44 鍛治師ツヴェルク=エドガー
忘れていた大事なこと!
そう!ツヴェルクです!
今回はそんなツヴェルクとの再会のお話です!
「それで……俺に何か用か?」
小柄で筋肉質。
顔は髭だらけ。
そして、その髭を可愛らしいリボンで纏めているドワーフが、紙袋を持ち直しながら少し怪訝な様子で眉を顰めた。
後ろで見ていたわたしは彼の機嫌を心配したが、アナスタシアは特に気にすることもなく笑う。
「いえ、別に用はないですよ。ただ声をかけただけ。」
「そうか……。」
その後は他愛もない話で盛り上がっている2人を見て、ドワーフが決して機嫌が悪いわけではないんだと理解した。
そもそもだが、わたしはこの人に会ったことがあった。
この街に来た時、お腹を空かせて座っているわたしにパンとミルクをくれたドワーフ。
髭を纏めている可愛らしいリボンが特徴的だったから、忘れるわけがなかった。
向こうは……どうか知らないけど……。
この人が……ツヴェルク……さん?
てことは、あの言葉は彼の名前だったのか……。
アナスタシアの陰に隠れ、地図に書かれていた言葉の意味を辿っていると、わたしの存在に気がついたドワーフが眉を顰めてこちらを見た。
「お前さん……この前の娘っ子か。」
わたしは少し驚いた。
あの時はフードを深々と被っていたから、顔は見せてないのによくわかったな、と。
「はい……その節は……あの時のパンとミルク、美味しかったです。」
「なに……気にせんでいいさ。……で、冒険者登録はできたのか?」
「一応は……。」
その問いにわたしがこくりと頷くと、彼は「そうか。」とだけ頷いた。
顔を覆う髭のせいで表情が読みにくく、何を考えているのかはわからない。
会った時もそうだったが、無愛想という言葉が1番似合う。
わたしもあまり人のことは言えないけど、彼の態度を見てそう感じていた。
「あれ?2人はもしかして、知り合い……?」
そんなやりとりを見ていたアナスタシアも、わたしたちの会話に参戦してきた。
「知り合いというか……単に顔見知りなだけだがな。」
「ふ〜ん。なんで知り合ったの?」
「実は……この街に来た時、彼……から食べ物を恵んでもらった。」
わたしが彼と出会った経緯をアナスタシアへと説明すると、彼女は何やら嬉しそうに笑う。
「アナスタシア……なんだか嬉しそうだね。」
「あ……わかる?実はね……」
わたしの言葉にうんうんと頷いたアナスタシアは、その理由を説明し始めた。
それは、この街に着く直前のこと。
森に挟まれた街道を歩いていると、突然魔物たちが襲ってきたそうだ。
何匹かをなんとか撃退するも、相手の数が多過ぎて手に負えなかったため、アナスタシアは街まで逃げることを決意。
だが、その逃走の最中に彼女は不意の一撃を受けてしまう。
幸い、魔物たちは途中で諦めくれたので、何とか街に辿り着き、負った傷を隠しつつ街に入ったまではよかったが、流した血が多過ぎた。
意識が朦朧としてしまい、限界に達したアナスタシアが路地裏で座り込んでいたところ、そこに現れたツヴェルクからポーションを恵んでもらった……ということらしい。
ポーションとは、薬草などの素材を組み合わせて作られる回復薬の俗称である。
そして、ポーションは錬金術によって作られる。
ドワーフは錬金術を得意とする者が多く、その理由にも納得がいった。
「なんかすごいねよね!私たち、事情や経緯は違うけど、同じ人から同じように助けられたんだよ。」
確かに、同時期に同じ人物に助けられた2人が出会うというのも稀なことだ。
アナスタシアの笑顔の理由にわたしが納得していると、今度はツヴェルクから唐突に問いかけられた。
「……で、お前さんたち、登録ランクはどうなった?」
「え……と、2人ともEランクです。」
「……ほう。それはなかなかだな。」
ツヴェルクは顔の中で唯一見えている目を見開いて、驚いてみせた。
「新人冒険者は、大抵は良くてFからだからな。ギルマスに認められたってことか……。試験はしたのか?」
「Dランクの冒険者と手合わせさせられて、2人で何とか勝った……。」
「ほう……それはすごいな。相手は誰だ?」
「ゴズル……っていうゴロツキみたいな奴。」
その名を聞いて眉を顰めたツヴェルクは、「そうか。」と一言だけ呟いただけで、それ以上は何も言わなくなってしまった。
わたしには、ツヴェルクは何だか怒っているように見えた。
納得がいっていない時に浮かべる表情。
そんな顔をしている彼に、とてもじゃないが声をかけられそうにもない。
結果として、3人の間に微妙な空気が流れ始める。
だが、この沈黙は逆にチャンスかもしれないと、わたしは思った。
話を変える絶好のチャンスだと。
唯一の手掛かりであった地図に書かれた言葉。
その言葉と同じ名前の人物が目の前にいるのだ。
師匠について聞きたいことはたくさんある。
そう考えたわたしは、覚悟を決めてツヴェルクに問いかけることにした。
