49 ダビドの言葉、パルトの思い
計画を水面下で進めるワメキヤと黒ずくめたち。
対するギルドの動きどうでしょうか。
今回はギルドでの一幕です。
「みんなぁ!よく集まってくれた!」
冒険者ギルドのカウンターの前で、ギルドマスターのガルシュが声を張った。
彼の目の前には、数百人ほどの冒険者たちが顔を連ねている。
その中に、わたしとアナスタシアもいた。
「話はある程度聞いているな!今回は街に脅威が迫っている。付近の山奥にワイバーン30体を確認した!ギルドはこの状況を災禍級と指定した!」
響めく冒険者たち。
情報を知っていた者、詳しく知らなかった者たちの焦りや憤りが、ギルド内にこだまする。
アナスタシアも無言のまま、少し不安げに話に耳を傾けている。
ガルシュはそんな冒険者たちの様子を少し眺めた後、大きな咳払いをした。
「現時点では、奴らの意識がこの街に向いている様子はねぇ!だが、いつ何時襲ってくるかはわからない状態でもある。なので、これから君らをいくつかの班に分け、街の守りを固め、戦線防御の設置を行う。」
ガルシュがそこまで告げると、再び騒めく冒険者たち。
その中の1人が声を上げる。
「班分けの理由は!?パーティで動くんじゃダメなのか!?」
「Cランク以上のパーティならいいが、そうじゃない奴らもいる!特に、勇気を出して集まってくれたEランク以下の冒険者……こいつらはできる限り死なせない!言ってる意味がわかるな?」
ガルシュの説明だと、今回の班分けはこうなる。
Bランク冒険者率いるパーティには、Dランクの冒険者を割り振り、それ以外はCランクにDもしくはEランク、DランクにEランクを割り振っていく。
そして、それぞれの班8〜10人程度の分隊となり、各々の役割に就く、というわけだ。
特に下位ランクの分隊……要するに、DランクEランクで編成される分隊が、街の防衛に就くというわけだ。
ガルシュの説明を聞いた冒険者は、納得したように挙げていた手を下ろした。
わたしはそれを見て、不思議だった。
本来なら、自分たちよりランクの低い冒険者など、お荷物にしかならないはずだ。
それにパーティ単位で動く方が、連携もしやすいはず。
だが、今の冒険者も然り、周りの冒険者たちのほとんどが、ギルマスの考えを聞いて納得して頷いていた。
自由奔放な彼らが、そうまでしてギルマスの言葉に従う理由がわからなかった。
『おそらく、ゴズルという冒険者の件が関係していると思われます。』
(ゴズルの……?なんで……?)
『彼は過去に、ワイバーン討伐で新人冒険者を亡くしています。』
ガイドさんの分析を聞いて、わたしはそうだったなと思い出した。
あの時、ゴズルは新人冒険者を助けられなかったと聞いた。
その事件は、ギルドにいる冒険者たちにも伝わっているはずだろう。
そして、彼らもまた、同じ過ちを繰り返したくないのだ。
(奇しくもまたワイバーン……)
この巡り合わせが、彼らを奮い立たせているのかも知れない。
わたしがそんなことを考えていると、別の冒険者が質問を投げかける。
「配置の基準はどうするんだ!?」
それは今回の肝となる部分である。
今回のガルシュの作戦だと、街と山の間に防御戦線を組むらしい。
そうすることで、街への被害を最小限に抑えるつもりだと、リプリーから聞いている。
ならば、その防御戦線に誰を配置するのか……。
それがかなり重要で、今回はギルドマスターであるガルシュの采配になるわけだ。
そこが崩れれば、無数のワイバーンたちが街へと一気に雪崩れ込む可能性が高いため、かなり難しい采配だと感じた。
「今回はBランク冒険者が1人しかいねぇ。他のBランク以上はみんな任務で出払っている。それぞれに連絡は取っているが、戻ってくるのには早くても1〜2日は掛かるだろう。それを考慮して、今回の配置はこのようにする。」
大雑把に描かれた地図が貼られている移動式の掲示板を、受付嬢たちがガルシュの横へと運んできた。
わたしのところからだと、細かいところまではわからない。
だが、ガルシュはすでに班分けまで終えているらしい。
いくつかの分隊と、そこに編成される冒険者の名前が書かれていることは理解できた。
彼の頭の中の構想が、その地図に全て詰まっているのだ。
『我々は街の防衛ですね。』
(え……?)
