58 ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)
昨日は投稿が遅れてすみませんでした!
今日は場面が変わって、再びパルトたちの状況です。
58 ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)
「アハぁ〜!困ってるよねぇ!そうだよねぇ!!だってワイバーンが水属性のスキル使うんだもんねぇ!!」
エルバは何かを見ながら、嬉しそうな顔でお腹を抱えて笑っていた。
そんな彼女の反応に、わたしたちの目の前に立つ巨人……正体はもう1人の黒ずくめの男スラックであるが、その彼が苛立ちを露わにする。
「エルバァ!遊んでんじゃねぇぞ!!」
「遊んでないヨォ〜!ちゃんと冒険者たちの相手をしてるだけでしょぉ〜!」
ケタケタと笑うエルバ。
スラックは呆れたように舌打ちをすると、再びこちらに目を向けた。
「……まぁいい。とりあえず、まずはお前らだ。久々にこの【ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)】で遊んでやるからなぁ。」
高いところから嫌味ったらしい笑みを溢すスラック。
だが、アナスタシアはスラックの言葉を無視するように、エルバの言葉に反応する。
「冒険者の……相手をしている……?どういう意味!?」
聞き返すアナスタシアに、エルバは興味の目を向け、何かを言おうと口を開きかける。
が、目の前の巨人……スラックが間に割って入ってきた。
「教えねぇ〜よ!バカが……!」
その言葉とともに、巨大な腕が振り下ろされた。
「く……!」
「うわ……!」
不意打ちに焦りつつも、わたしとアナスタシアはバックステップでとっさにそれをかわした。
さっきまで自分たちがいた場所が、スラックの巨大な両手によって激しく粉砕され、亀裂が走り、砕かれた石が宙を舞う。
「ちょっとぉ〜スラック!!今わたしが話そうとしてたのにぃ〜!!」
「はぁ……?知るかよ!お前がこいつらと話してるなんて、俺には関係ないね!そもそも、今は俺の時間だろうが!!」
プンスカと怒るエルバに対して、スラックはそう主張する。
だが、どうやらアナスタシアの意識は、エルバにしか向いていないようだ。
「さっき……下水道でワイバーンの死骸を見つけた……。それは何かに刺されていて、朽ち果てた死骸だった。死因はわからない。けど……あなたの下にいるその魔物の触手には、針のようなものが見える……。そこから考えるに、あの死骸はその魔物がしたこと……わたしはそう推測している。」
アナスタシアは、すらすらと持論を展開していく。
それを聞きながら、スラックは不満を、エルバは喜びをそれぞれの顔に溢れさせた。
「今回の件……今の状況から考えれば、街の近くに現れたワイバーンの群れは、あなたたちの仕業だと、わたしは考えている……。」
「……ちっ。」
すらすらと考えを述べていくアナスタシアの態度に、スラックは不満げに舌打ちをした。
それは、アナスタシアが自分よりもエルバを見ていることへの不満なのか、それとも言い当てられて気に入らないという不満なのか……。
いずれにせよ、スラックは苛立った視線をアナスタシアへ向けている。
だが、先ほどのような追撃は来なかった。
『……あくまでも推測ですが……アナスタシアの考察は合っていると思われます。』
(それは……どういう意味……?)
よく状況を理解できず、わたしはガイドさんに聞き返す。
『おそらく、あの2人はワイバーンを使って街を襲わせようとしている……その可能性が高いということです。』
その言葉に、わたしは思わず首を傾げてしまった。
ガイドさん曰く、下水道で見つけたワイバーンの死骸は、エルバが乗っている謎の魔物の仕業であるとのことだ。
あの死骸にあった無数の刺し傷の跡は、魔物の触手に付いている針のサイズと一致することを、ガイドさんはすでに確認しているらしい。
こんな離れていてよくわかったなと思うが、それを言ってしまっては野暮であると思い、わたしはガイドさんの言葉に耳を傾け続けた。
『ワイバーンの死骸と謎の魔物の関係性……そして、エルバのさっきの発言を考慮すると、あの謎の魔物が今街を襲おうとしているワイバーンたちに、何かしらの細工をした……そう考えるのが妥当です。』
(細工……例えば……?)
