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50 やるべきこと①

自分がやるべきことは何なのか。

それに悩むパルトですが、新たな異変が起きることになります。

ガルシュたちは今、ワイバーンの群れが確認された山とトゥウランの街の境にある草原まで来ていた。



「ギルマス!資材の搬入、終わってます。」


「おう!すまねぇな!どんどん進めてくれ。」



報告に来たギルドの職員は、ガルシュの言葉に頷くと次の仕事へと戻っていった。


ガルシュはその背中を頼もしく思う。



今回の件は、ギルド総出でことに当たっている。


普段は内勤をしているギルド職員たちも全員借り出し、資材や食料などの搬入を担当してもらっている。


そして、それら搬入された資材を受け取った冒険者たちが、今度は防壁やテントなどの必要な設備を整える作業を行なっているわけだ。


もちろん、ギルドマスターであるガルシュも同じように作業にあたっており、まさにギルド総出であると言えるだろう。


その間も、斥候役の冒険者たちがワイバーンの状況について逐一報告をくれており、今のところワイバーンたちに大きな動きはないようだった。



ワイバーンは草木が少なく、岩場の多い高い山を好む。


今回、奴らが確認された場所も岩場が多い場所。


そして、そこから街に向かうには渓谷を通り、この草原を通過する必要がある。


だから、ガルシュはここを防衛ラインに定めたのである。



(統率されていないワイバーンなら、もう少し場所もやりようもあったが……今回はその黒い魔物の存在が気になるな。)



斥候からの情報には、30匹のワイバーンを統率する黒い魔物の存在があった。


この魔物がいったい何なのかはわからないため、不安要素となっているのは事実である。


だが、渓谷の幅は狭く、ワイバーンたちは横に広がって飛行することはできないはず。


いくら統率されていようが、渓谷を飛び出してきた瞬間、先頭のワイバーンたちにありったけのスキルをぶち込んで先制攻撃を見舞えば……。



(その際……1番前にその黒い魔物がいてくれたら、ラッキーなんだがな。)



