5 師匠とわたし②
5話目です!
よろしくお願いします!
「無心……無心……無心……」
そう呟きながら、わたしは全身に魔力を巡らせていく。
血液の流れを感じ取り、そこに魔力を乗せ込むイメージ。
それをしっかり意識して……
あれから1週間。
わたしはダビドの指南を受け、魔力操作をなんとか体得していた。
全身に魔力を巡らせる循環と、その状態から手先足先へ全身に隈なく一定量の魔力を移動させる操作。
ダビドのように流麗にとはいかないけれど、この2つの技術を理解したわたしにも、魔力操作によるスキルの発動ができるようになったわけだ。
魔力操作を体得してみて、実感したことがある。
それはスキルの発現性の高さだった。
これまでなら手のひら大のウォーターボールしか発現できていなかったのに、魔力操作を使った場合はこのとおり。
「ウォーターボール!!!」
直径2メートル程度の大きさのウォーターボールを、簡単に作り出せるようになったのだ。
真上に打ち上げたその水球は、ある程度の高さまで届くと、重量の影響を受けて弾け飛ぶ。
その水飛沫は、まるで雨のようにあたりに降り注ぎ、晴れた空に虹を浮かばせた。
そんな美しい様子を眺めながら、ちらりとダビドに目を向けると、彼は嬉しそうに手を叩いている。
そんな彼を見て、わたしはこれまでの自分の未熟さを恥じていた。
ダビドが言っていたことの意味が、今ではよくわかる。
わたしは今まで、"操作"でしか魔力を扱えていなかったということが。
スキルの本質を……いや、魔力の本質を理解せず、のうのうと生きてきたことに対して、こんなにも恥ずかしさを感じるとは思わなかったが、それと同時に、こんなに勿体ないことはないという気持ちも溢れていた。
これを……スキルをもっと極めたい……
そんな衝動が、胸のうちに燻っているのを感じたのだ。
まずはこれから、ダビドの下で魔力の扱いとスキルを学ぼう。
そう勝手に決意していた。
また、他にも発見はあった。
例えば、"循環"という技術は、身体能力の全体の向上に寄与していること。
これは1番初めにダビドから教えられたことだが、言葉で教えられるのと実際に体験してみるのとでは、理解度が全然違った。
魔力を全身に巡らせることで脳や筋肉など、臓器も含めた全身を活性化させることができ、そのおかげで身体的な基礎能力が向上する。
それに加えて、"操作"をうまく使えば、部位の強化にも繋げられる。
こうやって循環を使ったまま拳に魔力を寄せれば、小さな岩くらいは素手で割ることができるくらいに。
ダビドが言うには、これこそが"循環"の真髄であり、熟練者にもなれば体を鉄のように硬くすることも可能だとか。
そして、これもまたスキルの一種であり、俗に"身体強化スキル"と呼ばれているそうだ。
例えば、"剛力"と呼ばれるスキルがある。
これは名前のとおり、魔力を拳や筋肉に集中させ、強大なパワーを生み出すスキル。
まさに今、わたしが実演したやつだ。
このスキルの熟練度が上がれば、岩や壁なんか豆腐のようにぶっ壊せるらしい。
昔聞いた「ある英雄が山を割る話」は、このスキルが原点なのかもしれない。
あとは剛力以外にも"遠視"や"思考加速"など、体のどこかを強化するものがたくさんあるらしい。
わたしはそれを聞いて胸を躍らせたが、同時にひとつ疑問が浮かぶ。
「わたしたち兎人族は足に自信があります。それも身体強化による効果になりますか?」
「良い点に気づいたのぉ。じゃがな、亜人族については一概には言えんのじゃ。」
ダビドはその問いに小さく笑った。
「お前さんも知っとるとおり、亜人にはいろんなタイプがおる。虎、獅子、蜥蜴、犬、猫などなど。わしでも全部は把握しきれんほど、その種族は多い……」
彼はそう話しながら、白い髭をゆっくりと撫でる。
「その中でわかりやすく例に挙げるなら、虎や獅子タイプの亜人じゃろうか。筋力が異常に高いあやつらは、"パワータイプと位置付ければわかりやすいかのぉ。そんで、その基礎的なフィジカルの高さは魔力ではなく、亜人としての性質によるんじゃな。」
「亜人としての性質……?」
「んじゃ。簡単に言えば、生まれ持った才能のことじゃな。あやつらのほとんどが恵まれた体格を持っておるじゃろ?あの太い腕は、まさに種族としての才能じゃよ。まぁ、性格的にも粗暴な奴らが多いが……。その点、兎人族は身軽な体格をしている者が多いのぉ。」
なるほど……と思った。
確かに兎人族は身軽な者が多かった。
その分、他の種族に比べて全体的な力も劣っているけど、脚力だけは誰にも負けない自信を皆が持っている。
もちろん、わたしにだってそういう自負はある。
そして、わたしは自身の記憶の中で、自分が集落で一番足が速かったという事実を覚えている。
それが唯一の自慢であったことも……。
要するに、私たち兎人族は先天的に脚力に特化しているのだ。
魔力の"循環"や"操作"を知らずとも、その脚力で他種族を凌駕できるほどに。
そう理解できた。
「お前さんたちはまさに兎じゃ。じゃから脚力が異様に強い。いわば"スピードタイプ"と言えばよいかのぉ。種族に二つ名をつけるとするなら、まさに"スピードスター"じゃな。」
わたしはダビドの言葉を聞いて、気持ちが湧き上がる気がした。
これまで兎人族は蔑まされることが多かった。
足が速いだけで、他はてんでダメな種族。
そんなレッテルを貼られていたからだ。
でも、ダビドは兎人族を誉めてくれた。
それが何より嬉しかったし、この脚力に"魔力操作"を掛け合わせれば、そんなレッテルを剥がすことができるんじゃないか。
そんな気持ちが芽生えていた。
記憶が戻るまでは、ここでしっかりと基礎を学ぼう。
わたしは、本気でそう考え始めていた。
◆
ある1匹の魔物が、暗い森を駆けている。
特に息を切らす様子もなく、彼は転げて朽ちた大木や大きな岩を難なく飛び越えていく。
時折、彼は立ち止まると、何かの匂いを辿るように地面に鼻をつけた。
誰かを追っているのだろうか。
それとも、今日の晩ご飯となる獲物でも探しているのか。
それは彼にしかわからないことだが、とある川辺にたどり着いた時、どうやら目的の何かを見つけたらしい。
彼はその匂いを辿るように、紫色の双眸を森の先へとジッと向けていた。
無くした記憶の不安はありますが、集中できるものを見つけたおかげで、パルトの心も変化していきます。
でも、不穏な影もまた…。




