43 完全に忘れていてごめんなさい。
ワメキヤたちの計画は水面下で進んでいるのですが、、、
パルトたちはそんなことは梅雨知らず。
今回はいろいろとのほほんとします。
ギルドに運び込まれて2日が経ったが、わたしはすでに外を歩けるまでに回復していた。
なので、ギルドを後にしたわたしはアナスタシアとともに、街の中心地へと向かっていた。
わたしの回復力を見てリプリーは驚愕していたが、ガルシュは笑っていながら「ほら、食えば治った。」と言っていたのを思い出す。
それを聞いたわたしは、やっぱりガルシュの考えが暴論としか思えなかった。
ちなみに、わたしのこの類い稀なる回復力は、師匠に教わった身体強化のおかげだ。
師匠曰く、身体強化は戦闘の時だけ使うものではないと言っていた。
常日頃から使い続けていれば、持久力や回復力の基礎向上にも繋がるとも。
だから、わたしは常に身体強化を使っている。
今回、それが功を奏したのだと思っている。
思っているのだが、ちょっと効果が出過ぎな気もしていた。
さすがに全治1ヶ月が2日で完治はやり過ぎだよね……。
『ですが、早ければ早いに越したことはありません。』
そうかな……まぁ、確かにそうだよね!
頭の中で響いたガイドさんの言葉に、わたしは気持ちを切り替えることにした。
「この街で活動するなら、まずは拠点を決めないとだね。」
横にいるアナスタシアがそう呟いたので、わたしは首を傾げた。
「拠点……?」
目が点になっていると、アナスタシアはクスクスと笑う。
「うん。ここトゥウランで冒険者として活動するなら、家は必要だよね。できれば戸建てがいいんだけど、費用が高いから初心者冒険者は、賃貸物件を借りることが多いらしいよ。あとは、一時的に留まるにしても、どこかに宿を探さないと……。」
なるほどと思った。
この街までの道のりでは、基本的に野宿できたからまったく気にしてなかったが、確かに寝泊まりする場所は必要だ。
ギルドに世話になるわけにもいかないし、わたしだっていつまでも地面で寝るのは勘弁願いたい。
だから、その提案には賛成だった。
ただ、この街にずっと留まるつもりもなかった。
あくまでも、このトゥウランは冒険者に登録するために寄っただけで、資金が貯まれば次を目指すつもりだ。
その次がどこなのか……まだ、わからないけど……。
『計画無しに街の外に出ることは、推奨しません。』
そんなこと……わかってるし……!
いちいちツッコんでくるガイドに対して、内心で舌打ちしたつもりが漏れ出ていたらしい。
隣で驚いているアナスタシアに気づき、焦りつつも何とか誤魔化した。
「オ……オホン……でも、宿探しの前にしたいことがある……。」
「そうなの?」
わたしの提案に、今度はアナスタシアが疑問を浮かべた。
そうだ。
わたしにはまずやりたいことがある。
そのためにお金を稼いだんだとも言える。
だから、まずやるべきは……
「まずはご飯……ちゃんとしたご飯が食べたい。」
『…………!?』
わたしが本音を呟くと、ガイドさんが何やら驚いている気がした。
だが、そんなことに構っている暇はない。
ギルドのご飯もちゃんとしたご飯だったが、あれはまさに病院飯だった。
栄養バランスを考え抜かれた怪我人や病人に提供されるまさにそれ……。
さすがのわたしもそれだけでは物足りず、リプリーに肉串が食べたいと言ったら叱られたことを思い出した。
しかし、ダメだと言われると俄然やる気が漲ってくるというものだ。
「なるほど……。それなら、何か食べたいものはある?私、この街に来ていくつか行った店があるから、案内できるよ。」
「ほんと……!?」
アナスタシアの言葉が、女神様の啓示に聞こえた瞬間だった。
わたしの頭の中に、いくつかメニューが浮かび、口の中に涎が溢れ返って止まない。
肉串、肉串、肉串、肉串……
『……肉串しか知らないのでしょうか。』
そんなわけでないでしょ……!
……もう……いちいちツッコまないで!!
