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40 未知の黒き力

目を覚まし、アナスタシアの窮地を救ったパルト。

謎の女との戦いは、クライマックスを迎えます!

溢れ出す波動。


その中心には、兎人族の少女がいる。



黒い髪に長い耳。


それと、真紅に近い赤い瞳を携えた彼女からは、先ほどまでとは違う力の波動が溢れている。



「あは……なんだか〜覚醒しちゃった感じかなぁ〜?」



黒ずくめの女は、嬉しそうにその少女を眺めていた。



「ボスの言うとおりだね〜。たぶん、アレは間違いない。こんなに早く会えるなんて、わたしってラッキーだよね!」



意味深げな言葉を漏らし、口元に笑みを浮かべる女は、今度は首を傾げて何かを模索する。



「でもでも、どうやってアレを使わせよっかぁ〜。ん〜いい案が思いつかないなぁ。……まぁ、追い詰めれば出してくれるかな!」



難しいことは嫌いだとでもいうように、女はさっさと思考を切り替えて考えることをやめた。


そして、肩に置いた剣を振り下ろすと、迫り来る激戦を静かに待つことにした。



◆



荒れ狂う力の奔流が、体の中を駆け巡っていた。


とは言っても、制御できないわけではなく、いつもより魔力の流れが早くて荒々しい……そんな感覚だった。


でも、わたしはこの感覚を知っていた。


それこそ、数刻前に体験していた感覚だ。



ゴズルとの戦いの最中、わたしはアナスタシアの援護もあり、最後に奴を打ち倒した。


その戦いの最後で自分が体現した動きは、ゴズルを一撃で吹き飛ばすほどのスピードと力を有していた。



あの時に感じた感覚と似てるな……。


今なら、本当にあの女を倒せるかもしれない……。



別にゴズルを倒したことが、わたしを自信過剰にさせたわけではなく、ただ単純にそう直感しただけ。


決して過信しているわけではない。



「ガイドさん。残りはあとどれくらい?」


『残り40秒です。』


「了解。一気に行く……。」


『それが良いと判断します。』


「OK!」



その言葉と同時に、わたしは女との距離を一気に詰めた。



「は……早っ!!!」



初めて、女の焦った顔を見ることができた。


だが、驚愕している女を前に、実はわたし自身も驚いていた。



一歩踏み出したつもりが……もう目の前に……!?



焦りと同時に剣を横薙ぎに一閃を振るうが、さすがにそれは避けられてしまう。


だが、わたしの眼は女の動きを常に捉え続けていた。


女は驚きからか、飛び上がって避けている。


バックステップでもしゃがむでもなく、上に飛んで避けたのである。



あれ……隙だらけだ……。



わたしは剣を振るった勢いを利用して、無防備な体勢になった女に回し蹴りを放った。


もちろん、女はわたしの足を腕で受け止めた。


が、その防御も辛うじてといった感じが、彼女の表情からは読み取れた。


さらに力を込めると、女は簡単に吹き飛んだ。


壁に激突し、轟音が鳴り響く中、巻き上がる砂煙の中から女が反撃の一手を繰り出してくる。



「痛いじゃん!!」



水術スキルであるウォーターバレット(水散弾)を放ちながら、わたしとの距離を詰める女。


対して、わたしは水の砲弾を軽々と避けつつ、突進してきた女に合わせて逆に距離を詰めてやった。



「な……!」



ウォーターバレットで動きを制限し、わたしの行動を読みやすくすることが目的だったんだろう。


だが、避けられた上に逆に距離を詰められた女は、想定外のことに驚きを隠せずにいる。



「……遅いよ。」



ポロリと漏れた本音が女に聞こえたかはわからないが、わたしはその言葉と同時に、剣を右下から左上へと振り抜いた。


ガキンッと金属音が鳴った。


わたしが放った左逆袈裟斬りを、女が剣でいなした音。


だが、それでわたしが止まることはない。


間髪入れずに袈裟斬り、左一文字斬りと流れるように剣撃を打ち込んでいく。


時折、奴は苦し紛れに剣を振るうが、わたしはそれをバックステップで軽々とかわすと、再び距離を詰め、そして、連撃を繰り出した。



「くっ……」



数多の剣撃を防ぐ女の顔が歪んだ。


容赦のない猛攻を受けて、その顔には疲労の色が見える。


それを好機と捉えたわたしは、さらに前に出た。



このまま……押し切る……!!



ガイドが告げる残り時間は刻々と減りつつある。


だが、このまま一気に畳み掛けてしまえば、問題はないはずだ。



そう考えたわたしが、さらに追い討ちをかけようとしたその時だった。



「う……うざい!うざいうざいうざいうざぁぁぁぁぁい!!」



突然、女の周りから衝撃波が放たれ、わたしは後方へと吹き飛ばされることとなる。



突然のことに少々驚いた。


だが、身体強化のおかげて特にダメージはなく、くるりと体を捻って着地すると、すぐに女へ目を向けた。


そして、驚愕した。



く……黒いオーラ……!!