完全に希望的観測だが、本心ではそんな簡単にことが運ぶとはガルシュも思ってはいない。


謎の黒い魔物……安心はしていられないし、すぐにでも奴らが街へ侵攻し始める可能性がある限り、早い段階でこの防衛ラインを築く必要がある。


ガルシュはそう考えていた。





「ギルマス!とりあえず、身を隠すための防壁なんかは粗方準備できたぜ。」



次に声をかけてきたのは、左眉の傷が特徴的な男だった。


背中に大剣を携え、薄い青色の鎧を纏っている彼は、爽やかな笑顔でサムズアップしている。



「さすがに仕事が早くて助かるぜ!Bランクは伊達じゃねぇな!」


「まぁな!」



ガルシュの称賛に、男は嬉しそうに笑う。


彼は、今回の作戦で唯一のBランク冒険者であるクリス=アルグラスであった。



「しかし、お前が居てくれて本当に助かった。」



ガルシュは、その本心から頭を深々と下げた。


今回の戦いにおいて、Bランク以上の冒険者はクリスしかいない。


皆、他の依頼で街の外へ出払っており、今から早急に戻るにしても、最短で1日は掛かる。


なので、今回の作戦ではクリスにかなりの負担をかけることになるだろう。


前線での冒険者たちへの指揮に加え、自身も戦いに主軸を置いてもらわねばならない。


もちろん、自分も戦う予定ではあるが、現役時代に比べれば力もどこまで落ちているか……。


歳は取りたくないものだと思うと、ガルシュはため息が出た。


だが、クリスはそんな心の曇りを払うように、大きく笑った。



「ガルシュの兄貴!そう気にすんなって!この時点で俺が1番上なんだから、頑張るのは当たり前だ!いつもわがままばっか聞いてもらってっからな!」



それを聞いたガルシュは、笑いつつも思った。


わがままとは言うが、お前が1番まともなんだがな……と。



基本的に、Bランク以上の冒険者は変わり者が多い。


クリスもその部類に入るは入るが、ガルシュの中では1番まとも……。


もしも、今ここにAランクのあいつがいたら……。


そう思うと、頭が痛くなってきた。



「ギルマス……顔に出てるぜ。まぁ、クレアがいた方が解決は早かったのは間違いないけどな。」



クリスには。ガルシュが考えていることがわかったらしい。


苦笑いを浮かべて、頬を掻いている。



「……はぁ。それはそれで色々大変なんだが……後処理とか……」


「ハハハ……ギルマスってのも大変だな!」



クリスは乾いた笑みを溢していたが、ガルシュの心は複雑の極みだった。



とはいえ、今はいない者の話をしても意味はない。


目の前にいるクリスは、強くて頼り甲斐のある男だ。


先輩冒険者から後輩冒険者まで広く評価されており、名実ともにBランク冒険者。


そして、今回の騒動は災禍級指定ではあるが、対象はDランクのワイバーンの群れ。


ならば、本来はクリスのパーティに任せるだけで終わらせられる案件でもある。


その事実は、ガルシュの心の安定剤となっていた。



だが、唯一の懸念があるとすれば、やはり謎の魔物の存在か……。



1人で思考の渦に沈んでいくガルシュに、クリスが苦笑いを浮かべる。



「そんで、ガルシュの兄貴。他にやることはあるかい?」



不意にクリスにそう問われ、ガルシュは我に返った。



「……すまねぇな。今のところはねぇから、すこし休んでくれ。お前たちにはこれから負担をかけるからな。」



そう伝えると、クリスは「そんじゃ、お言葉に甘えて。」と言い残し、手を振りながらガルシュの下を後にした。


そんな彼の背中を見送ったガルシュは、山の方へと視線を向けた。


これから起こるワイバーンとの大きな戦い。


その行く末に、街の未来がかかっている。


そう考え、気合を入れ直すのであった。



◆



一方、街での警備担当に配置されたパルトとアナスタシアは、街を囲む城壁の上で草原の方を見つめていた。



「今頃、ガルシュさんたちは防衛ラインの準備中かな。」



アナスタシアが小さく呟いたので、わたしは「ん……」とだけ返した。



本当は私もあそこに行きたかった。


でも、ギルマスは許してくれなかったからいけなかった。


それにガイドさんの言葉とはいえ、師匠にああも言われてしまったのだから、ここに残るしかなかった。



自分がやるべきこと……か……。



ふと、師匠の言葉が頭に浮んだが、正直それが何なのか……今はわからない。



ここでギルマスたちの戦いを見守ることなのか。


それとも、なにふり構わず戦場に身を落とすことなのか。


今のわたしには、その答えを見つける術はない。


だから、とりあえず今は師匠の言葉に従おう。


それだけを考えていた。




「パルトさぁーん!アナスタシアさぁーん!」



突然、城壁の下からわたしたちを呼ぶ声が聞こえた。


城壁から見下ろせば、受付嬢のリプリーがこちらを見上げている。


彼女は今回居残り組だそうだ。


ガルシュが不在のギルドを回せるのは、リプリーしかいないらしい。


ギルドの受付嬢や冒険者たちに聞くと、みんな口を揃えてそう言っていた。


色々と凄い人なんだなと思っていたわたしだったが、やっぱり凄い人だと感心させられた。



そんなことを考えながら、城壁から飛び降りてリプリーの下へと向かう。


それを見たアナスタシアは、置いていかれて焦っていたけど、あまり気にはしない。




遅れてきたアナスタシアを待って、リプリーが話し出す。



「実は別件の依頼が来てまして……」



聞けば、住民から地下から異臭がすると声が上がっているらしい。


現在はほとんどの冒険者が前線へ行ってしまっており、今街にいるのはEからGランクの冒険者のみ。


ワイバーンの件で人手がないことは承知しているが、住民の不安も取り除いてあげたい。


なので、リプリーは検討した結果、わたしとアナスタシアに依頼することにしたそうだ。



「あなた方の実力は知っていますから。」



リプリーは最後にそう笑ったので、わたしは断れなかった。





リプリーに教えられた場所へと向かうと、そこは下水道の入り口だった。


トゥウランの街には、無数に巡らされた下水道が存在する。


帝国では疫病などへの対策が講じられていて、各都市においてそういった類の設備はしっかりと普及しており、ここトゥウランでもそれは同じだった。



「うへ……下水道……」


「……だね。」



あからさまに嫌な顔をするわたしを見て、アナスタシアも苦笑いをしたが、彼女はそのまま言葉を続けた。



「でも、街の人たちもワイバーンの件で、ただでさえ不安だよね……。こんな異臭騒ぎ、早く解決しちゃおう。」



わたしはアナスタシアの言葉に嫌々頷いた。


リプリーからの依頼だし、わたしだってちゃんとやり遂げたいと思っている。


それに、ワイバーンの件で街の人たちが怯えていることもわかっている。



「行こう……。」



わたしは意を決して、下水道の入り口へと足を踏み入れた。



・

・

・



「く……臭い……」


「確かに……これはけっこうきつい……」



わたしたち2人は下水道の奥へとやってきた。


鼻から下を覆い隠すように布を巻いているので、会話も息もしづらいったらありゃしないが、それでもこの激臭は布を貫通してわたしの鼻を攻撃している。



防御無効……つらい……



そんな激臭が漂う下水道の通路は、かなり入り組んでいた。


リプリーさんからもらった図面がなかったら、わたしたちは完全に迷子になっていただろう。


こんなところで迷子なんてごめんだと、内心でゾッとしたことはアナスタシアには黙っておく。



その図面には、街の住民から寄せられた異臭の位置が書き込まれていた。


リプリーさんが即席で作ってくれたらしいが、かなり助かっている。


異臭がする場所はいくつかあるようだったので、アナスタシアと相談し、とりあえず入り口から1番近い場所を選んでやってきたわけだ。



「ひとつ目はここ……特になにもないみたいだね。」



アナスタシアはぐるりと見渡し、そう溢した。


わたしはそれに頷きつつ上を見ると、数十メートルほど先に光が見え、そこが地上だとわかった。



まぁ下水道なのだから、地下にいることは当たり前か……。



とりあえず、ここには何もないし、異臭と言われても下水道全体が異臭だらけで何もわからない。


そう結論づけたわたしたちは、次のポイントへと移動することにした。





だが、2つめの場所で、わたしたちはすぐに異変に気がついた。


そして、その異変はわたしたちに不安を抱かせるものでしかない。



「ワ……ワイバーン……!?」



小ぶりだが、ワイバーンで間違いない。


おそらくは子供か……未成熟な個体の死骸がそこに転がっていたのである。

ワイバーンの死骸が、なぜこんなところにあるのでしょうか。


深まる謎と再び地下へ続く穴…

パルトたちはトゥウランでは地下に縁がありますね笑

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