今度はアナスタシアにバレないよう内心でガイドを一喝すると、まずは思い浮かんだものを提案した。
「なら、まずは肉串……この先の屋台で見た……。」
「あ!あそこの屋台だね!あれは確かに美味しかったな!」
アナスタシアもあの屋台を知っていたと聞いて、何だか嬉しくなった。
「よし!じゃあ、行こう!」
アナスタシアがわたしの手を引いて駆け出したので、それを受け入れるようにわたしも駆け出した。
わたしたちは噴水の横を駆け足で通り過ぎ、屋台が並ぶ通りへと足を運ぶのだった。
◆
「ふ〜!」
お腹が苦しくて大満足だ。
苦しいのに幸せな気持ちになれるなんて、こんな素晴らしいことはないだろう。
わたしが幸せな顔を浮かべ、パンパンに膨れたお腹を摩っていると、アナスタシアが少し呆れた顔で笑う。
「めちゃくちゃ……食べてたね。」
「うん……4万フィルのうち、2万フィル使っちゃったからね。」
嬉しさと幸せが顔から溢れ出そうだった。
1回の食費に2万フィル。
それはかなりの豪遊だろう。
でも、肉串を始めとする絶品の数々に、理性が抗うことを辞めてしまったのだから仕方がない。
もちろん、約束どおりアナスタシアにもちゃんと奢った。
自分だけ図々しく食べていたわけではない、ということをしっかりと伝えさせていただこう。
『いきなり食べ過ぎると、胃が驚きます。』
お母さんみたいなことを言うなと、ガイドさんの言葉に笑みが溢れたが、今は何を言われようと許せる気がした。
それほどまでに満腹とは至福……食べることは大切なのだ。
「少し休んだらどうする?今度は宿を探しに行く?」
「う〜ん……そうだね。まずは宿……その後にアレかな。」
「……アレ?」
含みを持たせた言い方に、アナスタシアは首を傾げた。
わたしは少し優越感を楽しみつつ、次にやりたいことをアナスタシアへと告げた。
「お風呂に入りたい。ずっとずっと……ちゃんと入れてないから……。」
『…………!?』
またもや驚いているガイドさん。
何をそんなに驚くことがあるのかと、逆に疑問が浮かんでくる。
何か忘れていることがあったっけ……?
だが、背に腹は変えられないのであるからして、今の優先事項は宿と風呂。
これに確定しているのだ。
「なるほど……。なら、宿は当てがあるから、まずはそこに行ってみよう。ちゃんと部屋が取れたら、お風呂に行くっていうのはどうかな?」
悩む必要も断る必要もない。
わたしはアナスタシアの提案に、瞬時に頷いていた。
・
・
・
宿はすんなりと押さえることができた。
それもこれも、アナスタシアのおかげである。
彼女はこの街に来てから、この宿を拠点にしているらしく、客の紹介とあれば、宿として信用できると判断されたようだ。
と言っても、アナスタシアもわたしとほぼ同時期に街に着いており、その足でギルドを訪れているらしい。
だから、この宿もそこまで使用はしていないんだとか。
要するに、ここまでわたしと行動を共にしてきたから、押さえるだけ押さえて一切泊まっていないということ。
それを聞いたわたしは、何だか申し訳ない気持ちになったが、アナスタシアはくすりと笑った。
「では、お待ちかねのお風呂と参りますか。」
曇った顔のわたしに向けられたアナスタシアの笑み。
そこには「気にしないで。」と書かれている気がして、わたしはそれが少し嬉しかった。
「よし!なら、温泉に行こうか!ここからなら、1番近いのは"スパ・トゥウラン"かな。」
"スパ・トゥウラン"
シンプルだが、何と心地よい響きだろうか。
これから訪れる至福の時間が頭の中に溢れ返り、わたしは漏れる笑いが止まらない。
だが、ここでもまた、ガイドさんが水を差す。
『やるべきこと……他にもあるはずですが……』
今はそういうのはいいんだって!
とりあえずはお風呂!
女の子にとって、命とも言えるお風呂の時間なの!
わたしが再び心の中で一喝すると、ガイドさんは完全に黙り込んだ。
それに満足したわたしは、アナスタシアと共に"スパ・トゥウラン"へと向かった。
だが、その道中に事件は起きた。
「あれ?ツヴェルクさんだ!」
アナスタシアの言葉を聞いて、疑問が浮かんだ。
ツヴェルク……?どっかで聞いたことあるけど……。
首を傾げるわたしをよそに、アナスタシアは手を振りながら道の先に見える男の下へと駆けていく。
少し先にいるドワーフの男。
買い物の帰りか何かで、大きな紙袋を抱えている。
小柄で、筋肉質で、顔全体が髭で覆われて……
その髭は三つ編みで、可愛らしいリボンで……
「あ……!!そのリボン……!!」
わたしは大きな声を上げていた。
"ツヴェルク"って……まさか!?
すぐに地図を取り出して開くと、そこに書かれている"ツヴェルク"という言葉。
『重要な案件を思い出して何よりです。』
皮肉っぽくそう呟いたガイドさんの言葉に、わたしは恥ずかしくて小さくなるのであった。
そうですよ!
この街に来た理由はもう一つあったんですよ!
完全に忘れていました。
(パルトがですよ?僕じゃないです。)




