56 やるべきこと⑦
前話での謎の男スラックのスキルが気になるところ!
ですが、トゥウランの攻防戦もまもなく開戦でしょうか!
ワイバーンたちから街を守るために、冒険者たちが立ち向かいます。
「伝令!!渓谷よりこちらに向かってくるワイバーンの群れを確認!!」
物見櫓から見張り役の冒険者が叫んだ。
それを聞いたガルシュは、配置についた冒険者たちを鼓舞するように吠えた。
「お前ら!!気を引き締めて行け!!」
ガルシュの咆哮に、冒険者たちが続けて声を上げる。
(戦いの前にこんなに緊張したのは……初めてかもな……。)
まずは初手。
渓谷から出てきたワイバーンたちに、ありったけのスキルをぶち込む。
それを担当するのは、予め想定していた位置に待機していた遠距離攻撃部隊である。
ガルシュは、少し離れた位置で待機しているその部隊に目を向ける。
彼らの成果は、この後の戦いに大きな影響を及ぼすだろう。
ここで、3分の1程度のワイバーンを行動不能にできれば、こちら側は大きな優位性を得ることができるはずだ。
ガルシュは、手に滲む汗を握り締めた。
・
遠距離攻撃部隊にも、すぐに通達が届いていた。
渓谷より無数のワイバーン、襲来……と。
「スキルの準備を……!」
伝令を聞くや否や、指揮役を任されたCランク冒険者アモンは部隊メンバーへそう指示を出す。
メンバーはその指示を聞き、各々の最も得意とする、かつ1番強力なスキルの発動準備にかかった。
「十分に引きつけてから打つぞ!!緊張し過ぎなくていい!!自分の仕事だけに集中するんだ!!」
そう叫びながら、アモンはメンバー全員を見渡した。
70名ほどいる遠距離攻撃部隊。
人数も多く、全員の顔を一人ひとり確認することはできないが、彼らから緊張感が消えていないことはわかった。
今回の作戦において、肝となる部分を担う部隊。
その一員として選ばれたことに始めは歓喜していた彼らだが、本番が近づくにつれてその重責を認識し始めていたことはわかっていた。
かく言う自分も、相当な緊張感に飲み込まれそうだった。
(落ち着け……タイミングをしっかりと図るんだ……。)
何度も何度も、頭の中でシュミレーションしてきたことだ。
奴らが渓谷と平原の境を飛び出しだ後、どのタイミングで仕掛けるのが1番ベストなのか。
どのタイミングでスキルを撃ち込めば、効果的な打撃を奴らに与えられるのか。
それだけをここまで考えてきたのだ。
もちろん、ギルマスにも意見を聞いた。
Bランク冒険者のクリスにも、だ。
他にもいろんな冒険者から意見をもらった上で、部隊メンバーと想定に想定を重ねて決めたタイミング。
自分はシュミレーションどおり、そのタイミングで合図を出す。
そして、合図に合わせ、ワイバーンの群れに向けて全員でスキルを撃ち込む。
ただ、それだけの仕事のはず。
(クリスは……言ってくれた。失敗してもいいんだ……と。俺たちが失敗しても、自分がなんとかするって……あいつはそう笑ってくれたんだ。)
ランクは上だが年下のクリスに、そうまで言われては失敗を恐れてなんかいられない。
ここでワイバーンを抑えられなければ、街が危険に晒されてしまうのだ。
そうなれば、確実に自分の家族や、仲間、街の者たちに死が訪れるだろう。
失敗を恐れてなど、いられるわけがない。
アモンは覚悟を決めた。
(見えた……!!)
アモンは視界にワイバーンを確認した。
先頭には、一際大きな個体が飛んでいるのがわかる。
だが……
(謎の黒い魔物の姿は……ここからじゃよくわからんか……。)
事前にその存在が確認された謎の魔物。
ギルマスはその魔物に対して、かなり懸念を抱いていたようだが……。
(それは、今考えることじゃねぇな……)
とりあえず、今その考察は不要である。
その魔物が居ようが居まいが、自分がやるべきことはただひとつだけなのだ。
まもなく、奴らは渓谷の出口に差し掛かる。
アモンには、すでに群れの全容が確認できていた。
一際大きい個体。
その後ろには、無数のワイバーンの姿。
(そろそろだ……。あの先頭の個体が、あの河に差し掛かったところで……)
渓谷の奥地より流れ出る水源は、渓谷と平原を分断するように流れる河川に合流する。
その河川はトゥウランの街まで辿り着き、その恩恵を市民へと運んでいる。
この作戦の初撃となるこの遠距離攻撃では、ワイバーンたちがその河川まで来たところで、スキルによる一斉射撃を行う。
アモンはワイバーンの状況を見極めようと、血眼になって奴らの動きを観察していた。
まっすぐ、ゆっくりと、奴らはこちらへ向かって来ている。
(……来るぞ……あと少し……)
覗き込んだ双眼鏡を握る手に力が入った。
後ろにいる冒険者たちからも、緊張が伝わってくるのを感じた。
だが、アモンはその手を緩めることなく、ワイバーンの動向を追う。
幸い、奴らは進路を変えることなく、まっすぐにこちらへと向かっていた。
(あとちょっと………………いまだ……!!)