女の体から溢れ出る黒い物質。


ゆらゆらと揺らめくそれと同じものを、わたしは見たことがあった。


いや、見たのではなく体現したことがあると言う方が正しいか……。


ミッドウェルとの戦いの時に、わたし自身に発現した黒いオーラ。


蓄積した怒りと憎しみによって、わたしの心が解放した黒い感情の塊。


アレに似ているのだ。



「ガイドさん……アレが何か知ってる?」



無意識に向けられた問いかけ。


それに対して、ガイドは淡々と答える。



『残念ながら、アレについては情報がなく、答えを持ち合わせておりません。』


「そ……っか……スキルの……残り時間は……?」


『残り時間25秒です。』



わたしはここが正念場だと理解した。


おそらく、アレを纏う奴は数段強くなっている考えた方がいいだろう。


わたしの時も、手も足も出なかったミッドウェルを撃退するに至った力だ。


それと類似した力であるならば、奴もそうなることは間違いない。


そう思って臨むべきだろう。



「痛かったなぁ〜もう!今度はこっちの番だからね〜!」



黒いオーラに包まれた女は、再び笑みを浮かべた。


同時に、瞬間的にわたしの前へ移動して、黒い魔力を纏う剣を振るう。


それに反応したわたしの剣が女の剣と交わって、辺りに衝撃波を発生させた。


地面は裂かれるように割れ、凹凸を作りながら隆起する。


だが、そんなことに構っていられない。


先ほどの一方的な戦況とは打って変わり、力と力が拮抗した剣戟の嵐。


わたしと女は周りに目もくれず、属性スキルを使うこともなく、互いの剣を交え続けていた。



「アハ!!楽しいねぇ!!」


「うるさい!!楽しいわけない!!」



無数の金属音が鳴り響く剣戟の中で、楽しそうに笑っている女をわたしはジロリと睨んだ。



こいつ……何を楽しんでるわけ……!?


まじで意味がわからない……!!


何者なのかもわからないし……いったい何なの……!



怒りがこみ上げてきた。


それはもちろん、この女に対する怒り。


アナスタシアを傷つけた黒ずくめの女への怒りが、沸々と湧き上がり、剣を握る手に力が入る。



アナスタシアを痛ぶり、殺そうとしたこいつは絶対に許さない。


もうわたしの前で、誰かを殺させはしないと誓ったんだ。


絶対に誰も死なせないと……。


それなのに、わたしは意識を失ってアナスタシアを危険に晒してしまった。


そんな自分の弱さに吐き気がする。


なんて……なんてわたしは弱いのだろう……。


わたしは……本当に愚かで力がない……。



そう思えば、自分の不甲斐なさが情けなくて、自分自身に怒りが込み上げてきた。



「お前は許さない!」


「なになに〜?何で許さないのぉ〜?」



激しく撃ち合う剣戟の中で、交わされる言葉。


その最中に、ガイドからの通告を聞く。



『スキルの残り時間は10秒です。まもなく、スキルの効果が切れます。』



残り10秒……


もう迷っている暇はないか……


仕方がない……



女の剣を大きく弾き返し、わたしは一度距離を取った。


その行動に女は目を丸くする。


そんなら女の顔を見ていたら、師匠の笑顔が頭をよぎった。


アナスタシアの笑顔も。


そして、ミッドウェルの……クソ野郎の嘲笑が女の笑う顔と重なった。


その瞬間、真っ黒な感情が胸を染め上げ、全身から溢れ出す。



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



気持ちの悪い魔力の奔流が体を駆け巡り、全身の毛が逆立った。



『異常値を検知しました。これ以上は危険です。繰り返します。異常値を検知……』



ガイドが何か忠告しているが、その言葉はわたしの耳に届かなかった。


逆に、目の前の女の声は、はっきりとわたしの耳が捉えていた。



「これが黒い神気……!ボスの言うとおりじゃん!!」



何か喜んでいるようだが、それがわたしの癇に障った。



「もう……お前は要らないよ。」


「そんなぁ〜!つれないなぁ〜!もっと遊ぼうよ!」


「うるさい……。終わりだ……!」



即座に風属性と水属性の魔力を混合し、氷属性の魔力を全身へ纏う。


辺りには、氷の粒子たちが立ち込め始め、わたしと女を包み込んだ。


そして、辺りは凍り始める。



「なに……?何だか楽しいことが起きそうだねぇ〜!」



何が面白いのかわからないが、この女が考えていることなど、もはやどうでもよかった。



さっさと終わらせる……。



それだけを考え、自身の剣を顔の前に立てた。


そして……



「ヘイルストーム(乱れ狂う雹)!!!」



言葉とともに剣を真上に掲げると、凍りついた地面から多数の氷柱が突き出した。


それはまるで、氷柱が地面から生えているようにも見えるが、そんな幻想的な景色とは裏腹に、氷柱たちは黒ずくめの女に襲いかかる。



「おっと……とっとっと!!?」



高速で地面から突き出す無数の氷柱を、女は何とかかわしていく女だが、いつのまにか氷柱に囲まれていることに気づく。


そして、それらの氷柱から突如として無数の雹が撃ち出されたことには、女も驚きを隠せなかった。



「な……っ!!」



予想外の出来事に驚くのも束の間、女は無数の氷の弾丸を全身に受けることとなる。


さすがの奴にも、ゼロ距離で全方位から襲いかかる氷の弾丸をかわすことはできなかったようだ。


激しい衝撃とともに、巻き上がる氷煙に飲み込まれていった。


それを見届けたところで、ガイドから最後の通告がなされる。



『スキルの使用時間がリミットに達しました。』



同時に体に襲いかかる激しい痛み。


だが、わたしの中では、まだ黒い感情が暴れていた。



「ぐ……何とか……抑えないと……」



必死に黒い感情を抑え込もうとするが、想像以上にその力は強い。


それに体力が限界であることも相まって、わたしはその感情の波にほとんど抵抗できなかった。



「や……ばい……飲み込ま……れ……る……」



そう思った瞬間、わたしの意識は再びブラックアウトしていた。

ミッドウェル戦の時から使えるようになった謎の力。


これはいったい何なのかは分かりませんが、それに飲み込まれてしまったパルトが心配です。


次回もお楽しみに!

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