29 事前昇格試験②
試験を受けることになったパルトとアナスタシア。
ゴズルも強いのかどうか気になりますね。
ギルド試験のお話です。
「そういや、自己紹介がまだだったな。」
準備が整い、呼び出された闘技場にて、大男は頭を掻きながら肝心なことに気づいて笑う。
「俺の名はガルシュ……ガルシュ=アンドレだ。ここトゥウランの街の冒険者ギルドで、ギルドマスターをやっている。よろしく頼む。」
ライオンのような髪型と巨躯を見れば、ギルドマスターだと言われても何も違和感はなかった。
まぁ、ゴズルの取り巻きたちが"ギルマス"って言っていたのを聞いて、それくらいは想定していたんだけど。
わたしと金髪ツインテールがこくりと頷くと、ガルシュは再び大きく笑った。
「お前はパルトで、そっちの金髪がアナスタシアだったな。」
金髪ツインテールの名前がここで自動的にわかった。
彼女は"アナスタシア"というらしい。
まぁ、わたしの名前もあっちにバレたんだけど……。
アナスタシアは、わたしの方を見て笑顔を向けた。
「あなた、パルトっていうんだ。可愛らしい名前だね!」
その言葉に、ついつい不満が溢れてしまう。
確かに、以前のわたしなら"可愛らしい"と言われれば照れ臭く感じていただろう。
だが、今のわたしにとって、その言葉は好きな言葉ではなく、むしろ嫌い。
可愛くなるつもりなんて1ミリもない。
「可愛いとか……絶対に言わないで。」
「あ……ごめん。」
わたしが睨むと、アナスタシアは少し申し訳なさそうな顔をした。
でも、悪いとは思わない。
わたしは可愛くなりたいわけじゃなくて、強くなりたいのだから。
「おいおい……お前らが喧嘩してどうすんだ。今から2人で共闘するんだから、仲良くしとかないとよぉ。」
わたしたちの様子を見ていたガルシュは、少し呆れた表情を浮かべて肩をすくめた。
「リプリー、ゴズルの準備はどうだ?」
「はい。できてますよ。」
返事をするリプリーの後ろには、ハゲ男……またの名をゴズルが立っている。
奴は重そうな鎧と左腕に取り付けたアームシールド、そして、大きなウォーハンマー(戦鎚)を肩に乗せ、こちらを見てニヤニヤと笑っている。
それを見て、再び嫌悪感が胸に湧いた。
「よし。なら、お前ら全員こっちに来い。」
ガルシュに呼ばれ、わたしたちは闘技場の中心へと進んだ。
この闘技場は円形でかなり広い造りになっている。
壁はとても頑丈そうだし、足場は砂地で整地されている。
ただ、壁や地面にはひび割れや窪みがあり、それらが戦いの傷跡であることが容易に想像できた。
「まずゴズル。お前にはひとつ制限を与える。」
「制限……?」
ゴズルは不満そうだ。
「あぁ、簡単なことだ。この2人を殺しちゃなんねぇ。それだけだ。」
「ほう……なら、殺さなけりゃ何をしてもいいって事だな。」
再び、ゴズルの顔にいやらしい笑みが浮かんだ。
それを見て、わたしの中の嫌悪感と苛立ちが膨らむ。
「限度はあるぞ。」
ガルシュはそれだけをゴズルに伝えると、今度はわたしたちの方を見た。
「お前たちは2人でゴズルを倒せ。それができれば、Fランクからの登録だ。」
納得がいかなかった。
2人で戦うこともそうだけど、Fランクから登録?