『推測ですが……体内に埋め込んだ何かを触媒にして、闇術スキルの類で操っているのではないかと思われます。』
(なるほど……。)
確かに、街の近くで発見されたのは、本来群れることのない無数のワイバーンたちだった。
そして、その群れの中に謎の黒い魔物がいたという報告も、斥候から上がっていたはずだ。
『おそらく、その謎の黒い魔物とは、あの魔物です。』
ガイドさんの言葉とともに、わたしの視線はエルバの下に向いていた。
エルバが跨っている魔物が、今回の騒動の元凶。
それを見抜いたガイドさんの観察眼には、毎度のことながら恐れ入る。
目がどこにあるかは知らないけど……。
それに、アナスタシアの頭の良さにも驚いた。
あれだけの情報だけで、ガイドさんと同じ結論に至ったというのは、わたしからすれば称賛に値する。
そんなわたしの感想に同意するように、エルバがアナスタシアに好奇の目を向けた。
「すごいよねぇ〜!何もヒント出してないのに、何かに勘付いたんでしょぉ〜?本当にすごいヨォ〜!」
エルバと同じことを考えていたと思うと不満しかない。
だが、アナスタシアも別の意味で不満そうだ。
「褒められても嬉しくないわね。そもそも、こんなことをする理由を吐いてもらおうかしら。」
そうエルバを睨みつけながら槍を構える。
しかし、1番不満を見せたのはスラックだった。
「てめぇら……いい加減にしやがれ!!」
ズドンッという鈍い音とともに、地面には亀裂が走り、ところどころで隆起が起こった。
「俺たちが何をしようが、お前らには関係ない!なぜなら、ここで死んでもらうからなぁ!!」
スラックはそう叫び、怒りを露わにした。
アナスタシアに無視され、計画の内容も言い当てられ、どうやら堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
わたしとアナスタシアに向かって、その巨躯で走り出した。
「アナスタシア……!」
「わかってる……!」
スラックの攻撃に対応すべく、アナスタシアへ合図を送ると、わたしは高々と跳躍した。
スラックが振り抜いた右腕が、わたしがいた場所に叩きつけられ、大きく凹む。
その際、アナスタシアは前転してスラックの足元に潜り込んでいた。
スラックの顔の位置まで高く飛び上がったわたしは、アナスタシアをちらりと見た。
彼女もわたしの方を見ており、互いに目が合った。
その直後に、2人同時にスキルを発動する。
「カマイタチ(烈風刃斬)!!!」
「メテオストライク(流星装撃)!!!」
わたしはスラックの顔面にスキルを叩き込み、アナスタシアは股下へ攻撃を撃ち込んでいく。
だが、そんなことはお構いなしに、スラックは両腕をわたしとアナスタシアへ向けて振り回してくる。
「きかねぇなぁ!!俺の【ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)】は絶対防御にもなる!そんなチンケな攻撃じゃ、痛くも痒くもないね!!」
そう豪語しながら、腕と足を振り回すスラックの攻撃を上手くかわしながら、わたしたちは隙を見てスキルを撃ち続けた。
しかし、スラックに攻撃が届く様子は一向に見られない。
「オラオラ!!そんなもんかよぉ!!雑魚どもがぁ!!」
その言葉に苛立ちを覚えたわたしは、【駿影】を発動させる。
「調子……に……のるな……!!!」
縦横斜め、上下左右と自在に飛び跳ねる撹乱スキル。
そこに風術スキル【カマイタチ(烈風刃斬)】を組み込んで、斬撃とスキルの360°立体型空間波状攻撃をスラックへと見舞う。
連続的に響き続ける金属同士のぶつかる音。
だが、それでもスラックの体に傷すらつけることは叶わない。
「パルト……!離れて!!」
アナスタシアはわたしの攻撃の間に、魔力を練り込んでいたようだ。