「……ツヴェルクさんは、ダビドという人を知ってますか?」
その瞬間、ツヴェルクの顔に驚きが浮かぶ。
この時点で、作戦は成功したといっていいだろう。
先ほどの不満げな顔は、どこかへ行ってしまっていたので。
「知っとるも何も……ダビドは俺の古い友人だ。若い頃からよくつるんでいたからな。だが、なんでお前さんが奴の名を……?」
それを聞いて、悲しみと嬉しさが同時に込み上げてきた。
だが、ここで泣いてはならないと何とか涙を堪え、わたしは腰に佩いた剣を外し、彼へと手渡した。
「こ……これは……!!」
さらにら驚くツヴェルクに、わたしは溢れる思いを何とか抑える。
「師匠の形見……になってしまいました。師匠は数ヶ月ほど前に……。」
だが、やっぱり涙は我慢できなかった。
剣を手に取るツヴェルクの顔が、師匠の顔と重なってしまい、わたしの心を震わせる。
「奴が……死んだのか。」
「はい……。」
「信じられん……。ドラゴンですら単騎で倒しちまう男だぞ……?」
それを聞いて疑わないのは、わたしが師匠の弟子だからだろう。
その証拠に、わたしの横にいたアナスタシアは当惑しているようだ。
その顔に畏怖の色を浮かべている彼女を見て、本当はそれが正しい反応だよねと思った。
思い出されるのは、師匠とのドラゴンのくだりだ。
ーーーこのスキルを覚えれば、ドラゴンくらいは相手にできる。
その言葉がフラッシュバックして、師匠との思い出と共に涙が溢れた。
「そうか。奴が死んだか……。」
ツヴェルクもまた、困惑は隠せないようだ。
眉が下がっていて、突然の訃報に悲しんでいる様子が窺える。
旧友が死んだのだから、無理はないだろう。
だが、わたしはその死を彼にちゃんと伝えたいと思っていた。
「彼は……師匠は殺されました。」
「……殺された?誰にだ。」
驚きの中には、怒りが混じっているのがわかる。
ツヴェルクは、視線を上げてわたしをまっすぐに見た。
「よくわかりませんが……紫色の髪をした魔人族の男に……です。」
「魔人族……。」
瞳の奥に炎が宿った気がした。
もちろん、彼はそれを表には出さないが。
「ここに来たのは……これを見たからです。」
わたしは、鞄から取り出したボロボロの地図を開き、それをツヴェルクに見せた。
「ここに"ツヴェルク"と書いてありました。何のことかはわかりませんでしたが、師匠が残したこの言葉を頼りにここまで……。」
「奴め。こんなもんを残していたのか……。俺はたまに拠点を変えるからな。その時は事前に知らせを送るんだが……奴は決まって、地図に俺の居場所を書き留めて置くんだ。」
昔を思い出しているのか。
ツヴェルクは少し遠い目をして、地図を眺めていた。
「ここに来て十数年が経ったな。その間にいろいろなことがあったが、奴だけは変わらなかった。なのに、先に逝っちまいやがって……。」
ツヴェルクは溢れた涙を静かに拭うと、再びわたしを見た。
「お前さんの父は……名前はボーノか?」
「え……!」
突然、ツヴェルクの口から父の名が出てきて、わたしは言葉を失った。
なんでこの人が父を……?
そんな疑問が頭を巡るが、ツヴェルクはすぐにその答えを教えてくれた。
「兎人族だからピンと来た。この剣はな……俺が打ったものだ。ダビドに頼まれて、お前さんの父親に送るために……な。」
ツヴェルクは自分の腕に刻まれた刺青を見せた。
それは剣の柄に描かれたものと同じもの。
「あなたが……父に……?」
「そうだ。あの時はダビドが突然、氷化石鉱を持ってきてな。祝いをやりたいから、剣を作ってくれってよ。まぁ、奴には世話になったし、全然構わなかったんだが……。それからすぐにこの剣を打ち、ダビドに送った後だったな。ボーノが死んだのは……。」
父はわたしが5歳の時に死んだ。
土竜の亜種アグレスという魔物と戦って。
「俺は悔しかった。ボーノは兎人族だが、一流の冒険者だった。今でも思うぜ……この剣が届くのが先だったら……なんてな。」
ツヴェルクは悔しそうにそう溢すと、剣をわたしへと返す。
「これはお前さんのだ。」
「え……でも……!」
「ダビドがお前さんにやったんだろ?なら、もうそれはお前さんのもんだよ。だから……使ってやってくれ。その方が、そいつも喜ぶ。」
ツヴェルクはそう言うと、大きなため息をつく。
そして、ゆっくりと歩き始めた。
剣を受け取ったわたしは、なんと言っていいのかわからず、そんな彼を目で追った。
アナスタシアも言葉は出てこないらしく、同じように彼を眺めている。
すると、ツヴェルクが立ち止まって振り返った。
「俺はこの先の鍛治工房にいる。なんかあったら、いつでも来い。」
ツヴェルクはそう笑って右腕で力こぶを作ると、再びゆっくり歩き出した。
わたしは、その背中に対して深く頭を下げた。
今回は少ししんみりとする回でした。
しかし、師匠の旧友との出会いがこれからパルトにどんな事をもたらすのか。
僕は楽しみです!




