4 師匠とわたし①
次の日から、わたしはダビドの鍛錬について行くようになった。
もともと信用はしていたんだけど、昨日のことでわたしは彼を信頼できる人だと理解したんだと思う。
それを知っているのかはわからないけど、洗濯、薪割り、森での採集などの手伝いを全部終わらせると、ダビドはわたしを鍛錬に誘ってくれるようになった。
もちろん、あの場所に着くまでの間、彼のスピードについていくのがやっとだったけど、なんとなく彼はわたしがついてこれるギリギリのスピードで走っているように思えた。
広場に着くと、彼は鍛錬の傍らでいろんなことをわたしに教えてくれた。
例えば、人間族の街の話。
人がどんなコミュニティを形成していて、どんな生活を営んでいるのか。
何を好み、何を嫌のか。
何を目指し、何を志し、何を求めるのか。
わたしたち兎人族とは違う人間族の文化の話は、とても興味深いものがあった。
あと冒険者の話も面白かった。
街にはギルドという冒険者を管理する施設があり、冒険者という職業を生業とする者たちが溢れているらしい。
ギルドには、いろんな人や団体、国などからいろんな依頼が寄せられ、冒険者たちはそれらの中から身の丈にあった依頼をこなし、日銭を稼いで食い繋ぐ。
人に害なす魔物を狩ったり、洞窟で鉱石を採取したり、あとはダンジョンから指定されたお宝を取ってくることだってあるそうだ。
一攫千金。
ハイリスクハイリターン。
そんな彼らの自由奔放な生き方は、わたしの童心をくすぐったことは間違いなかった。
ダビドは他にも、魔物の話やエルフ、ドワーフなど他種族の話など、いろいろ教えてくれた。
そのどれもが新鮮で興味深くおもしろくて、わたしは無我夢中で聞き齧っていたが、ある話になった時、わたしの中の常識は完全に覆されることとなった。
それはスキルに関する話だった。
もちろん、わたしだってスキルに関する基礎的な知識くらいは持っている。
スキルとは、この世界の摂理。
この世界を創った誕生の女神が、生き物全てに与えた恩恵である。
この世界には多くのスキルが存在していて、人、魔物に関わらず、様々な生き物が様々な場所でそれらを行使している。
そして、それらのスキルを行使するためには、体内エネルギーのひとつである"魔力"が必要だ。
魔力は心臓の横にある魔力核から生成され、血液と同じように全身を隈なく流れている。
スキルを使う場合は、この魔力をひとつの場所(例えば手のひらとか)に集めたりして、体内へと押し出す。
そうすれば、このとおり。
「ウォーターボール!」
手のひらから水球を放つことができる、というわけだ。
魔力とは、万物に与えられた神からの敬愛の証。
これを自在に操ることで、人も亜人も魔物も隔てなくスキルを行使できるわけだ。
だが……
「さすがは兎人族じゃな。綺麗な魔力の動かし方をしとるわい。」
わたしはすぐに鼻を高くする。
だが、そのあと彼が放った言葉を聞いて耳を疑った。
「しかしまぁ、自然に生きる者は本能的に魔力の操作の仕方を知っている場合が多いからのぉ。ちなみにじゃが、お前さん、そのスキルがどうやって起きてるのかは知っとるか?」
どうやって……起きている……か?
わたしの頭に疑問が浮かんだ。
そう言われてみれば、わたしはスキルの原理をよく知らない。
森で生きるために必要なものだったし、普段から何気なく使っているスキルだ。
大人たちから教えられたこともほとんどなく、それがどのようにして起きているかなんて、あまり考えたこともなかった。
首を傾げているわたしに対し、ダビドは小さく微笑む。
「魔力を扱うにはな、まず"循環"という技術を行う必要があるんじゃ。この"循環"を行うと、練度の濃ゆい魔力が出来上がる。」
"循環"という言葉を聞くのは、初めてだった。
彼が言うには、"循環"とは体内に流れる魔力を認知して、全身に巡らせる技術。
これを極めると、魔力だけで体の周りに障壁を纏えたり、身体能力を強化できたり、なんとかかんとか……。
頭の整理で必死なわたしは、話に置いていかれないようになんとか耳を傾ける。
「ほんで、次に使うのは"操作"じゃ。練り上げた魔力をコントロールする技術。これを用いて、自分が使いたいスキルを発動させるわけじゃ。」
また初めて聞く言葉。
わたしは、さらに混乱しかけた頭をなんとか整理していく。
"操作"とは、全身に巡らせた魔力をコントロールする技術のようだ。
簡単に言えば、手や足など一箇所に魔力を集めて、そこからスキルを発動させたり、強化させたり……する感じ……だと思う。
やばい……だめだ。
頭がこんがらがってきた。
どちらも魔力を体内で移動させることだけど、何が違うの?
"循環"は巡らせて、"操作"は集める?
なら、2つを同時にすると矛盾が起きない?
沸いたわたしの脳みそから湯気が上がる。
考えても考えても、答えに辿り着けない。
そもそも、無意識にしていたことだから、理解しようとしても無理がある。
そんな風に必死に疑問符と戦っているわたしを見て、ダビドは笑った。
「混乱しとるようじゃのぉ。確かにこの2つは同じことをしているように思えるからな。じゃが、ことは単純じゃよ。」
優しい口調と柔らかな笑みをわたしに向け、彼は無知なわたしに丁寧に教えてくれた。
"循環"と"操作"は、あくまでも技術のひとつであり、それぞれを単独で行うときに称されるただの言葉である。
それよりも重要なのは、この2つの技術の練度を高めること。
"循環"させ、"操作"する。
この2つを滞りなくスムーズに行えるようにすること。
そうしているうちに、2つの技術が重なり合って魔力をスムーズにコントロールできるようになる。
その状態を"魔力操作"と呼ぶそうだ。
本来はこれがスキルの基本であり、魔力操作がしっかりと使えれば、スキルの幅も熟練度も大幅に向上する……ということらしい。
「とまぁ、口で説明するよりかは、実際に見せた方がよかろう。」
ダビドは置いてある木剣を取り上げると、ゆっくりとそれを構えた。
「ゆっくりやるから、よう見とくんじゃぞ。」
わたしが頷くのを見て、ダビドは小さく微笑むと、静かに正面を見据える。
「どうじゃ?見えるか?」
ダビドにそう言われて目を凝らしてみると、彼の全身が微かに光っていることに気づいた。
薄紅の炎のような流体が、彼の体の周りでゆっくりと流れながら揺れている。
わたしはそれが、彼の洗練された魔力だとすぐに確信した。
とても……綺麗……
それを見た時、最初に浮かんだ言葉がそれだった。
「これは魔力を全身に循環させとる状態じゃな。さっき説明した"循環"と言うやつじゃ。んで、この状態から魔力を操作するぞ。」
彼がそう告げると、全身均一に纏われた魔力が波打ちながら手先や足先へと移動していく。
わたしはその流麗な様子に目を奪われる。
淀みなく滑らかな魔力の動き。
とても操作しているとは思えない……まるで魔力が意志を持っているかのような……
そんな美しさを感じて、わたしは言葉を失っていた。
「これでもまだまだじゃが……だが、魔力操作というものを少しは理解できたかのぉ。」
その言葉にハッとしたわたしは、反射的に何度も首を縦に振っていた。
そして、その日からわたしは、ダビドとともに魔力操作の体得を目指すことになった。
ご愛読ありがとうございます。
博識なダビド。
そして、そんな彼からいろんなことを学んでいくパルト。
これから少しずつ2人の関係性が変化していきます!
明日もよろしくお願いします!




