34 依頼を受けよう!
前回は、アナスタシアの天然さに驚愕したパルトでしたが、今回ついに冒険者へ!
アナスタシアの天然が確定し、なす術なく天を仰いでいたわたしをよそに、ガルシュが静かに口火を切った。
「アナスタシア……この力のことは隠しておけ。周りにはあまり言うなよ。」
「え……あ……はい。」
ガルシュは真剣だった。
どこか事の重大さのようなものが感じられる。
さすがに嬉しそうに笑っていたアナスタシアも、そんなガルシュの雰囲気を悟り、焦ったように返事をした。
「お前さんのその力……ルーツを聞く気は無いが、かなり特殊なスキルだろ。パルトの言うとおり、周りに知られれば良くないことを招く可能性が高いのは、俺も同感だ。自分でもわかってるると思うが、もう少し気をつけた方がいいな。」
「わ……わかりました。以後……気をつけます。」
申し訳なさそうに頭を下げるアナスタシアを見て、わたしはため息をつく。
本当に大丈夫かな……。
そんな不安しか頭に浮かばない。
出会って間もないが、アナスタシアの天然さはかなりのものだと理解しているからだ。
だが、そんなわたしの心配をよそに、顔を上げたアナスタシアの表情にはどこか真剣さが滲んでいた。
わたしはその理由が少し気になったが、聞くことはできなかった。
「で、ここからは冒険者の話をするぞ。ちゃんと聞けよ。」
ガルシュが場の雰囲気を一新するように笑ったので、わたしは彼の話に耳を傾けた。
もちろん、アナスタシアも真剣な眼差しを向けている。
「まずは試験通過と冒険者登録おめでとう。これでお前らも我ら冒険者の一員だ。歓迎する。」
ガルシュからの祝福は素直に喜ぶべきなんだろうが、ついつい本音が溢れてしまう。
そうだ……溢した口が悪い。
「なら、約束どおりDランクからで。」
「そんな約束はしてねぇぞ。」
「ちっ……」
あからさまに舌打ちしたわたしを、ガルシュがちらりと睨み、それを見てアナスタシアが仲裁に入った。
ガルシュは少し呆れて小さくため息をつき、話を続ける。
「パルトもアナスタシアもEランクからのスタートだ。確かにゴズルは倒したが、それは2人が力を合わせた結果だろう。俺はそう判断したが、文句あるかい?」
ガルシュはあからさまにわたしを見る。
完全にさっきの舌打ちのお返しだろう。
だが、悔しいけれど、今回のその評価に文句はない。
ガルシュの言うとおり、ゴズルを倒せたのはアナスタシアの協力があってのこと。
それを素直に認めなければ、わたしは今後も強くはなれないだろう。
仕方なく視線で返事をすると、ガルシュはニカリと笑って頷いた。
「なら、次はルールの話だ。」
ガルシュはある冊子を手に取ると、それをわたしたちに配り、冒険者と冒険者ギルドのルールについて説明を始めた。
おおまかに言えば、守るべきことは次の3つのようだ。
ひとつ。
冒険者同士での殺し合いは御法度。
ふたつ。
ギルドを通していない依頼は受けないこと。受けたことが発覚すれば、資格を剥奪される場合がある。
みっつ。
冒険者同士、常に協力し合うこと。また、ギルドや領主からの依頼には原則協力すること。
ガルシュは静かに聞いているわたしたちを見て、満足げに笑った。
「……てな具合だな。それ以外の細かいことは、ギルドマスターである俺がその都度判断していく。まぁ、自由が売りの冒険者だ。その辺りは上手くやれ。」
上手くやれ……。
その言葉には、他にも意味がある気がする。
自由とはどこまで許されるのだろうか……という疑問も浮かぶ。
が、その辺はおいおい知ればいいかと思い、難しく考えるのはやめた。
なぜなら、今わたしがやるべきはお金を稼ぐこと。
たくさん稼いで美味しいご飯にありつくことが、何よりも最優先事項である。
わたしは早く依頼を受けたくて、うずうずしていた。
冒険者の証明となるギルドカードをガルシュが準備している様子を見ながら、逸る気持ちをなんとか抑え込む。
だが、ガルシュからの伝達事項は他にもあったらしい。
「あとは……そうだそうだ。これを忘れちゃいけねぇな。」
まだあるのか……!
