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28 事前昇格試験①

「さて、てめぇらがいったい何を言い争っていたのか……教えてもらおうじゃねぇか。」



大男が一歩前に出て、腕を組んでそう告げた。


その眼はまるで獣だ。


それに、筋骨隆々な巨躯とツンツンに逆立った髪が相まって、巨大な魔獣を想像させる。


一度狙った獲物は逃さない。


彼の眼からはそんな雰囲気が漂っていて、直接睨まれていないわたしですら少し気圧されてしまった。


それに、踏み出した一歩はまるで巨人を思わせるほどの力強さを感じさせる。


目の前に壁が立ちはだかっている……。


そう錯覚させられるほどに。



彼の体から放たれる威圧感で、ギルド内の空気はヒリついていた。


周りの冒険者たちが、誰1人として口を開こうとはしないのがその証拠だろう。


だが、完全に我関せずといった雰囲気を出しつつも、ことの顛末は気になるらしい。


ちらちらと、こちらを見ている者も多く見受けられる。


しかし、そんな緊張もすぐに解けることになる。


重苦しい空気を切り裂くように口火を切ったのは、その雰囲気を作り出した張本人であった。



「ゴズル……説明しろ。」


「……!?」



突然の指名に、ハゲ男の表情がさらに歪んだ。


その後ろでは、取り巻き2人が「なんでマスターがいんだよ。」とか「今日は会議でいないって……」とか、コソコソと言い合いをしている。



マスター……ということは、この人がギルドマスターなのかな?


こいつら、今日は責任者がいないと踏んで悪行に走ったのか……。


たぶん、常習犯だろうな。



おそらく、こいつらの悪行は今日が初めてではない。


それは周りの冒険者たちがコソコソと話していたからわかっていた。


だが、この悪行自体、大男にはすでにバレているんだろう。


ハゲ男に対する詰め方から、それは容易に想像できた。



「どうした……ゴズル?てめぇはDランクで、この中では1番先輩じゃねぇか。状況説明くらいしてくれや。」


「い……いや……それは……」


「話せねぇのか?それとも、話したくない理由があんのか?」


「そん……そんなこたぁ……ねぇけどよ。」


「なら、はっきり説明しろや。」


「……」



大男に詰められて、完全に押し黙ってしまったゴズルを含め、畏怖の表情を浮かべている3人衆は完全に蛇に睨まれた蛙。


まったく動けず、口も開くことができなくなってしまっている。


周りの冒険者たちも、固唾を飲んでこの状況を見守っているが、誰も何も言えないこんな状況で一体どうなることやらとわたしが呆れていると、そんな状況を打ち破ったのも大男自身だった。



「はぁ……まぁ、言わなくてもいい。お前らのバカな行動は全部筒抜けだからな。お前ら、こんな事して恥ずかしくないのか?」


「く……」



大男の言葉に、ゴズルが悔しそうな顔を見せる。


痛いところを突かれたらしい。


わたしはそれを見て、再び呆れ顔になる。


こいつらの今までが、目に浮かんだからだ。



実力が伴っていないから、冒険者稼業が上手くいかずランクも上がらない。


だから、大した金額も稼げず愚痴ばかり漏らし、酒ばかりを煽る。


そうして、この行き場のない不満をどこに向けようかと考えていたところ、新人冒険者を見て、ふと思いつく。


こいつらに指導という名目で、いろいろと教えてやろう。


教育的指導とか適当な理由をつけて金品を巻き上げ、かつ憂さ晴らしもできる。


そう考えたこいつらは、冒険者のプライドを捨ててクズに成り下がったんだろう。



わたしは無意識に鼻で笑ってしまった。


それに気づいたゴズルがわたしを睨んできたので、わたしもそれに負けじと睨み返す。


それに気づいて、金髪ツインテールが間に入る。


最後に大男が呆れた顔を浮かべた。



「ゴズル……お前がやったことは見逃せねぇ。だが、それをやっちゃならねぇルールも、ギルドには存在しないのは確かだ。」



ゴズルの顔に光明が差した気がした。



「だからよぉ……俺はお前にひとつ、仕事を任せようと思う。それがクリアできたらお咎めは無しだ。だが、失敗すれば……」



ゴズルの顔に差した光明に、今度は翳りが見えた。


だが、そこは腐っても冒険者らしい。


すぐに真面目な顔を浮かべ、その依頼内容を尋ねる。



「……で、その仕事ってのはなんだよ。」



ゴズルのやる気を見て、大男は口元に笑みを浮かべた……気がした。


一瞬のことだったから、はっきりとは見えなかったけど、間違いなく大男は笑っていたと思う。



「受けるんだな……?よし……リプリー、ゴズルに説明してやってくれ。」


「かしこまりました。」



大男が声をかけると、後ろにいた受付嬢がひょこりと前に出てきた。



さっき、わたしの登録手続きを担当してくれたお姉さん……リプリーさんて言うんだ。



だが、彼女に先ほどまでの優しい笑顔はなく、毅然とした表情を浮かべている。



「ゴズル=メズィール。あなたには、これから事前昇格試験の試験官をしてもらいます。」


「あ……?し……試験官だと……?!」



想定外の仕事内容にゴズルは困惑しているが、リプリーは全く気にしていない様子だ。



「はい。今回登録予定の新人冒険者2名……彼らは見込みがあるので、ギルドとしてはGランクではなくその上のランクから登録したいと考えています。なので、ギルド運営法第37条"事前昇格試験の実施"の規定に則り、2人に試験を課そうと思っています。その結果によって、彼らのランクを決めるわけです。その試験官をあなたにしてもらう。これが今回の依頼内容です。」