時間も手間も取らせておいて、ひとつしかランクが上がらないなんて……。
「Dランク……」
「ん……?」
言葉が漏れ、ガルシュがそれに気づく。
「わたしが勝ったら、Dランクで登録して。あいつはDランクなんでしょ?」
「そうきたか……。」
ガルシュは少し悩んでいるようだったが、そんなことはわたしが気にすることではない。
「それと……わたしたちには言わないの?殺しちゃダメって。」
わたしがそう被せると、ゴズルは明確に苛立ち、反対にガルシュは大きく笑った。
「ガハハハ!本当に気の強い嬢ちゃんだな!だがな、パルト。さっきも言ったが、ゴズルはDランクだ。お前が思っている以上に強いぞ。舐めてかかるのはやめろ。それとな……」
ガルシュが大きく息を吐いて間を取った。
そして、わたしとアナスタシアを交互に見る。
「お前たちがゴズルに勝ったら、Eランクからにしてやる。それで納得しないなら、この試験は無しだ。」
ガルシュの視線から、彼の本気度が窺えた。
この条件を蹴れば、おそらく試験はなくなり、わたしたちはFランクからの登録になるだろう。
それは別に構わないが、あのハゲ男との遺恨を残したまま終えるのは、わたしの望むところではなかった。
仕方ない……。
それで呑むか……。
チラリとアナスタシアに視線を向けると、彼女は笑顔で頷いた。
その条件でいい……ということだろう。
わたしは大きくため息をついた。
「……わかった。不服だけど、それでいい。」
「よし。決まりだな。」
ガルシュは再び豪快に笑うと、リプリーに何かを言付けて闘技場の端まで移動した。
中心に残された3人。
わたしとアナスタシア、そしてハゲ男……またの名をゴズルは、睨み合う形で向かい合う。
「おい、お前……パルトだったか?まずはお前を先にボコしてやるぜ。」
ゴズルは顔面を歪ませ、わたしを見てニヤニヤと不気味に笑った。
「臭い息でわたしの名前を呼ばないで。」
「けっ……可愛げのねぇ。ぶっ潰してやる。そのあとは、お前だ。」
ゴズルは次にアナスタシアを見た。
だが、アナスタシアは特に言い返すこともせず、ただ笑っているだけ。
さっきまでの勢いは、どこにも見当たらなかった。
「それじゃあ、試験を始めるぞ!リプリー、合図を頼む!」
ガルシュの大きな声が闘技場にこだました後、リプリーが大きな銅鑼を大きく鳴らした。
それが試験開始の合図だった。
銅鑼が鳴った瞬間、わたしは素早くゴズルの懐へ潜り込んだ。
潜り込んでスキルを一撃……みぞおちにぶち込んでやるつもりだった。
スピードなら誰にも負けない……。
先手は……わたしのものだ!
わたしは自信に満ちていた。
ゴズル自身も、そんなわたしの初動には驚いたらしい。
見開いた目でわたしを見下ろしている。
だが、その顔に焦りは感じられない。
ゴズルには余裕があった。
「見え見えの特攻だな。」
奴の顔が再び笑みに変わる。
その瞬間、わたしは足元から高く突き上げられ、空中に吹き飛ばされてしまった。
一瞬、何が起こったのか分からずに混乱するが、空中から見下ろしたゴズルの目の前の地面が、隆起していることに気づく。
想像するに、わたしの足元から土術スキルのグランドウォール(土壁)を使ったんだろう。
防御のためのスキルと思っていたが、そんな使い方もあるのかと不服にも感心させられた。
しかし、今は戦いの最中である。
「グランドバレット(土散弾)!!」
ゴズルが間髪入れず、次のスキルをわたしに向けた。
土術の基礎スキルであるグランドバレット。
魔力によって土の塊を複数生成し、相手に向けて放つこのスキルは、放出系では基礎とは思えないほどの威力を誇っている。
ゴズルは人の頭ほどの大きさがある土の塊を、容赦なくわたしへと撃ち込んだ。
だが、このスキルの欠点はそのスピードにあることを、わたしは知っていた。
四大属性の中で、1番質量率が高いのが土属性だ。
だから、他の属性に比べて土属性のスキルは高火力である反面、質量率の高さから重力による影響も大きかった。
そんな遅さじゃ、わたしには当たらない……空歩!!