焦らされてソワソワとしていると、それを見てアナスタシアがくすりと笑った。
う……しまった……
失態を見られたわたしは、ソワソワを必死に止める。
恥ずかしさを抑え込んで、ガルシュの言葉に文字通り耳を傾けた。
「ここにある印があるんだが……」
ガルシュがギルドカードを裏返し、ある一点を指で示したので、アナスタシアと一緒にそれを覗き込む。
そこには、見知らぬ印が描かれている。
器の上に湯気のような波線が3本。
ガルシュが言うには、これは温泉のマークなんだとか。
「本来Dランクからの特権ではあるが……要するに、お前たちは公共の温浴施設を無料で利用できる権利を得たわけだな。」
ガルシュはどうだと言わんばかりに鼻息を荒くした。
だが、それ以上に鼻息を荒くしたのはわたしである。
「てことは、今からでも温泉に入れる!!!???」
「お……おう。そうだ……。」
わたしが食い気味に顔を前に出したので、ガルシュは少し引いていた。
だが、そんなことはどうでもいい。
温泉に……お風呂に入れるのだから。
「ギルマスは……良い人だ。」
腕を組み、1人で納得したように頷くわたし。
それを聞いて、同じように頷くアナスタシア。
だが、ガルシュは訝しげな表情を浮かべている。
「なんだ急に……褒めたって他には何も出ねぇぞ。」
「問題ない。お風呂に入れて、お金を稼げる。これが今のわたしの目標だし。」
「そうか……ならよかったぜ。んじゃ、これで説明は終わりだ。本来ならリプリーたち受付嬢がこれをするんだが、お前たちにはゴズルのことがあったから、俺がさせてもらった。これからよろしくな。」
ガルシュはそう言うと、豪快に笑った。
◆
執務室を後にして、わたしたちはギルドのロビーに戻ってきた。
そこで感じたのは、初めと同じ周りからの数々の好奇心。
おそらく、試験の結果が気になるだろう。
いくつかの視線を感じるし、コソコソと話す声がわたしの耳に届いてくる。
「おい……あいつら戻ってきたぜ。」
「ゴズル奴はどうしたんだ?」
「さっき、取り巻きの奴らが中に呼ばれたってよ。」
「あいつら、ピンピンしてやがる。てことは……」
勝手に想像するのは本人たちの自由だ。
事実は知るべき者が知っていればいい。
わたしはそう思い、同じように視線を感じてオドオドしているアナスタシアに声をかけた。
「わたしは今から依頼を受けるけど……あなたはどうするの?」
「え……あ……え〜っと……」
最初に出会った時はハキハキしていたし、正義の味方みたいで格好良かったのに、今は何だか自信無さげで弱々しい。
そのギャップが新鮮であり、面倒臭かった。
「ギルマスが言ってた。依頼を受けるには、あそこの掲示板に貼ってある張り紙を、リプリーさんのところに持っていけって。そしたら、依頼が受けられるって。」
「そ……そうだったね!……なら、わたしも受けようかな。」
言葉尻に遠慮が見える。
おそらく、試験も終わったんだし、わたしと一緒にいる理由もなくなってどうしようかな迷っているんだろう。
アナスタシアはたぶん歳上だろうけれど、こんなオドオドした歳上は初めて見た。
村では歳上は歳下を引っ張っていくものだったから。
ふと、家族や仲間のことが頭をよぎり、気分が暗くなった。
そのまま、アナスタシアと掲示板の前まで移動すると、壁一面に取り付けられた大きな掲示板には、多くの依頼用紙が貼られていた。
「この中から好きなものを選ぶんだよね……。」
アナスタシアがなぜかゴクリと唾を飲み込んだ。
「そう。でも、注意がいる。今のわたしたちはEランク冒険者だから、Eランクの依頼までしか受けられない。」
依頼用紙の右上に大きく記されたランクの文字。
それが、その依頼の評価を示している。
冒険者たちは、ギルドが定めた依頼のランクを参考に自分に見合った依頼を受け、それをこなして行くわけだ。
「そうだったね。」
アナスタシアが少し真剣な眼差しで掲示板に目を向けたので、わたしも同じように掲示板を見上げる。
それから、わたしたちはたくさんある依頼書の中から、Eランクと記されたものを探し始めた。
少しして、わたしはいくつかの依頼書を手に取っていた。
アナスタシアも何枚か手に取って眺めている。
「……何を見つけたの?」
「えっと……わたしは薬草採取、ペット捜索、害虫駆除……」
大きなため息が無意識に出た。
わたしが持っている依頼書の内容も、アナスタシアが持っているものと大して変わらなかったからだ。
側溝の掃除、売り子の依頼、害虫駆除、そして緊急の配達……。
どれも雑用紛いの依頼。
眺めて見ても、その事実は変わらない。
もっとこう……刺激のあるものはないのだろうか。
魔物の討伐とか盗賊の討伐とか魔物の討伐とか盗賊の……
ぶつぶつと呪いのように言葉が溢れ出る。
Eランクで受けられる依頼の内容が残念過ぎて、ショックが隠し切れない。
そんなわたしを見て、アナスタシアが心配して声を掛けてくる。
「パルト……大丈夫?」
「……大丈夫。問題はない。」
「実はね、さっき近くの冒険者の人に聞いてみたんだけど、ここのところこの辺りの魔物たちが静かなんだって。だから、討伐系の依頼が減ってて、害虫駆除もコックロードがメインらしいよ。」
それはある意味で刺激的かもしれない。
アナスタシアの説明を聞いて、そう思ったのは余談である。
※コックロードとはは昆虫型の魔物で、地下や屋根裏などジメジメした場所に棲みつく動きの素早い奴ら。
「でもさ、確かに刺激的なものはないけど、これなんか報酬はいいよ。」
アナスタシアがフォローするように、1枚の依頼書を差し出した。
それを手に取って中身を見ると、内容はペット捜索で依頼主は貴族から。
逃げ出した猫を探し出してくれば、4万フィル貰えるようだ。
「4万フィル……ってどれくらいなの?」
ふと疑問が湧いた。
お金のことはよく知らないから、この4万フィルがどれくらいのものなのかが分からなかったのだ。
わたしの反応にアナスタシアが少し驚いた表情を浮かべていたが、すぐに察したようで優しい笑みを浮かべる。
「もしかして、パルトはお金を使ったことない?」
「う……うん。」
「そっか。なら、わたしが教えてあげるね。まずはこの依頼を受けよう。ゆっくり勉強しながら、猫を探せばいいよ。」
アナスタシアはそう言うと、わたしの返事を待つことなく、その依頼書だけを持って受付へと走って行った。
無事にお風呂にも入れそうですね!
でも、その前にまずはお金稼ぎ!稼いで食べて風呂入って寝ましょう!!




