30 事前昇格試験③
前回、アナスタシアに喝を入れられたパルト。
ここから巻き返すのか。
ガルシュたちの反応から始まります。
「ギルマス……どう見ます?」
一連の攻防を見終えて、リプリーは隣にいる大男に感想を求めた。
「う〜ん……パルトって嬢ちゃん……あれは強くなるな。」
ガルシュは腕を組み、感心するようにそう溢したが、その表情には不満のようなものも窺えた。
その理由を何となくだが察していたリプリーは、対峙しているゴズルとパルトの両者に目を向けた。
(確かに……あの娘は強くなりますね。ただ……確かにどこか危なっかしいというか……。)
深く被ったフードの奥から、年頃とは思えない視線を向けてくる少女。
彼女の生い立ちはわからないが、瞳の奥にあんなに冷たい何かを秘めている者に、リプリーはこれまで会ったことがなかった。
「しかし……ゴズルの奴はいい加減、立ち直ってくれないもんかねぇ。」
ガルシュが残念そうにため息をついた。
その意味をリプリーは理解している。
Dランク冒険者ゴズル。
ゴズル=メズィールは、もともとは真面目な冒険者だった。
だが、ある日を……いや、ある事件を境にして、彼は変わってしまった。
討伐依頼を遂行する最中に、指導を任された有望な新人冒険者を死なせてしまったあの凄惨な事件によって。
あれ以来、彼は新人を見つけると必ず絡らんでいき、教育的指導と称して潰す行為を繰り返しているのだ。
ガルシュも初めは擁護していたが、最近ではその行動が目に余り、庇いきれなくなっているようだった。
(あれはゴズルさんのせいじゃないのに……)
リプリーは当時のゴズルの様子を思い出し、胸を痛めた。
あの事件は、誰であろうと止められなかったはずだ。
例え、ギルドマスターであるガルシュがゴズルの代わりだったとしても。
ガルシュ自身がそう言うのだから間違いないし、ガルシュの言葉が慰めでも何でもないことを、リプリーは理解していた。
だからこそ……
再び対峙するゴズルとパルト、それにパルトの下に駆けつけたアナスタシアへと視線を向けた。
この試験……パルトとアナスタシアの力量を測るためでもあるが、もうひとつ理由があってギルマスであるガルシュは実施を決めた。
この試験をあの2人が乗り越えてくれたならば……
リプリーは、3人の戦いの行く末を静かに見守ることにした。
◆
「作戦……?」
わたしが聞く姿勢を見せると、アナスタシアがこくりと頷いた。
「そう。せっかく2人で戦うんだから、協力した方が生産的でしょ?」
彼女の口元は笑っているが、その瞳には強い意志が感じられる。
それに影響されたように、わたしの中の黒いものが静かに姿を消した。
迂闊にも、アレを使おうとしてしまった自分が情けない。
あんなものに頼っていては、いつまで経っても強くはなれないのに。
自分の弱さを突きつけられ、わたしは泣きそうになった。
「大丈夫?顔色が少し悪いよ?」
「ん……平気。それよりもこれからどうするの?」
心配そうな顔をしているアナスタシア。
彼女に胸の内を悟られぬよう、わたしはこれからのプランを問う。
すると、彼女はそれが嬉しかったのか、待ってましたとばかりに笑みを浮かべた。
「えっと……まずはわたしが仕掛けようと思う。わたしはあなたほど素早くないから、たぶんあいつは戦鎚で迎撃してくると思んだよね。振り下ろしか、横薙ぎ……ん……振り下ろしの方か……。で、わたしがそれを避けて後ろから斬り込むけど、そうするとあいつの意識がわたしに向くから……」
「ちょ……ちょっと待って……!」
話を聞いていて湧き上がった違和感。
それが彼女の言葉を遮った理由だった。
作戦とは、目標を達成するために具体的な行動計画を立て、実行すること。
だが、アナスタシアの作戦はあまりにも具体的過ぎる。
自分の行動だけではなく、ゴズルの行動までも完全に決めつけているところがである。
予想ではなく、決めつけ。
少なくとも、わたしにはそう感じられた。
だが、アナスタシアの次の発言で、わたしはもっと耳を疑うことになる。
「なんでそんなに具体的に決められるの?」
「あ……これ、わたしの予知能力のせいで……」
「……っ!?」
わたしは完全に言葉を失った。
彼女は自分の能力を平然と言い放ったのだ。
待て待て待て待て!