「あ……?」

「え……?」

「え……?」



3人の声が見事に重なった。


そのうちの1人はゴズルだ。


奴は初めは困惑していたようだったが、新人の試験官であることを知るや否や、いやらしい笑みを浮かべてこちらを見ている。


その顔がまじでムカついた。



もう1人は、もちろんこのわたし。


本音を言えば、事前昇格試験なんて別に受けなくてもいいから、早く手続きを終わらせてくれないだろうかと考えている。


わたしはただ、身分を証明するものと稼ぐ手立てが欲しかっただけで、登録さえできればよかったのに、試験を受けさせるとか勝手に決めないでほしい。


そう思っていたが、この雰囲気でそれを覆すのは難しそうだった。



釈然としないまま、わたしは声を上げた最後の1人に目を向けた。



「それって……私もその試験を受けるってこと!?」



金髪ツインテールの少女が驚いた表情でそう溢したが、わたし自身もその事実には驚いていた。


登場の仕方は、まるで輩に絡まれる新人を助けるベテラン冒険者風だったのに、蓋を開けてみればわたしと同じ新人冒険者だったなんて。



「そうだ。そこの嬢ちゃんたち2人には、事前昇格試験を受けてもらう。もちろん、受けるかどうかは2人に任せる。受けなくても、ちゃんと登録はしてやるからな。」


「お……おい!受けるかは任せるって……ギルマス!それだとこいつらが試験を受けなかった時、俺はどうなるんだ!」


「うるせぇ!そん時は別の課題を出してやるから、少し黙っとけ!」



お前が言えた口かと大男が睨みつけると、ゴズルは小さくなった。



「まぁ、冒険者ランクは高い方がそれなりにメリットはあるぞ。俺なら絶対に受ける。」



大男は仕切り直して、わたしたちを見た。


その言葉に興味が湧く。


メリットがあるなら、受けてもいいのではないだろうか。


そう思い、わたしは大男をマジマジと見上げた。



「そのメリットとは……?」


「ん……?そりゃあ、高額報酬の依頼が受けられることもあるが……どちらかと言えば、街での生活に幅が出るな。ランクが高い方が街の連中からは信頼できる冒険者と見なされやすいから、店では高品質な物を買えるし、優遇もされる。それに、公共のサービスで無料になるものもある。」


「公共の……サービス……?」


「あぁ。例えば、公衆浴場が代表的だな。Dランクになれば、街にある公衆浴場はほとんど無料で使えるし、時期によっては飯がつくこともある。」



それを聞いた瞬間、わたしの耳がピンと立った。



公衆浴場……!?


それってお風呂のことだよね……!?


お風呂が……無料ってこと!?



この街に来るまで、体を洗うのは川か池か雨だった。


川は冷たいし、池は臭いし、大して汚れも落とせない最悪な環境で、ここまで過ごしてきたのだ。


だからこそ、わたしの頭の中はお風呂のことでいっぱいになる。



「よし……その試験、受ける。」


「お……おう。それがいいと思うぜ。」



わたしが前のめりにそう言うと、大男は少し後退りしながら苦笑いを浮かべた。



「で、そっちの金髪の嬢ちゃんはどうする?こっちの嬢ちゃんは受けるみたいだが……あんたは受けるかい?」



大男はわたしの方を指差し、金髪ツインテールの少女にそう声をかける。


もちろん、それはわたしをダシに挑発しているのだ。


ギルドとしては、将来有望な冒険者は早めに獲得したいのだろう。


この試験に関したって、そういった意図がもともと含まれているはずだ。


受ける受けないは自由だが、受けた方が得はする。


それは、新人にとっては甘い蜜のようなもの。



金髪ツインテールの少女は少し考えた後、真っ直ぐに大男を見据え、指を差して笑った。



「もちろんよ!わたしも受けるわ!」


「なら、決まりだな。試験の手続きするから、呼ばれたら奥の闘技場まで来い。そこで2対1の試験を行う。ゴズル、てめぇはこっちだ。」



ゴズルはそれに頷くと、大男が指を差した方へと歩き出した。


その途中で、私たちのことを舐め回すような笑みを浮かべて。



こいつはマジでぶっ飛ばしてやる……。



そんな使命感に駆られるも、ひとつだけ聞き捨てならない言葉が聞こえたわたしは、ゴズルを無視して大男に視線を向けた。



「2対1とは……どういう意味?」


「ん……?そのまんまの意味だが……?お前たち2人でゴズルの相手をしてもらう。」



聞き間違いではなく、予想どおりの回答。


今度はそれに不満が湧き上がる。



はぁ……?あり得ない……。


わたしがあいつより弱いわけがない。


ひとりでも圧倒できる……。



その考えは、どうやら顔に出ていたらしい。


大男が嬉しげに笑う。



「ガハハハ……いいね。気に食わないってか……なかなかの気概じゃねぇか。」



バカにされているように思えてムッとしたが、どうやら金髪ツインテールもわたしと同じことを考えていたらしい。



「2対1って……わたしはあんな奴に負けないわ!正々堂々やらせてくれないかしら。」



彼女は腕を組んで不満を露わにした。


だが、それを聞いた大男は、真面目な顔をわたしたちに向けた。



「バカ言うな。お前らはまだ新人だろうが。ゴズルは腐ってもDランクの冒険者だ。ちゃんとしてりゃ、パーティでリーダーをできる実力だぞ。」



あんな奴が……?


新人にしか手を出せないクソ野郎が……?


そんなの絶対に認めない。


認めてなるものか。


金髪ツインテールには悪いけど、試験が始まったらわたしがあのハゲを瞬殺してやる。


わたしはそう心に決めたのだった。

ご愛読ありがとうございます!


現れた大男はギルドマスターのようですね。

しかし、突然の試験とは。パルトはやる気満々のようですが、果たしてどうなるのか!!


今後もご期待ください!

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