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47 災禍級指定

温泉は気持ちがいいものです。


さて、前回ののほほんとは打って変わり、今回は何か起きるようですが、、、

その日、事件は起きた。


わたしとアナスタシアが温泉に入った翌日のこと。


今日は朝からツヴェルクの工房を訪れようと思い、アナスタシアと街を歩いていたところで、前から慌てて走ってきた冒険者に鉢合わせたことが始まりだった。





「お……お前ら、冒険者か!?」



かなり走り回っていたのだろうか。


大量の汗を流し、息も絶え絶えに問いかけてくる冒険者の様子に、わたしたちはどう答えていいかわからず、こくりとだけ頷いた。


すると、その冒険者は少し安堵の表情を浮かべると、1枚の紙をわたしに手渡した。



「ギルドからの緊急招集だ!この街にいる冒険者は全員ギルドに集まってくれと、ギルマスからのお達しだ!」


「緊急……招集……?」



受け取った紙に目を落とすと、そこには大きく"緊急招集通知"の文字が記されている。


その内容はこの冒険者が言うように、全ての冒険者はギルドに集まるようにといった指示が書かれていた。



「具体的な説明はギルドで行われるから、まずはそっちへ向かってくれ!頼んだぞ!!」



冒険者はそう告げると、自分は他の冒険者にも伝えに行くと言い残して、足早に去って行った。



「な……何があったのかな。」



アナスタシアは冒険者の様子に感化されたらしく、不安な表情を浮かべている。


確かに今の冒険者は、かなり焦っていた。


それだけ急を要することなのだろう。



「さぁ……でも、緊急事態であることは間違いない。とりあえず、ツヴェルクさんのところに行くのは後回しにして、指示どおりにギルドに行ってみよう。そうすれば、今何が起きているのかはわかる……。」



わたしがそう提案すると、アナスタシアは少し落ち着きを取り戻し、こくりと頷いた。


わたしたち2人は、来た道を急いで戻り始める。


と同時に、今度はガイドさんの声が頭に響いてきた。



『ギルドから緊急招集がなされたということは、街もしくは国に、何らかの脅威が近づいているものと考えられます。』



走りながらも、わたしはガイドさんの言葉に耳を疑った。



(何らかの脅威……!?)


『はい。基本的に魔物のランクはGからSまでのランクに振り分けられています。個体差はありますが、ドラゴンなどは基本的にSランクに分類されます。そういった魔物たちに対して、ギルドでは適宜ランク付けを行い、それに応じて、適切なランクの冒険者を割り振っていきます。』



魔物のランクと冒険者の関係については、ギルドである程度の説明は受けていたので、わたしの中でその辺の理解は早い。


だが、ガイドさんの説明はその先を行く。



『ですが、時折、人の想定を超える個体が生まれることがあります。』


(想像を超える……個体?)


『はい。それらの個体はSランクを優に超え、災禍級、災害級、災厄級、天災級に分類されます。そして、その類の個体は冒険者単体ではどうにもならない場合が多いです。』



初めて聞く話に、わたしは言葉を失った。


魔物のランクは、冒険者が倒せるかどうかで分類されている。


現在のギルド協会がそう定めている。


例えば、Gランクなら害虫などの魔物で、一般人でも倒せる程度。


そのようにして、FランクならFランク冒険者が、EランクならEランク冒険者が倒せるという感じで、魔物のランク付けが為されている。


だが、ガイドさん曰く、災禍級以上の個体はそんなレベルで評価はされていないらしい。


災禍級なら、街が1つ消える可能性がある。


災害級なら小国程度が滅び、災厄級なら大国や大陸がが滅ぶ可能性が高くなる。


そして、天災級ともなれば、世界終焉の可能性あり……と。


だから、ギルドは冒険者を招集し、ことの対処に当たるわけだ。



『最近ではあまり聞きませんが、過去には一度エンシェントドラゴン(古代龍)の存在が確認されています。』


(エンシェント……ドラゴン……。)



