55 やるべきこと⑥
新年明けましておめでとう御座います!
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渓谷の間を、うねるように無数の黒い影が飛んでいる。
その正体は、件のワイバーンの群れである。
総勢30匹程度の群れ。
体格の大きいものから小さいものまで千差万別。
皮膚の色も黒であったり、茶色や紺色など様々であるが、今の彼らには唯一同じ部分がある。
赤黒く染まった大きな双眸。
ここに飛ぶ全てのワイバーンの瞳が、全て同じ色であった。
先頭を飛ぶ一際大きな個体が咆哮を上げた。
まるでそれは、まもなく渓谷を抜けることを知らせるかのように。
それを聞いた他の個体も、それに倣って声を上げる。
そして、ゆっくりと隊列が組まれていく。
その行動は、ワイバーンの習性からは考えられないものだ。
だが、彼らは統制された戦闘機のように綺麗な隊列を組み、先を目指す。
この先にあるトゥウランの街を目指して。
まもなく、ワイバーンたちによる襲撃が始まろうとしていた。
◆
全身に鋼鉄の鎧を纏う男。
わたしはその姿を目の当たりにして、言葉を失った。
いつの間に鎧なんて……
それは誰しもが思う疑問だろう。
アナスタシアも驚きと悔しさが隠せないようだ。
男を睨みつつ、歯を食いしばっている様子から、その感情が読み取れた。
男は黒いローブとフードしか着ていなかったはずだ。
もちろん、その中に鎧を着ていたことも考えたが、あのローブで隠せるような鎧ではない。
だが、現に奴は全身に強固な鎧を身に纏っている。
しかも、アナスタシアの強力なエクストラスキルを防ぐほどの……。
『おそらく、あれは土術によるスキル【武器生成】です。土術は錬金術にも近い性質を持っており、鍛錬によっては武器や防具を生成することも可能になります。』
(なるほど……確かにさっき、奴は斧を創り出していた……。)
『そのとおりです。ですが……』
何かを懸念するようなガイドさんの反応に、わたしはどうしたのかと心配になる。
(どうしたの?ガイドさん……?)
『いえ……あの練度での【武器生成】……。土ではなく鉱石の生成まで……相手はかなりの使い手です。気をつけてください。』
ガイドさんが心配してくれたことが嬉しかった。
わたしは気を引き締め直し、こくりと頷くと、再び男を睨みつける。
すると突然、黒い魔物の上で胡座をかいていたエルバが男に声をかけた。
「スラック〜!始まったヨォ〜!」
その言葉に男は頷いている。
始まった……?何が……?
わたしはそれが何を意味するのかが気になり、彼らに問いかける。
「始まったって、何が……?!」
すると、男はニタリと笑った。
「おいおい、そんなこと……わざわざお前らに言うわけねぇだろ!」
バカにするように笑う男に苛立ちを覚えた。
だが、先に口を開いたのはエルバだった。
「だよねだよね!気になるよねぇ!パルトちゃん、ならこうしよ!そいつ倒したら、教えてあげるよぉ!!」
「おい!エルバ!勝手に決めてんじゃねぇよ!」
男はエルバに怒っているが、エルバは気にすることなく、本当に楽しそうに笑っている。
「え〜!?イイじゃん!そっちの方が楽しいし、みんなやる気でるじゃん!?」
「そういう問題じゃねぇ!もうボスの命令を忘れたのか!?」
「ボスの命令は覚えてるヨォ〜!ていうか、あんたが負けなければいい話でしょぉ?」
ケタケタと笑っているが、エルバは正論を言っているだけ。
男にもそれはわかっているようで、舌打ちをするとこっちを睨む。
「ケッ……まったくふざけてやがる。俺がこんなチンチクリンどもにやられるわけねぇだろ!」
独り言のように愚痴を溢す男。
だが、わたしはその言葉が聞き捨てならなかった。
「は……?誰がチンチクリンだって……?」
「あ……?お前ら以外に誰がいんだよ。」
わたしは、自分たちが完全に舐められていると認識し直す。
「わたしたちがチンチクリンなら、わたしたちより小さいあんたは……何なの?」
挑発されれば、挑発し返したくなるのは人の性。
わたしはそう言い返したが、それを聞いていたエルバが「あちゃー。」と言っている様子が目に映った。
「パルトちゃん……それはスラックには禁句……。」
そんなエルバの呟きが聞こえる中、男が苛立ちを溢した。
「誰がチビだ……」
纏っていた鎧がサラサラと砂の粒子となり、消えていく。
これまでどおり、そこには黒い外套とフードを纏う男がいる。
「俺はチビじゃねぇ……」
今度は両手に短めの剣が構築された。
わたしはそれを見て、脅威を感じていた。
あれが【武器生成】のスキル……。
一瞬で鋼鉄の剣が……。
その場に漂う妙な緊張感に、わたしは剣の柄を強く握った。
少し前に立つアナスタシアもそれを感じているようだ。
背中からは緊張が伝わってくる。
『警戒してください。相手の魔力が高まっています。』
ガイドさんも警戒しているようだ。
これは……気を引き締めないとまずいかも……。
そう思った瞬間だった。
男の姿が忽然と消えた。
『後ろです!!』
ガイドさんの言葉が頭に響くと同時に、わたしは反射的にしゃがんでいた。
ヒュンッという風を切る音が頭の上を通過した。
そのまま振り向き様に、体を捻って横一閃。
だが、わたしは自分の剣が空を切ったことを認識した。
「アナスタシア……!!」
言葉と同時に、金属がぶつかり合う音。
遅れて振り返れば、アナスタシアと男が槍と双剣を交えて睨み合っている。
「殺すぜ……てめぇら……」
「うる……さい!」
ギリギリと音を立て、まるで力比べでもするかのようにお互いの武器を押し合う2人。
だが、男はアナスタシアを嘲笑うかのように姿を消した。
また消えた……!
