31 決着
今回は、アナスタシア視点から始まります。
パルトの窮地を救う少し前の視点です!
ゴズルに蹴り飛ばされたアナスタシアは、反撃に転じる予定であった。
パルトと息を合わせるつもりが、ゴズルの蹴撃を受けることになってしまったが、それについてはしっかりと防御できていたし、受け身も取れていたので問題はない。
だから、すぐに反撃に転じ、パルトの助けに行かないと……そう思っていた。
だが、その予定は、結果的に予定のままで終わることになる。
なぜなら、受け身を取り、剣を構え直してゴズルに視線を向けた瞬間、目に映ったのはパルトの激しい波状攻撃。
それを前にして、アナスタシアは手が出せなかったのだ。
「す……すごい……!」
息もつかせないほどの猛攻。
四方八方飛び回り、攻撃の手を一切緩めず、矢継ぎ早にゴズルに攻撃を繰り出すその姿は、昔聞かされた"白兎"という冒険者をアナスタシアに想起させていた。
もちろん、アナスタシアは白兎のことを直接は知らない。
ただ、小さい時に聞かされたその冒険譚に、胸を躍らせた記憶があるだけだ。
だが、それと同じ高揚感を今も感じていたのである。
その高揚感がそうさせたのか。
持っているロングソードを強く握り締めると、アナスタシアはその戦いの行く末を見守りつつ、この戦いにおいて自分に何ができるのかを思案し始めていた。
そもそも、アナスタシアが持つ予知の力は、周りが思うほど便利がいいものではなかった。
その答えは単純明快で、自分の意思で使えないからだ。
現に、今のアナスタシアにはパルトとゴズルの戦いの先が視えてはいない。
身体強化スキルによる洞察力のみで、彼らの戦いを追い続けるしかなかった。
なぜこんな力が自分にあるのか……。
それは全くを持ってわからないが、発動条件は限られて狭く、自分の思うままに使うことができない力など、命のやり取りの場においては何の価値もない。
アナスタシアは常々からそう思っていたが、パルトが驚いていた様子を思い返すと、なぜだかわからないが少し嬉しかった。
(何とか眼では追えてる……。あとは戦いの中の流れとタイミングを先読みして……)
ふと、恩師の言葉が頭をよぎる。
家を出る前までの間、剣術を始めとする武術を……いや、戦い方を教えてくれた先生の言葉。
何度も何度も反芻して、頭に焼き付けた指導の言霊が。
(そうだ……戦いの流れは体の動きから……どんな動きにも必ず根拠がある……)
それが先生の教え。
昔からずっと教えられてきたこと。
それを実践すればいいんだ。
一見、パルトの動きは煩雑でめちゃくちゃなようにも見えるが、その動きにはちゃんとした根拠があるはずだと、アナスタシアは目を見張る。
例えば、着地の仕方、脚や膝の向き方、上半身と下半身のの捻り具合、視線の動き、そして、リズム。
これらを一つ一つ組み合わせていけば、自然とパルトの動きが予測できるようになる………………わけはなかった。
そんな簡単に相手の動きを見極めることができたのなら、さっきのようにゴズルの一撃をもらってはいないだろうし、すでにパルトの加勢に向かっているはずだ。
だが、こうしてここで見ていることしかできないのは……
要するにそういうことなのであると、アナスタシアはちゃんと理解していた。
パルトの攻撃はまだ続いている。
それを防ぎつつ、反撃を繰り返すゴズル。
2人の攻防の終わりは、今のアナスタシアには視えない。
だが、パルトの攻撃を観察していて、一つ気づいたことはあった。
彼女には独特なリズムがある。
人の身体能力では、到底不可能な動きから生み出されている独特なリズム。
そのせいで、自分のペースが掴めなくなったゴズルが守りに徹している。
アナスタシアはそう睨んでいたのである。
(あのリズムを追えば……もしかすると……)
そう考え、パルトのリズムを追い始めたことは、決して間違いではない。
なぜなら、そのおかげでアナスタシアは、パルトの窮地を救うことになるのだから。
(すごい……!あの体勢から回し蹴り……!突き立てた剣を軸にするなんて……!)
アクロバットな動きで、パルトがゴズルに有効な一打を入れた。
これにはさすがのゴズルも怯んだ様子で、打たれた胸を押さえながら後ろに一歩よろける。
(これ……いけるんじゃ……)
ゴズルの防御が甘くなった。
アナスタシアはそれを好機と捉えていた。
そして、それはパルトも同じだった。
剣を握り直したのを見て、アナスタシアは高揚感を覚える。
だが、同時に胸の中には、不安が湧き上がったことに驚いていた。
そして、その不安はひとつの直感を働かせる。
(……違う!ゴズルの動きは……罠だ!)