昔、父に教えてもらったことがあるが、その情報は断片的だ。


曰く、世界の守護者や精霊の類。


曰く、土地や生態系など、世界の管理者。


曰く、神々からの裁定者。



様々な逸話や伝説が残る魔物であるが、共通しているのは強大な魔力を持ち、太古から存在する強力な存在であること。



『ちなみに、当時のエンシェントドラゴンは災厄級だったと記録されています。』



それを聞いて、わたしは少し怖くなった。


もしも、今回の招集の原因がそういった類の魔物の出現であったならば、わたしはどうすべきだろう。


何人死ぬかもわからない戦いに身を投じて、本来の目的を達成できなくなってしまったら……。


そんな考えが頭をよぎったのだ。


だが、アナスタシアは、そんなわたしの不安を感じ取っていたようだ。



「パルト……大丈夫だよ!」



そう笑うアナスタシアの言葉に根拠などないし、それはわたしも理解している。


だが、声をかけられたことで、安心することはできた。


今はそんなことで迷っている暇はない。


ここに師匠がいたら、たぶんこう言うだろう。



ーーーほほい!よい修行相手が飛び込んできたぞぃ。



それを想像すれば、いつの間にかわたしの中の恐怖は無くなっていた。



「アナスタシア……ありがとう。」



走りながら御礼を告げると、アナスタシアは嬉しそうに笑う。



「急ごう……!」



わたしとアナスタシアは、スピードを上げてギルドを目指した。



◆



ギルド内は多くの冒険者でごった返していた。


リプリーたち受付嬢も、個別説明や対応に追われて忙しそうに走り回っている。


その中に一際目立つ巨人を見つけ、わたしはアナスタシアと一緒に彼の下へと向かった。



「ギルマス……!」


「お……?嬢ちゃんたちも来てくれたのか。」



ガルシュは嬉しそうに振り向いたが、その表情はいつになく固い。



「緊急招集って……何があったの?」



そう尋ねると、ガルシュは困った顔を浮かべた。



「実は近くの山でワイバーンの目撃情報があってな。すぐに斥候を調査に向かわせたんだ。」



大きなため息をつく彼の様子はいつもと違っており、真剣そのものだ。



「その斥候が今朝帰ってきたんだ。ある報告とともにな……」



真剣な眼差しを向けられ、わたしとアナスタシアは固唾を飲んでガルシュの言葉を待つ。


すると、衝撃的な言葉が彼の口から飛び出した。



「ワイバーンの群れ……それも30匹は堅いそうだ。」



災禍級の魔物の出現ではなかったことは幸いだが、ワイバーンが30匹というのは十分脅威的だ。


だが、ガルシュの懸念はわたしの想像を超えているようだ。



「ギルドとしては、この状況を災禍級指定にする。」


「え……?なんで……?」



わたしは驚きを隠せなかった。


その理由はゴズルの過去の話にある。


あの時は20匹のワイバーンでBランク指定だったはず。


今回30匹いるのであれば、少なく見積もってもAランク指定なのではないか。


そんな疑問がよぎったからだ。



「どうして……災禍級……?!」



別に文句があるわけではない。


ただ、ランク指定が災禍級となるには、別の理由があるのではと考えていただけである。


そして、その推測は間違っていなかった。



「群れの中に別の魔物がいるようでな。そいつがワイバーンたちを統率しているらしい。統率されたワイバーンなんて厄介極まりねぇよ。だから、ギルドとしてはこれを災禍級にまで引き上げることにしたんだ。」


「なるほど。でも、他の魔物がワイバーンを統率なんて……そんなことってあり得るの?」



わたしの問いに対して、ガルシュはお手上げだというジェスチャーをする。


さすがに、この短時間ではそこまで調べることはできていないというのが本音だろう。



では、本当にそんなことがあり得るのだろうか……。



そう考えたところで、お馴染みのガイドさんからの助言が届く。



『普通、ワイバーンが他の魔物に統率されることは考えにくいと思われます。ワイバーンは広義の意味ではドラゴンに分類されます。群れる習性はありますが、それはあくまでもコミュニティ形成のため……他の魔物が統率する可能性は極めて低いと考えられます。』


(ということは、そこから考えられるのって……)


『あくまで推測の域を出ませんが……おそらくは、人為的な何かが作用している可能性が高いと思われます。』



わたしの中で思い浮かんでいた推論。


その考えとガイドさんの考えが一致して、わたしの中で何かが確信に変わる。



「ギルマス……ワイバーンの中に混じっている魔物ってなに?」


「それは判明してねぇ。斥候が見たのは夜中だったからな。ただ、黒く蠢いていて翼があったとは聞いている。」


「そう……」



わからないのなら仕方がない。


今から調べる時間もないし、それはいったん置いておこう。


しかし、黒く蠢く翼を持った魔物なんて、聞いたことも見たこともないが……。



『今のところ、過去の記録には残っていません。情報が足りないようです。』



さすがのガイドさんも、それだけではわからないか。



そうやって推測を重ねているうちに、ガルシュは自分の仕事に戻ると告げる。



「とりあえず、俺は今からホーネスト伯爵へ話を繋ぐ。ワイバーンたちにまだ動きはないから、その間に援軍を頼むつもりだ。」


「あれ……?それってホウレン家の管轄じゃないんですか?」



ガルシュの言葉に、今度はアナスタシアが首を傾げた。


それを聞いて、ガルシュは苦虫を噛み潰したような顔でアナスタシアを見る。



「ホウレン家は今、連絡がつかねぇんだ。屋敷には誰もいねぇし……まったくあのご婦人はなに考えてんだか……!」



ガルシュは吐き捨てるようにして、頭を掻きながら奥の事務室へと消えていく。


その背中を見送りながら、わたしは考えていた。



普段群れないワイバーンの中にいる知らない魔物。


連絡がつかない子爵ホウレン家。


その屋敷の下にある謎の地下施設。


そして、そこで出会ったエルバという謎の黒ずくめの存在。



ピースがハマりそうでハマらない。


でも、これだけは言えると思う。



今回のワイバーン災禍級指定事件は、裏で誰かが糸を引いている……と。



「とりあえず、これからの動きをリプリーに聞こう。」



こういう時は、何事も早めに動くのが鉄則だ。


昔、父からは事前の準備がとても大切で、それが生死を分けると教えられたことがある。


わたしはアナスタシアの手を引き、リプリーを探し始めた。

ワイバーンの数は正直どれくらいにするか悩んだんですが、そもそも一体だけでも厄介だからと思い、30匹にしました。


ゴズルの時より10も多い、、、けど。

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