ガイドさんはわたしの名前を見つけたようだ。
それを聞いたわたしは、咄嗟に前へと進み始めていた。
「え……?パ……パルト!?」
アナスタシアの声が聞こえたが、今はそれどころではない。
冒険者たちの合間を縫うように、無理やりに前へと突き進む。
そして、ようやく1番前に来ると、目の前にいたガルシュに自分の意見を主張した。
「ギルマス!!何でわたしが街の防衛……!?」
突然のことに、周りの冒険者たちは騒めいている。
ガルシュの横にいるリプリーも、驚いているようだ。
そんな中、ガルシュが眉を顰めてわたしを睨みつけた。
「……お前はまだEランクだろう。」
その声は低く重く、わたしは少し怯んでしまった。
周りの冒険者たちも、何事かと騒めいていたが、ガルシュの威嚇を見て、息を飲んでいる者もいる。
だが、わたしだって譲れないものはある。
強くなりたいのだ。
強くなって、あいつを殺さなければならない。
ミッドウェルを……。
「わたしは……戦える……。ゴズルも倒した……。」
「それは2人で……だ。お前だけの力じゃない。」
「そんなこと……わかっている……でも、この前の依頼だって……!」
「あれはたまたま運が良かっただけだ!大怪我もしたぞ!本当なら死んでいたかもしれん!」
「そんなことない!!わたしは死な……」
「ダメだ!!」
わたしの言葉を遮り、ガルシュは一喝した。
その眼には怒りではなく、別のものが浮かんでいる。
それが慈愛なのか憐れみなのかはわからない。
だが、わたしにとっては不要なものであることは間違いなかった。
「パ……パルト……!」
遅れてアナスタシアが冒険者の間から顔を出した。
それにガルシュたちが気を取られた瞬間、わたしは再び駆け出していた。
ギルドに入口に向かって……。
◆
「…………」
噴水の縁に座り、わたしは俯いていた。
今回の作戦……自分の配置にはやはり納得がいかない。
そんな思いが胸に痞えている。
わたしはもっとできるのに……。
強くなりたいのに……。
強くなって仇を討つために冒険者になったのに……。
そんな感情がぐるぐると頭を巡っていた。
『ですが、死んでは意味がありません。』
ガイドさんの言葉は最もだ。
死んだら仇は討てない……全てそこで終わり。
ワイバーンの群れとの戦いが遊びでないことくらい、わたしにだってわかっている。
でも、死を恐れていたら強くもなれないだろう。
『…………』
わたしの思いを知っているのか。
ガイドさんはそれ以上何も言わなかった。
師匠なら、どう言うだろう……。
ふと、そんな思いが頭をよぎった。
これまで、鍛錬だろうが実戦だろうが、そこには師匠が必ずいてくれた。
そして、わたしの挑戦を見守り、時に助けてくれたのだ。
でも、今回はわたしは1人。
窮地に陥っても、師匠の助けはない。
おそらく、その先に待つのは……死。
『一言……申し上げてもよいでしょうか?』
珍しく、ガイドさんがわたしに断りを入れた。
いつもはそんなことせずとも、思ったことをズバズバと言うのに……。
そんな疑問が浮かんだが、わたしはそれを口にはせず、素直に頷いた。
『では……。わたしは元々、ダビドの権能です。長い間を共にしてまいりましたので、彼のことは理解しております。そこから推測した彼の言葉……それをお伝えしても?』
ガイドさんの……いや師匠の言葉。
わたしはそれを素直に聞きたいと思った。
「うん……。」
わたしが小さくため息をつくと、ガイドさんも少しの間を置いて言葉を連ねた。
『いいか、パルト……大きな戦いの中で大切なことは、何も相手を屠ることだけではないぞぃ。戦況を把握し、必要な場所で必要なことをする。これが重要……だが、誰にでもできることではない。まずは自分のこれまでの経験や体験を通じて、やるべきことを見出すのじゃ。』
「やるべき……こと……」
『そうじゃ。お主にしかできないことが、必ずそこにある。今はわからないかもしれないが、それをよぉ〜く考えるんじゃ。』
正直、よくわからなかった。
自分のやるべきこと……それが何なのかなんて……。
『ダビドは全てを伝える人ではありません。ですが、何かを言う時、そこには必ず意味を持たせていました。ちなみに、この言葉はあなたの父ボーノにも伝えられています。』
「父さん……に?」
『はい。』
父さんも師匠から同じ言葉を受けていたという事実に、わたしは自分の心が少し晴れた気がした。
父さんのことだから、もしかすると簡単に答えにたどり着いたのかもしれない。
けど、師匠からの課題に同じように取り組んでいること。
それが単純に嬉しかった。
『それと……最後にこれはわたしからです。』
「ガイドさんから……?」
師匠の言葉ではなく、自分からだと言うガイドさんの言葉に、わたしは耳を傾けた。
そして、涙が溢れてしまった。
『父ボーノはお一人でした。ですが、あなたには仲間がいます。それを頼るべきかと……。』
瞳が熱くなり、視界が涙でぼやけていく。
そんなわたしの後ろから、声が聞こえてきた。
「パルト!!やっと見つけた……!!」
アナスタシアの声が背中に届いたが、わたしは振り返ることができず、必死に涙を拭っていた。
強くなりたいパルトですが、なかか上手くはいきません。
ですが、仲間はいます。
これまで1人だったパルトにはアナスタシアがいる。
それに気づかされたパルトでした。




