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41 エルバ

前回、黒い感情に飲み込まれてしまったパルト。


今回はアナスタシア視点です!

アナスタシアは、パルトの下に急いでいた。


走ると黒ずくめの女に斬られた傷が痛む。


だが、パルトと女の決着がついたのだから、そうも言ってられない。


早く彼女の下へ行き、マルシアを連れてここを離れなければならない。


こんな物騒な場所、早くおさらばするのが1番だ。


走りながら、そう考えていた。



だが、パルトの下へたどり着いたアナスタシアは、彼女の様子が明らかにおかしいことに気づいた。


舞い上がる粉塵の前に片膝をつくパルト。


俯いていて表情は見えないが、背中から黒いオーラが漏れ出ている。


何よりも、彼女はまだ戦闘態勢を解いていない。


アナスタシアにはそう感じられた。



「パルト……!」



恐る恐る声をかけてみる。


だが、パルトからの反応はない。



(……意識を失っているだけなら、そのまま担いでいこう。)



そう思い、近づいた矢先、パルトがゆらりと立ち上がってこちらを向く。


その顔を見て、アナスタシアはギョッとした。


美しい真紅の瞳は真っ黒に染まり、黒いオーラが体から漏れ出ている。



(え……これ……パルトだよね……?)



まるで本人ではないような……そんな雰囲気を彼女は纏っていた。



「ぐ……うぅ……」



突然、パルトが頭を抱えて苦しみ出した。


それを見たアナスタシアは、急いでパルトの側に駆けつけた。


だが、そこで待っていたのはパルトから放たれた鋭い拳。



「う……わっ!!」



辛うじてその拳はかわしたが、それを機にパルトはアナスタシアへと襲いかかる。



「ちょ……パルト!!やめてよ!!」



何度も放たれる拳や蹴り。


それらを避けながら、なんとか説得を試みるが、アナスタシアの声はパルトに届いていないようだ。


だが、パルトの動きはまるで理性を失っているかのように見える。


それに、攻撃も大振りでいつもの洗練さはなく、リズムも単調。



(これは……彼女の意思ではないのかも……)



もしかすると、パルトも何かと戦っているのではないだろうか。


そんな疑問は、すぐに確信へと変わった。



「う……し……師匠……」



腕を振りながら、言葉を漏らすパルト。


その言葉は最愛の人へと向けられたものだと、アナスタシアはすぐに理解する。



(わたしにも大切な人がいる……。先生……今度はわたしが、彼女を助けます!)



思い返せば、パルトには助けられてばかりだ。


ゴズルとの戦いの時だって、わたしはほとんど何もできてないのに、パルトのおかげでゴズルを倒し、Eランクから冒険者登録ができたんだ。


今回だってそうだ。


あの時、本当ならあの女に首を落とされていた。


でも、パルトがそれを救ってくれた。


だから、わたしは今こうして生きていられる。



アナスタシアは避けるのをやめた。


その瞬間、パルトの拳が頬を打つ。


口の中が切れて鉄の味が広がったが、アナスタシアは怯むことなく、パルトへと近づいた。


ゆっくりと……打たれても蹴られても動じることなく、真っ直ぐにパルトを見据えて近づいていく。


そんなアナスタシアの行動が、パルトの心を戸惑わせた。



「う……うぅ……」



表情に浮かんだ戸惑いは、拳にも伝播する。


もはやアナスタシアを打つ拳や蹴りに力はなく、よろよろとした足取りで後退していくパルト。


明らかにアナスタシアの気迫に気圧されていた。



「もう大丈夫……大丈夫だから。」



何と声をかけるべきなのか。


アナスタシアはそれを知っていたわけではない。


ただ、自分ならかけて欲しいと思った言葉を、無意識にパルトへと向けていたのだ。


そうして、アナスタシア行動はパルトを救う。



「………………ア……アナス……タシア?」


「パルト……!気がついたんだね!!」



我に返ったパルトが驚いた表情を浮かべているのを見て、アナスタシアは安堵する。



「よかった……。」



そう呟くアナスタシアに抱き締められたパルトは、何が何だかわからないといった表情を浮かべている。



それもそのはずだ。


今まで理性を失っていたのだから。



「お疲れ様……パルト。本当にありがとう。」


「……え……何が?わたしは……あれ……?」


「あいつはパルトが倒してくれたよ。」



そう呟いて、女が吹き飛ばされた場所を指差した。


パルトもアナスタシアに肩を支えられ、そちらを向く。



舞い上がった氷の粉塵たちが、ちょうど落ち着きを取り戻し始めた頃合い。


薄っすらと見える先に女の姿があった。



「「え……」」



声を合わせて漏らした言葉は、困惑に染まっていた。


なぜなら、女はその場に倒れているのではなく、立ったままこちらを見据えていたからだ。


女の様子に、すぐさま立ち上がろうとするパルトだが、全身に走る激痛で動くことすらままならない。


それもそのはずだ。


突然、あんな強力な力を使ったのだから、その反動を受けても仕方がない。



(……わたしが……わたしが守るんだ。)