ちょっと待って!!
そんな重要な能力……初対面の相手に軽々しく言うもんじゃないでしょうが!
しかも、めちゃくちゃチートスキルじゃん!!
この人、何でこんなに口が軽いの!?あほなの!?
愕然とするわたしを見て、アナスタシアは困惑しているようだが、わたしからすればこちらが困惑する側だと言いたかった。
「これ……言わない方が良かったかな?」
わたしの顔を見て、アナスタシアは自分の失敗に気づいたらしい。
わたしは頭を振ってそれを肯定した。
だが、そんな茶番も早々に終わる。
「てめぇら、俺を差し置いて楽しそうに話すじゃねぇか。」
突然、真横から嫌悪感を感じさせる声が聞こえた。
と同時に、アナスタシアに後ろへ突き飛ばされる。
「私が先に仕掛けるから……合わせてね!」
アナスタシアの言葉の後、目の前を大きな戦鎚が通過した。
ゴズルの戦鎚が目の前の地面にめり込むと同時に、その衝撃の余波でわたしはさらに後方へと吹き飛ばされる。
そうだった……。
今は戦闘中……。
呆けていた自分に嫌気が差し、受け身をとって剣の柄に右手を添える。
視線の先では、アナスタシアとゴズルの戦いがすでに始まっていた。
いったん、後方へと距離を取ったアナスタシアがロングソードで斬りかかる。
その剣撃を半身でかわしたゴズルの戦鎚が、アナスタシア目掛けて振り下ろされた。
だが、彼女はそれを知っていたかのように、前転して戦鎚をかわす。
そして、瞬時にゴズルの背後に回り込んだ。
先ほど、アナスタシアが言っていた流れと同じになっていた。
たった一瞬の攻防を見て、彼女の言葉とスキルの性能を改めて理解させられた。
わたしに……合わせて……か。
驚きと感心が胸を埋め尽くす最中、彼女から向けられた言葉に不思議な感覚を覚えた。
もちろん、その正体はわからない。
でも、背後のアナスタシアに意識が向いたゴズルに対して、仕掛ける絶好のタイミングはここだった。
全身に魔力を循環させる。
さらに両脚に魔力を重ね、腰を低く落とす。
そして、大きく息を吐き、すべての空気を出し尽くしたところで、わたしは両脚に力を込めた。
地面を踏み抜く鈍い音。
それが聞こえると同時に、ゴズルの目の前に飛び込んだわたしはスキルを発動する。
だが、それに気づいたゴズルは、背後から斬りかかろうとしていたアナスタシアに対し、戦鎚を軸に回し蹴りを見舞うと同時に、防御スキルを発動させた。
「グランドウォール(土壁)!!」
「カマイタチ(烈風刃斬)!!」
ゴズルの周りに生成された土の壁が、わたしの手から放たれた風の刃を紙一重で防ぐ。
「はっ!そんな奇襲なんざ、俺には通用しないぜ!」
ゴズルはその言葉とともに、握る戦鎚をわたし目掛けて振り抜いた。
生成していた土壁ごと薙ぎ払う戦鎚の強烈な一撃。
当たれば無事では済まないだろう。
だが、わたしの自慢はこの脚……スピードだ。
地面を軽く蹴り上げ、瞬時にゴズルの頭上を飛び越える。
わたしがいた場所を通過する戦鎚を眺めながら、ゴズルの背後に回り込み、わたしは奴に向けて剣を抜いた。
「……ちっ!」
それはゴズルにとって、想定外な一太刀だったようだ。
わたしの剣をゴズルのアームシールドが受け止める。
火花が散り、金属同士がぶつかり合う音が響き渡った。
その瞬間、わたしはここが好機だと捉えた。
