。
今回もご愛読いただき、ありがとうございます。
自身の機能を強化して、相手の弱点を探せるようにしたんですね!
ものすごいチート機能のような気がしますが、、、




