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35 ですわぁ!

依頼主に会いにいく。

今回は、その道中から始まります!

「まず、帝国の通貨は"フィル"っていう単位が使われているよ。」



アナスタシアは歩きながらそう切り出すと、金貨袋からいくつかの硬貨を取り出した。


その硬貨には、見知らぬ男の横顔が描かれている。



「それは初代皇帝のアレイシス=フィル=マレウスで、その昔、この帝国をひとつにまとめ上げた人物だね。」



アナスタシアはそう笑うと、この国のかつての歴史を語り始めた。



ここゼルディア帝国は昔、小さなひとつの国家だった。


当時は周辺にも同じような国々が形成されていて、各々が自由に発展していたそうだ。


だが、国の規模がある程度大きくなると、各地で小さないざこざが頻繁に発生するようになる。


その根底のあったのが、土地の所有権だった。


この森は自分たちのもの。


この海は自分たちのもの。


自国に隣接する土地全てが自分たちのものである。


各国がそう言い出し始め、やがてそれは争いに発展し始める。


そんな時、統一国家の形成を提唱した男が初代皇帝のアレイシスだった。


彼は各地で起こる争いの火種は、やがて大きくなり全てを滅ぼすであろうと危惧していたのだ。


最終的に、彼は周辺国を巻き込む統一戦争を起こし、結果として統一は為されることとなる。


その際、共通の通貨として発行されたのが、この"フィル"である。



「皇帝の名の一部を取って"フィル"。わかりやすいでしょ?」



アナスタシアは金貨をひとつを手に取って、それをわたしに手渡した。



「これ1枚で10万フィルになるよ。」


「10万フィル……これだと何が買える?」


「そうだなぁ…高価な魔道具とか?」



それを聞いてもピンと来ない。


いかんせん、わたしはずっと通貨とは無縁の生活を送ってきた。


なので、物の相場はいまいちよく分からないのである。



もっとわかりやすい物……それだといくらでどれくらいになるんだろう。



そう首を傾げながら考えていたら、ある物が頭に浮かんだ。



「……例えば、露店で売ってる肉の串。あれだと1ついくらで、この金貨でいくつ買える?」



これならわたしでも分かりやすいし、お金が手に入った後、迷わずに買うことができるから、まさに一石二鳥というやつだ。



「露店の……肉串?あぁ……あれは1本100フィルくらいだから、1,000本くらいは買えるんじゃないかな。」



なっ……!1,000本……だ……と……!?