アナスタシアはそう決意した。


一度は殺されかけた相手……だが、助けてくれたパルトは当分動けないだろう。


ならば、今度こそ自分が……



「パルト……ちょっと待っててね。」


「ア……アナスタシア!いいから逃げて……!」



パルトは不安げな顔を浮かべ、逃げろと言う。


だが、自分もすでに冒険者なのだ。


運命に逆らうため、色々なしがらみを振り払い、今ここにいる。


ここで立ち上がらなければ、この先も運命に自分は抗うことはできない。



アナスタシアはパルトに笑みを向けると、自身の剣の鞘を地面に突き立て、そこにパルトの背を預けた。



「アナスタシア!ダメだって……ぐ……」



パルトの悲痛の声が後ろ髪を引く。


だが、アナスタシアそれを振り払うと、女に向けて剣を構えた。



ふらふらと左右に揺れる女は沈黙していたが、アナスタシアの気配を感じ取ってか、ゆっくりと顔を上げる。



「アハ……かなり……効いた……なぁ。」



ボロボロの笑みを溢す女は、衣服もボロボロだ。


もちろん、顔を隠していたフードも破れており、奴の顔が窺える。



あどけなさの残る少女の顔……。



だが、それ以上に彼女の特徴を捉えたアナスタシアは、ハッと息を飲んだ。



雪のような白い髪。


その中で灯る真紅の瞳。


何より長くて可愛らしい特徴的な耳。


髪の色以外は、パルトとほぼ同じ……女は兎人族だったのだ。



振り返ってパルトを見れば、彼女も驚いているようだ。


視線を逸らさず、目を見開いたまま、ジッと女のことをみている。


すぐさま向き直したアナスタシア。


剣を握る手は、少し震えていた。



「う〜ん、正体バレちゃ……たかぁ。これはボスに……怒られるかな……。」



女の呟きに、アナスタシアは眉を顰めたまま、耳を傾ける。



「これ以上は……無理だよ……ねぇ……うん。痛いなぁ……とりあえず……今日は帰ろう。」



その言葉に、アナスタシアは咄嗟に反応した。



「あなたは……何者!?」



アナスタシアの問いに女は笑う。



「わたし……?そういえば、名乗ってなかったんだっけ……。」



かなりのダメージを受けているはずなのに、彼女はおどけた顔を崩さなかった。



「わたしは……エルバだよ〜。王国領で生まれた……ラビテリア……そっちのあなたは……?」



エルバと名乗った兎人族の少女の興味は、問いかけたアナスタシアよりもパルトにあるらしい。


もちろん、それはパルトも同じだったようだ。



「わたしは……パルト……。ラビリトルの……」


「うんうん……パルトちゃんかぁ……」



パルトの答えに嬉しそうに頷くエルバだが、正直立っているのがギリギリにも見える。


できるならば、ここで奴にトドメを刺しておきたい。


でないと、彼女は再びわたしたちの障害になり得る。


アナスタシアはそう感じていた。



だが、なぜか足が前に出ない。


思いとは裏腹に、体が言うことを聞いてくれない。


アナスタシアの本心は、エルバにトドメを刺すことを躊躇しているようだった。



アナスタシアが葛藤と戦っていると、エルバが笑う。



「とりあえず……今日はここまで……イテテ……パルトちゃん……また会いたいねぇ……。」


「わたしは……会いたくない……。」


「相変わらず……つれないなぁ。フフ……それじゃ……。」



エルバはそう言うと、腰元にぶら下げていた黒紫色の石を指で割った。


その瞬間、黒い靄が現れ、彼女はその中に姿を消す。


「バイバイ……またね。」という言葉だけを残して。



「お……終わった……。」



アナスタシアの口から無意識に漏れ出た言葉には、安堵が込められていた。


彼女の葛藤も、いったんは終わりを告げたのである。



斯くして、パルトとアナスタシアの地下大冒険は幕を閉じたのだった。

なんとか敵を撃退できたパルトとアナスタシア。

ひとまずは安心です。


しかし、エルバという兎人族の少女は何者なのか。

今後にご期待ください。

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