ということは、次に来るのは……!!
突如、感じた殺気に意識を向けると、真上から双剣による斬撃が向かってくることに気づく。
「くっ……!!」
今度は自分の前で響く金属音。
真上から鋭く落ちる双剣を、自分の剣で受けた音だ。
「これに反応するとは……やるじゃんか!」
要らぬ称賛。
だが、男の攻撃はそれで終わりはしない。
「ストーンバレット(土散弾)!!」
男の足元……位置としてはわたしの目の前に、拳大の無数の石が姿を現した。
「エアシールド(風壁)!!」
咄嗟の判断で風の壁を構築し、防御に充てる。
目の前で放たれた無数の石たちは、風の壁を前に砕け散る。
だが、いつのまにか自分の剣が軽くなっていることに、わたしは気づいた。
『背後です!!』
(速すぎ……!!)
瞬時に振り向き、男の剣を受ける。
辛うじて防いだ一撃。
そこからわたしは、男との激しい剣戟に身を投じる。
上下左右、縦横斜めから繰り出される剣戟は、そのひとつひとつがとても重く、打ち合うたびにその衝撃が両手を襲う。
しかも、相手は双剣なので攻撃の手数がかなり多く、わたしは防ぐだけで手一杯だ。
「オラオラ!!口だけかよ!!やり返してみろ!!」
「……っ!!カマイタチ(烈風刃斬)!!」
笑いながら無数の剣撃を打ち込んでくる男に対して、わたしは苦し紛れにスキルを放った。
だが、それは簡単にかわされてしまい、逆にさらなる追撃を受けることになる。
「そんなん食らうかよ!!」
「……っ!!」
さらに激しくなる攻撃を受けながら、わたしはその重圧に後退り……。
「はぁぁぁぁ!!」
「ちっ……!」
突然、剣撃の嵐が止まった。
アナスタシアが放った刺突を、男がかわしたためだ。
やっと一息つけた……!
わたしが安堵していると、横にアナスタシアが並んだ。
「パルト……ちゃんと連携しよう。」
「……だね。」
アナスタシアの提案には賛成だった。
奴のスピードは計り知れない。
わたしだってスピードで負けるつもりは更々ないが、現状では奴の方が勝っている。
それは認めざるを得ない。
それならば、2人で連携してその穴を埋める。
それがわたしたちにできる最善である。
そう考えていた。
「あらら……そんなんじゃ、さっきの答えは聞けないよぉ〜!何が始まったのか聞くんでしょぉ〜?」
相変わらず軽いノリでエルバが笑う。
それに対して、余計なことを言うなと男が一喝する光景には、もう見慣れてしまった。
「左右からの挟撃で……」
「わかった……双方からスキルを叩き込む……」
アナスタシアの作戦を理解して、わたしはこっそりと手元に拳大の水の球をいくつか生成する。
そして、互いにチラリと目で合図すると、わたしたちは左右に散開。
大きく円を描くように軌跡を描き、右と左から男目掛けて突進を始めた。
「なるほど!考えたじゃねぇか!」
対する男は、瞬時に左右を確認し、わたしたちの作戦の意図を理解して笑った。
「だが、そういう時は逃げ道を残しちゃだめ…………っ!!?」
偉そうに笑っていた男だったが、突如として前方から飛んできた水の球に気づいて、それらを打ち落とした。
それは、わたしが時間差で放っていた【ウォーターバレット(水散弾)】である。
わたしたちの動きから、挟み撃ちすることは簡単に読まれるだろう。
ならば、かわされないように足止めしてやれば……。
そう思って、仕掛けていたのである。
『わたしが提案しました。』
自己主張が強いガイドさんの言葉はさて置き、男にできた一瞬の隙を両サイドから突く。
ウォーターバレットを打ち落としている間に、男にできた僅かな隙……。
そこにアナスタシアと同時にスキルを叩き込んでやる!!
「カマイタチ(烈風刃斬)!!!」
「メテオストライク(流星装撃)!!!」
左からは無数の風の刃が、右からは炎を纏う槍の刺突の連撃が男に襲いかかる。
だが、避けられないと判断するや否や、男はスキルを解放した。
「ジャガーノート(鉄鋼装・破壊神)!!!」
その直後、わたしとアナスタシアが放ったスキルが男の下へと届いた。
衝撃音とも、破壊音とも言い難い大きな爆発が、目の前で巻き起こる。
だが……
『男の魔力がさらに高まりました。最悪の事態を想定してください。』
ガイドさんにはわかっているようだ。
今の攻撃の全てが、男へ届かなかったことを。
わたしはそれを聞いて、覚悟を決めた。
「そのための水術かよ……手癖の悪りぃ奴だな。……エルバが負けた理由がわかったぜ。」
砂埃が舞う中で呟かれた男の言葉を聞き、エルバは「負けてない!」と怒っている。
だが、もはやそんなやりとりはどうでもいい。
ゆっくりと舞い散る土の粒子の中で、巨大なものがのそりと動いていることを確認したわたしは、背中を伝う汗が止まらなかった。
「俺にこれを出させるたぁ……やるじゃねぇか。」
先ほどまでの小柄な男はどこにもいない。
わたしの目の前には、巨人が立っていたのだ。
ついに動き出したワイバーンの群れ。
そして、謎の男との戦い。
いったいトゥウランの街で何が起こっているのでしょうか!