アナスタシアは無意識に走り出していた。
ロングソードを強く握り締め、パルト目掛けて全力で走っていた。
◆
「このガキ……!俺の一撃を真正面から受け止めやがったのか!」
ゴズルは目の前で起きている光景が、よほど信じられなかったようだ。
自分の目の前に立ち、渾身の一撃を受け止めたアナスタシア。
まだ冒険者にもなっていない……しかも成人にも満たないであろう少女に、自分の渾身の一撃を受け止められたのだから仕方もないだろう。
彼の顔には驚愕の色が浮かんでいた。
「パルト……!諦めないで……くっ!」
巨大なゴズルの戦鎚をロングソード1本で受け止め、なおも耐え続けているアナスタシア。
わたしに気を配る余裕などないはずなのに、彼女は後方のわたしに視線を向けてそう呟いた。
そんな彼女の苦しそうな表情と呻きを見て、呆けて状況を見守るだけだったわたしは、冷静さを取り戻した。
そして、自身の行いを悔いた。
諦め……
わたしはバカなんじゃないか……
その瞬間、わたしは拳で自分の頬を殴っていた。
それを見てアナスタシアが目を見開くが、そんなことはどうでもよかった。
ミッドウェルを殺すまで……
わたしは死ねないし、負けられない……
弱気は捨てろ……
甘えるな……
立ち塞がる奴らは…………全て……
全て薙ぎ払う……!!
わたしは立ち上がり、すぐさま剣を持つ右手に水属性、左手に風属性を纏った。
全身で2つの魔力を混ぜ合わせ、ひとつの属性に練り上げるようなに魔力操作を行なっていく。
そうして、2つの魔力が体全体に染み込んでいく感覚に身を任せ、合成した魔力を解き放った。
その結果、わたしの体の周りには氷属性の魔力が煌めいていた。
「ちっ……!」
それを見たゴズルは、顔を歪めると仕切り直すように後方に距離を取る。
その判断力はさすがだと思った。
新たな力を前に、警戒を怠らないのは高位の冒険者になり得る素質なんだろう。
戦鎚からの圧力が無くなったアナスタシアは、安堵と疲労でその場に膝をつく。
そんな彼女の横までゆっくりと歩き、わたしは視線を向けることなくアナスタシアへ声をかける。
「アナスタシア……だっけ。あとはわたしがやるから……」
「で……でも、わたしはまだ……やれるよ!」
肩で息をしながらも、アナスタシアは立ち上がろうとするが、わたしはそれを手で制止する。
「ううん……助けてもらった。だから……大丈夫……。」
自分でもぶっきらぼうだとは思う。
素直にありがとうと言えないし。
でも、アナスタシアはそんなわたしの言葉に素直に従ってくれた。
ホッとしたわたしは、アナスタシアの前に出る。
そして、ゆっくりと腰を落とし、両手で握り締めた剣を頭の横へと水平に上げ、その切先をゴズルに向けた。
大きく息を吐き、目を閉じると、生前に師匠が言っていた言葉が蘇る。
本当に強い者は、相手の力量を正しく測ることができる、と。
そして、それができてなお、相手に立ち向かえる者こそ強者である、と。
わたしはまだまだ未熟だ……。
相手の力量を見誤るどころか、勝てると勝手に思い込んでいた。
師匠が見たら、なんて言うかな……。
いや……師匠はたぶん……優しく笑ってくれるんだろうな。
だから、わたしは奴の強さを認めて、改めて挑みます。
ゆっくりと目を開き、ゴズルを睨む。
この人は強い……。
それは間違いない。
ただ……やり方が気に食わない。
弱そうな奴に声をかけて虐めるなんて……。
強ければ何をしてもいいわけではない。
だから、こいつを倒して改めさせてやる。
その捻じ曲がった性根を……叩き直してやる!
全身に感じる魔力の奔流。
それが体の各部位に力を与え、身体能力がこれまで以上に飛躍した感覚を覚える。
今なら……飛べる……!
わたしは瞬間的にゴズルの懐に飛び込んでいた。
そのスピードは、自分自身も驚きを隠せないほどに速い。
だが、制御できないわけでもない。
ゴズルの顔を見れば、その動きはスローモーションのようにゆっくりとしている。
どうやら、さっきまでとは比較できないほどの速さで、思考が加速しているらしい。
わたしは冷静なまま握る剣を一振りし、ゴズルの胸当てに一撃を加えた。
おそらくだが、剣撃を胸に受けるまで、奴はわたしのことを認知できてはいないだろう。
「ぐっ……は……」
鈍い音と同時に、ゴズルの巨躯が後方へと吹き飛んだ。
その勢いは衰えることなく闘技場の壁にぶち当たるまで続き、ゴズルの巨躯が壁へと激突する。
その衝撃は凄まじく、闘技場に敷かれた砂を高く巻き上げた。
その様子を眺めながら、わたしは別のことを考えていた。
今の力はいったい何なのだろうか……。
師匠との鍛錬でも、こんな動きはできなかった。
身体強化による全身の強化に加えて、あのレベルでの思考加速を行う処理能力……。
それに、氷属性の魔力を纏ってはいたが、スキルは発動していないただの剣撃で、あれだけの威力が出たこともそうだ。
そして、1番の疑問は今の力が"アレ"とは違うという明確な事実。
ミッドウェルと対峙した時、"アレ"を使った。
それはもちろん、私の意思によるものではなかったが、心の中は真っ黒だった。
その表現が1番正確だと思っているくらい、心に闇が広がっていた。
だが、今はあんな禍々しさは一切なく、むしろ頭はすっきりとしているくらい鮮明で、胸のつかえもない。
いったい、今の力は何なのか……。
鮮明に映る視界の先で、受付嬢のリプリーが勝敗を告げていた。
パルトに新たな力が発現!?
ミッドウェルとの戦いの時とは違う力のようですが…
パルトの力については、謎が深まるばかりです。