わたしは何もない空間に風術による足場を構築し、すぐさま土の塊たちをかわした。
空歩とは、ミッドウェルとの戦いの中で体得した風術スキルであり、全身で練り上げた魔力を足から放出することで、一時的に足場を構築する移動系のスキルである。
一般的な呼び名がわからなかったので、わたしは勝手にそう呼んでおり、これがわたしの機動力の要だった。
「空中での……移動!?」
アナスタシアの驚いた顔が見えた。
このスキルは一般的ではないのかな?
人前で披露するのはミッドウェルとの戦い以降初めてだったから、その辺はよくわからないが、驚いた顔を浮かべているアナスタシアの前で、わたしはいくつかの足場を構築して、ゴズルとの距離を取る……つもりだった。
「パルト……!あぶない!」
「え?」
着地した瞬間、アナスタシアからの警告が聞こえたのと同時に、真後ろに嫌悪感を感じた。
「動きが単調だぜ。」
気づいた時には背後にゴズルがおり、奴は戦鎚を振り下ろそうとしていた。
着地点を読まれていた……!?
ガルシュの言葉が……ゴズルを舐めるなという忠告が頭に浮かんだ。
「カカカ!喰らえ!アースインパクト(土撃)!!」
「……くっ……エアシールド(風壁)!!」
咄嗟の判断で風の防御膜を張り、同時に大きく前に飛ぶ。
その直後、わたしがいた場所に戦鎚が撃ち込まれた。
衝撃波が爆発的に広がり、地面の呻き声が聞こえた。
地面には蜘蛛の巣のようなヒビが走り、それらはゴズルを中心に瞬く間に広がっていく。
そして、粉砕された地面の欠片たちが、礫となってわたしに襲いかかってきた。
腕を交差させて頭は守りつつ、なんとか体勢を立て直すも、エアシールドでは全てを防ぎ切れない。
いくつかの礫を体に受け、呻きが漏れる。
範囲の広いウォーターシールドならば、もっと防げたのに……
そう考えても、戦鎚をかわすためにはこれが最善。
それに、こんなに早く手の内を曝け出すわけにはいかない。
今の判断は間違ってはいないと自信を持って言えるが、攻撃を受けてしまったという悔しさが、わたしにそう思わせた。
「へぇ……今のを避けるか。」
地面に打ち込んだ戦鎚を再び肩に担ぎ、ゴズルが笑う。
その言葉に苛立ちを覚え、額から滴る血を腕で拭うと、わたしは奴を睨みつけた。
「パルト!大丈夫?」
アナスタシアがわたしに駆け寄ってきた。
その顔には心配の色が浮かんでいる。
「問題ない……。」
「でも、怪我してるじゃない。」
「……ただの擦り傷。支障はない……。」
アナスタシアの心配そうな視線が、わたしの中でさらに悔しさを膨らませた。
あんなクソ野郎……ひとりで倒すはずだったのに……
一瞬で終わると思っていたのに……
こんなはずじゃなかったのに……
敗北感が胸を染めていく。
悔しさが焦りを生む。
奴を倒すにはどうすればいいのかわからず、生まれた焦りが思考の幅を狭くしていく。
いっそのこと、アレを使ってしまおうか……
アレなら、あのハゲ男を殺せる……
それも、一瞬で……
どす黒い感情が心の底から湧き上がる感覚。
ミッドウェルと対峙した時にも、同じものを抱いた記憶が蘇る。
わたしは……こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ……
早く……強くならなくちゃ……
そう気持ちが逸るほど、目の前が黒く染まっていった。
だが……
バチンッ
突然、自分の頬が熱くなり、後から痛みが広がった。
どうやら、アナスタシアがわたしに平手を放ったらしい。
「目が覚めた……?話……聞ける?」
我に返ったものの、突然のことで思考が追いつかないわたしは、つい頷いてしまった。
それを確認したアナスタシアは「よし。」とひとりで呟くと、わたしの目をまっすぐに見据えた。
「次からちゃんと協力しよう。わたしもちゃんと戦えるから。それに作戦があるの。」
ゴズルが…
本当に強かった!!テンプレモブではない!?
パルトとアナスタシアは、無事に試験をクリアできるのかご期待ください⊂((・x・))⊃