腰が抜けそうになるほど驚いた。


しかし、同時に頭の中ではある計算がなされていた。



金貨1枚あれば、あの肉串が1,000本も買える。


なら、今回の報酬は4万フィルだから、400本買えるのか。



いつしか、自分の口元に涎が垂れていた。


ハッとしてすぐに涎を拭い、平静を装うが時すでに遅し。


アナスタシアにはバレていて、クスクスと笑われている。



くそ……そんなの驚くに決まってるじゃん……


でも……肉串400本かぁ……



内心で愚痴りつつも、頭の中ではたくさんの肉串に囲まれる自分を思い浮かべてしまい、つい笑みが溢れてしまう。


そんなわたしを見て、アナスタシアも嬉しそうに笑う。


依頼主である貴族の屋敷を向かう道中、わたしたちはそんな話を続けていた。




◆




「まさか……こんな小娘たちが、ワタぁークシの可愛いマルシアちゃんを探すんですの!?」



目の前で高慢そうな貴族の女が嫌そうに嘆いている。


頭を高く巻き上げ、三角眼鏡を鋭く光らせてこちらを見るその目は、確実にわたしたちを見下していることがわかる。



なんだ……?この傲慢なおばさんは……。



貴族の女の態度に苛立ちを覚えるが、アナスタシアがわたしより先手を打って貴族の女の言葉に応えた。



「ワメキヤ夫人。まぁ、そう言わずともご安心ください。必ずや、大切なマルシアさまを見つけて参りますので。」



アナスタシアは冷静沈着に彼女の言葉に返したが、ワメキヤは鼻を鳴らしてそれを笑った。





わたしたちは今、受けた依頼の詳細を確認するため、とある子爵家を訪れている。


このホウレン家は、代々トゥウランの街の管理を担ってきた子爵位の貴族だ。


そもそも、トゥウランの街の管理は伯爵位を持つ貴族が行っていたが、彼が管理する区域はかなり広く、全てを管理することが難しかった。


そこで、各都市に子爵位もしくは男爵位を持つ貴族を配置し、管理を任せているのだそうだ。


ホウレン家もそのうちの1つであり、最近まで当主ソウダ=ホウレンがその役を担ってきたのである。


だが、当主であったソウダが1年前に病で帰らぬ人となってしまったため、今は妻であるこのワメキヤが当主を務めている……というわけである。


全部アナスタシアから聞いた話だけど。





「ふん……ギルドも落ちたものですわね。この街の管理を担う我々ホウレン家からの依頼を、こんな小娘たちに任せるとは……。」



あからさまに顔を顰め、羽毛で装飾された扇子で口元を隠すワメキヤ夫人。



たかがペットの捜索だろ。


いちいち文句を言わないと気が済まないのか。



彼女の態度にわたしは内心で憤慨していたが、アナスタシアは手慣れたように応対を続けており、それには少し驚いた。



「まぁ、そう言わずに。ちなみにですが、マルシアさまの特徴を改めて確認させてもらえますか?」


「それは、すでにギルドに伝えているはずでは?」


「確かにそうですね。ですが、ワメキヤさまから直接お聞きする方が様々な気づきがございます。やはり、マルシアさまを1番よく知っていらっしゃるのは、ワメキヤさまですしょうから。」



扇子で半分隠れているが、ワメキヤの眉がピクリと動いたことがわかった。


そして、それを機にワメキヤの態度が少し変わる。



「ほう……あなたは多からずわかっているようですわね。ワタぁークシとマルシアちゃんのこと。」



ワメキヤは笑みを浮かべると、ペットの猫であるマルシアはどんな容姿をしていて、どこでどういなくなったのかを饒舌に話し始めたのである。



嫌味で単純なおばさん……。


こんな人が、この街を管理する貴族なのか……。



それが1番の印象だったが、アナスタシアの冷静な対応を見て、わたしもなんとか苛立ちを抑え続けていた。





「……というところですわね。」



数分間に渡るワメキヤの演説が終わると、わたしはついついため息をついてしまう。


もちろん、ワメキヤに気づかれないようにではあるが、何せ話のほとんどが猫のマルシアの自慢だったのだ。


辟易してしまうのも仕方がないと思ってほしい。


だが、アナスタシアは別だ。


相槌を上手にこなし、ワメキヤの言葉に合いの手を入れ、彼女が気持ちよく話せるように終始気を遣っていた。


そんな彼女に内心で称賛を贈る。



わたしには絶対に無理……。



「なるほど。では、昨日のお昼には、すでにマルシアさまの姿は見えなくなっていた……ということでございますね。」


「えぇ、そうですわ。だから、気が気じゃないんですの。あの子はとぉぉぉっても繊細ですから。さっさと見つけてきてくださるかしら?」



言葉の端々に含まれる命令口調と、彼女の話し方が相まって、やっぱり苛立ちが湧き上がる。



そもそも、そんなに大事なペットなら首輪を繋いで逃げないようにしろよ。


ペット1匹のために、なんで冒険者が出張らなきゃいけないんだ。



沸々と湧く本音の数々とアナスタシアの努力の結晶が、わたしの中で天秤にかけられていた。


もちろん、その天秤はアナスタシアの努力に傾いてはいるが、時間が経てば経つほど自分の本音が増えていくからもどかしい。


だが、そんな不毛な時間もこれで終わる。


アナスタシアが「かしこまりました。」と告げて立ち上がったので、わたしもそれに倣って腰を上げた。


執事の案内の下、応接室から出ようとドアの前まで足を運び、出る前の一礼を行って顔を上げた。



その時だった。


ワメキヤが余計な一言をわたしたちに……いや、わたしに投げかけたのは。



「おい、獣人の小娘。あなた兎人族でしょう?最弱種が冒険者だなんて、バカバカしくて笑えますわ。足を引っ張ってマルシアちゃんを危ない目に遭わせるのだけは、よしてくださいませ。」



はぁ……?