再び握る槍に紅蓮の炎を纏うと、スラックに向かって突進。
わたしが離れたことを確認し、タイミングよく跳躍したアナスタシアは、先ほどと同じ炎術スキルをスラックの頭上から放った。
「炎槍・乱槍炎舞!!!」
まるで火の雨が降るかの如く、炎を纏った槍による無数の突きがスラックへと撃ち込まれる。
槍が当たる度に鈍く重い音が響き渡ると、それが小さな爆発を起こして連鎖していく。
何度も何度も、これでもかというほど撃ち込まれる槍がもたらす炎舞に、わたしはつい目を奪われてしまった。
しばらく撃ち込んだ後、アナスタシアは少し離れた位置まで距離を取った。
「はぁ……はぁ……」
かなり体力を消耗しているようだ。
あれだけの攻撃を、休む間もなく撃ち込んだのだから仕方がない。
わたしはアナスタシアへと駆け寄って、【ヒール(快治癒)】をかける。
「あり……がとう……」
【ヒール(快治癒)】は、怪我だけでなく疲労にも多少効果はある。
アナスタシアの呼吸が、少し落ち着きを取り戻したことを確認したわたしは、再びスラックへと視線を向けた。
「ハッハァー!!全然きかねぇなぁ!」
まるで大型の魔物のような咆哮を上げるスラック。
その姿はまるで無傷。
あれだけの攻撃を撃ち込んだのに、結果がこれでは本気で嫌気がさしてくる。
まったく……どう攻めるべきだろうか……。
わたしは本気で頭を悩ませた。
正直【脱兎如】を使うことも考えたが、それはガイドさんに止められた。
確かに【脱兎如】なら、身体能力や魔力操作など、全ての能力を向上してくれるから、奴への有効な一撃を見舞えるかもしれない。
だが、それは一時的なものでしかないし、本当に有効打を与えられるかはわからない。
それに、すぐに反動で動けなくなってしまうこともネックだった。
反動で動けなくなれば、アナスタシアの足手纏いどころか、すぐにスラックに殺されるだろうし、そうでなくとも、またあの黒い力に飲み込まれる可能性だってある。
エルバ戦の時は、アナスタシアのおかげで目を覚ますことができたが、次はどうなるかわからないのだから。
でも、何もしなければジリ貧なのも間違いない。
アナスタシアの炎術スキルでさえ、スラックには届かなかったのだから、現時点でわたしたちには為す術がないわけだ。
しかも、たとえスラックを倒せても、まだエルバがいる。
あれだけ苦戦したエルバが後に控えているこの状況は、完全に敗北が確定している状態なのではないだろうか。
そう思うと、悔しくて仕方がない。
本当に、もうこれで終わりなのだろうか……。
先が見えないこの状況に、絶望しかけたそんな時だった。
『否。ひとつだけこの状況を打開する手段が存在します。』
(打開する……手段……!?)
ガイドさんの突然の提案に驚いたが、そんなものが存在するなら試すべきだと思い、すぐに頭を切り替えた。
(何をすればいいの?)
『個体名パルトが得た熟練度の一部を、わたしへ譲渡してください。そうすることで、わたしの機能の一部を解放することが可能です。』
なんだか言っている意味がよくわからない。
だが、それで状況が打破できるのであればやる。
わたしはすぐにそう判断した。
目の前では、スラックが再び動き出そうとしている。
迷っている暇はない。
(なら、それをお願い!)
『承知しました。個体名パルトが得ている熟練度の一部を【ガイド(深慮遠謀)】へ譲渡します。』
ガイドさんがそう告げた瞬間、わたしの頭は真っ白に染まっていった。
今回もご愛読いただき、ありがとうございます。
どんな攻撃も防ぐジャガーノート。
全身から繰り出される攻撃もそうですが、その防御力には目を見張ります。
ガイドさんの提案。
気になりますが、打開する一手になるのか!
ご期待ください。