アームシールドを使ったのは、ゴズルの対応がわたしのスピードに追いついていない。
そう判断したのだ。
バックステップから次の攻撃への転換。
すぐに剣での一撃を放つ。
それを防がれても四方八方を飛び回り、何度も何度も何度も無数の剣撃をゴズルに放ち続けた。
「くっ……このガキ……!!ちょこまかと……!!」
もちろん、ゴズルも負けてはいない。
わたしの剣戟を防ぎながら、何度も何度も戦鎚とスキルによる反撃を試みる。
だが、どんどん速くなるわたしのスピードを、奴が捉えきれなくなってきていることは明白だった。
初めて効果的な一撃が、ゴズルの背中に当たる。
そして、それを境に少しずつだが、わたしの攻撃がゴズルを捉え始めていた。
手数の多さは、時に技術を凌駕する。
本来、1人では不可能な波状攻撃をわたしの脚力は可能にするのである。
そんな折、わたしはあることに気がついた。
奴の……脇があいてる……!
それは周りから見れば一瞬のことかもしれないが、スキルで強化しているわたしの眼には、明確にゴズルの隙が映っていた。
この体勢では剣は振れない……けど……!
咄嗟の判断で剣を地面に突き刺すと、それを軸に体を捻り、ゴズルの脇腹に蹴りを放つ。
「ぐ……っ!!」
これまでで1番有効的な一打に、ゴズルが呻き声を漏らす。
効いてる!!このまま畳み込んでやる……!
そう考え、再び剣を握った瞬間だった。
「グランドインパクトォォォ(土衝撃)!!」
怯みながらも、怒りの咆哮を上げるゴズル。
その言葉とともに、奴を中心に地面が激しく隆起する。
地面が破裂したかのような轟音とともに、足元から突き上げるような衝撃がわたしを襲った。
まるで、地底で何かが蠢いているようにも思えるほどの激しい衝撃。
やばい……体勢が……
あまりの激しさに、わたしはバランスを崩して凸凹の地面に倒れ込んでしまった。
そして、それはゴズルにとっての好機であった。
「これで終わりだ……!!」
何とか立ち上がろうとしていたわたしの目の前に、戦鎚を振り翳したゴズルが現れる。
とどめを刺す完璧なタイミング。
このまま戦鎚を振り下ろせば、わたしは確実に負けるだろう。
腐ってもゴズルはDランク冒険者。
わたしはガルシュの言葉の意味を今、ようやく理解した。
この人は……本当に強かった……。
わたしの攻撃は……ほとんど通らなかったし……。
目の前のゴズルが戦鎚を振り下ろす。
同時に、これまでのことが走馬灯のように蘇る。
わたし……こんなところで負けるの……?
あれだけ悔しい思いをしたのに……
師匠を……家族を亡くして……
ミッドウェルを……わたしはあいつを殺さないといけない……
だから旅に出たのに……
もっと強くならなきゃいけない……
だから、父と同じように冒険者になろうと思ったのに……
負けちゃ……だめなのに……
戦鎚はもう目の前まで来ていた。
これで終わりなんだ……。
そんな思いが胸に溢れ、目を閉じれば涙がこぼれ落ちた。
………………
ガキンッ!!!!
目の前で突然、鈍い金属音と地面がひび割れる音が響き渡り、わたしは驚いて目を開けた。
その視線の先には、巨大な戦鎚を受け止める小さな少女の背中が映っていた。
予知の力を持っているアナスタシア。
なんともチートな力ですが…
そんな彼女に窮地を救われたパルト。
次回、ゴズルとの戦いに決着!
ゴズルにも何やら理由があるようですね…