その言葉を聞いた瞬間、わたしから殺気が漏れ出した。



誰が足を引っ張るって?


このババァ、何言ってんの?


わたしが本気出したら、お前の首なんか一瞬で落とせるって分からせてやろうか……。



自然と剣の柄に手が伸び、とぐろ巻いたその頭と胴体をちょん切ってやろうと一歩踏み出しかけた。


だが、アナスタシアがわたしを制止して、ワメキヤとの間に割って入った。



「お言葉ですが……この兎人族は強いですよ。Dランク冒険者と同等に戦うことができますので。ですから、ワメキヤさまもご安心ください。」


「Dランク冒険者ねぇ。ふん、まぁいいですわ。さっさとお行きなさいな。」



羽毛の扇子で追い払うような仕草をするワメキヤ。


それを見て、わたしの中でさらに殺気が膨らんだ。


だが、アナスタシアは大きく一礼すると、強引にわたしの腕を掴んで部屋を後にした。



「ちょ……アナスタシア!なんで止めるの!?あんな風に言われて悔しくないの!?」



腕を引き続けるアナスタシアに、わたしは本音を突きつけた。


だが、それでもアナスタシアは止まらない。


そのまま、玄関ホールまで一気に進んだところで、やっと立ち止まると、彼女は大きく背伸びをした。



「はぁ〜やっと終わった。危うくあのクソババァをぶっ飛ばしちゃうところだったよ。」



アナスタシアはホッとした笑顔をわたしに向け、物騒なことをさらりと言う。



「パルトもよく我慢してくれたね。あんなクソババァでも一応は貴族だから暴力なんて絶対にダメだし、文句ひとつでも言うもんなら、難癖つけられてギルドに迷惑をかけちゃうかもしれないからね。」



アナスタシアが肩をすくめてそう笑った。


どうやら、彼女もわたしと同じ思いだったようで、それを知ってなんだかホッとした。


こうなったら、さっさとマルシアとかいう猫を見つけ出し、あのクソババァに目にモノを見せてやる。


そう高ぶる感情のままに気合を入れ直していると、突然後ろにいた執事の男が頭を下げた。



「お二人には大変申し訳なく思います。旦那さまが亡くなられて以来、奥様は……いや、ワメキヤさまは変わられてしまった。」



わたしとアナスタシアは、正直ギョッとした。


いつからそこに居たのかと……。


そんな疑問符を察して、執事の男が「部屋を出た後からずっと後ろに。」と添えて微笑んだ。



いや……嘘でしょ?


全然気配なんて感じなかったのに……。


この人、只者じゃない……?!



しかも、事態はそれだけではない。


2人でこの屋敷の主人のことを、クソババァ呼ばわりしていたのだ。


本人に聞かれてなくても、使用人……しかも、その長である彼に聞かれたというのはよろしくない。



これやばいよね……。



アナスタシアと目が合うと、彼女の瞳にも不安の色が広がっていた。


だが、セバスチャンは微笑んだまま、特に何も言うことはなかった。


ただ、不安を浮かべたわたしとアナスタシアに、一言だけ添える。



「どうかマルシアさまをよろしくお願いいたします。」



彼は深々と頭を下げてると、にっこりと微笑むのであった。

お金の設定ってけっこう重要ですよね〜。


と思ってたら、今度はテンプレ貴族のご婦人様の登場です!執事も只者ではなさそう…

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