そう頭で思った瞬間、アモンは反射的に大きく叫んでいた。
「てぇぇぇぇ!!!」
その言葉に皮切りに、後ろに構えていた冒険者たちが一斉にスキルを放つ。
自分の真後ろから、次々に放たれる数々のスキルたち。
その鮮やかな彩りは、見ている者の目を奪うほど美しい。
もちろん、こんな状況でなければ……だが。
それらが一直線にワイバーンの群れへと向かう様子を、アモンは固唾を飲んで見守っていた。
さすがのワイバーンも、これだけのスキルを受ければひとたまりもあるまい。
当たれ……当たってくれ……
アモンは、そんな淡い期待を抱いていた。
だが、その期待はすぐに吹き飛ぶこととなる。
アモンは視線の先で、信じられない光景を目の当たりにした。
確実にワイバーンたちに着弾すると思われたスキルの嵐。
それが届く直前、それは起きた。
群れのリーダーと思われる一際体の大きいワイバーンが、突然大きく吠えた。
そして、それを機にワイバーンの群れは突如として散開。
自分たちに向けられたスキルの刃を巧みにかわして、再び隊列を組み直したのだ。
「な……!」
アモンは開いた口が塞がらなかった。
ワイバーンは本来群れない魔物であり、縄張り意識がとても強い。
個体同士が喧嘩をして、森ひとつ吹き飛ばすなんてことはよく聞く話だ。
にも関わらず、あのでかい1匹が指示を出し、他の個体がそれに従うような動きを見せたことには目を疑ってしまった。
そもそも、隊列を組んで飛んでいること自体も、信じられなかったが……。
「あれは……本当にワイバーンなのか……。」
アモンは無意識にそう溢していた。
・
「初撃が全てかわされた……」
アモンと同じように、ガルシュもまた目の前で起きた光景が信じられなかった。
あの一際大きなワイバーンが突然吠えたかと思えば、他のワイバーンたちが散開し、飛んできたスキルをかわしたのだから。
まるで、仲間たちに号令をかけるような咆哮。
そして、それに従うような統率された動きは、飛竜ではなく狼型の魔物の連携を想像させる。
結果は最悪……ワイバーンたちに傷ひとつ付けられなかった。
ガルシュは戸惑いを隠せなかったが、同時に本音が胸に湧き上がる。
(くそ……本当なら、ここで自分が前線に出て……)
いっそのこと、このまま自分が前線に出てしまいたい。
そして、なりふり構わずに大暴れする。
昔はそれが許された。
冒険者の時は、自分のことだけを考えていればよかった。
コルディア司国との大戦に参加した時も、ガルシュは1人戦場に身を落とした。
仲間は要らない。
1人で生き、1人で死ぬ。
それがガルシュという男の生き様。
そう自分でも思っていたのだ。
だが、歳を取り、冒険者ギルドのマスターに任命され、ガルシュには守るべきものができた。
冒険者や受付嬢たちは、ガルシュにとってもはや息子娘同然。
それに、街の住民たちも家族のように思っている。
そんな彼らを、ガルシュは守る義務があるのだ。
そんな感情が、ガルシュをもどかしさで染める。
守るべきものがあり、それが脅かされたその時、人はこんなにも焦り憤るのか。
ガルシュはこの状況で初めて、それを理解させられていた。
そんな葛藤を胸に抱いていたガルシュだが、突如冒険者の1人が大きく声を上げて驚いた。
「お前らぁぁぁ!!いくぞぉぉぉ!!」
声の主はBランク冒険者のクリスだった。
彼は多くの冒険者を引き連れて、戦場へと駆けていく。
それを見ていたガルシュは、クリスがこちらを一瞥したことに気づいた。
その瞳はまるで、「ギルマスとしてやるべきことをやれ。」と言わんばかりの眼。
(奴め…………言ってくれるじゃねぇか!)
ガルシュは自分が情けなく感じるとともに、やるべきことを明確に把握することができた。
「マシェット!!クリスに続け!!」
「え……!?いいのかい」
マシェットは突然の作戦変更に驚いた。
もともと、マシェットたちの部隊の役割はクリスの援護。
出番はまだ少し先のはずだったからだ。
「いい!行け!!初手が失敗した今、まずは前線を留めなきゃならねぇ!クリスの部隊とともに前線を守れ!」
マシェットは驚いていたが、ガルシュが言いたいことは理解できた。
「わかった……!あんたらぁぁぁ!!気合い入れなぁ!!」
マシェットがすぐさま部隊へ指示を出すと、彼女の隊の冒険者たちも声を上げる。
それを満足げに確認したマシェットは、自らを先頭にクリスの後を追った。
その背中を見送ったガルシュは、今度はモルドリーとロビンを見る。
「お前らの部隊は、クリス隊とマシェット隊の両翼から援護してくれ。遠距離攻撃部隊が戻ってきたら、前線を押し上げるんだ。」
ガルシュの言葉に2人はこくりと頷くと、それぞれの部隊へ指示を出し始めた。
(もはや小細工は要らねぇな。一気に叩く……)
ガルシュは前線へと向かう冒険者たちを見送ると、自身の天幕へと足を運んだ。
そして、端に立て掛けられた大きな剣の前で立ち止まり、それを手に取った。
クリスが振るう大剣よりも一際大きいその剣を肩に載せると、ガルシュは天幕を後にするのであった。
今回もご愛読いただき、ありがとうございます!
ギルドマスターであるガルシュですが、思うことはあるようです。
彼は愛剣を持って何をするつもりなのでしょうか。
そして、街を守るために、冒険者たちはどのように立ち向かうのか!
ご期待ください!




