25 幕間 〜旅立ち〜
木漏れ日が差し込む森の中。
墓標を前にして、わたしは膝をついた。
木の板で作られた墓標には、『親愛なる師匠ダビドへ』とだけ刻まれている。
わたしが彫ったものだ。
その墓標に祈るように手を合わせ、ゆっくりと目を瞑れば、瞼の裏には数々の思い出たちが……師匠と楽しく過ごした日々が自然と蘇ってくる。
でも、楽しかった日々はもう訪れない……。
そんな孤独感がわたしの胸をチクリと刺した。
でも、だからといってわたしが泣くことはない。
涙なんてとうの昔に枯れてしまった。
それに悲しんでばかりじゃ、師匠に笑われてしまう。
「師匠……わたしは行きますね。そろそろ立ち上がらなきゃ……。」
墓標に向かってそう告げると、わたしは地面に寝かせていた剣を手に取り、静かに立ち上がった。
心地良い風がわたしの髪を撫でる。
歩きながら、あの時のことを思い出す。
師匠を失ったあの日……家族を殺されたと知らされたあの日から、わたしの心は暗闇の海を彷徨っている。
頭のおかしな魔人族は何とか撃退できたけど、師匠や家族を失った喪失感が、あの後……何度も何度もわたしの心を打ちのめした。
初めは死ぬつもりでいた。
師匠も家族もいないのに、生きていても仕方ないと思ったから。
でも、死ねなかった。
死のうとしても、その度にあいつの笑い顔が浮かんできて、溢れ出す憎悪が死を拒むのだ。
わたしの中の怒りは、風化することはなかった。
ふと、萎れてしまった庭の野菜や花に目が移り、足が止まった。
気づけば師匠の家が見える。
そして、庭の手入れをする師匠の姿が目に浮かぶ。
みんな……手入れをしてやれずに、ごめんね……。
罪悪感がわたしの胸に広がった。
だが、すぐに前を向き、手に握っていた剣を腰に佩く。
大丈夫……すぐに戻ってくるから……。
師匠が愛でたみんなに別れを告げ、わたしは再び歩き出す。
目標はすでに決まっている。
どこにいるのかはわからないが、あいつを殺すこと。
あのイカれた魔人族……ミッドウェルを殺してここに帰ってくる。
それが、今のわたしの目標だ。
そうすることで、みんなの魂が救われるかどうかはわからない。
でも、今のわたしにはそれしかなかった。
奴を必ず見つけ出して殺す……。
そのために、わたしはもっと強くならなくちゃ……。
師匠の家の前に着いた。
そして、誰もいない場所に向かって、わたしは頭を下げる。
そこには、師匠が使っていた仕込み杖が置かれている。
仇は……必ず……。
そうして、少しの間だけ頭を下げた後、わたしは振り返って再び歩き出した。
◆
ーーーお疲れ様でした。
耳を撫でる透き通った声に目が覚めた。
宇宙を思わせる広大な空間が視界に映る。
ーーー最後の願い、叶えさせてもらいました。
そうだった……あの兎人の娘……どうなっだろう。
ーーー無事に魔人族を撃退したようですよ。
そうか……それはよかった。
ーーーしかし、彼女の心には闇が巣食ってしまいました。
闇……か……。
ーーーひどく落ち込んでいますよ。
それはそうだろうな……家族も……亡くしていたんだ……。
ーーーしかし、同時にタネも芽生えました。
ありがとう……それが最後の願いだったから……安心だね。
ーーー乗り越えてくれることを祈りましょう。
あぁ……俺にはそれしかできないしね。
ーーーそういえば、最初に渡していた例の権能は?
ん……?あのガイドのこと……?
ーーーそうです。使わないのですか?
……だって……今更だろ。俺はもう死んだんだ……。
ーーーいえ、まだ時間はありますよ。まだ権能を行使できます。
……へぇ。珍しく優しいじゃないか……。
ーーーまぁ……死ぬ時くらいは……でしょうか。
ははは……なら、お言葉に甘えようかな……。お願いできるかい?
ーーー承りましょう。これが本当に最後ですからね。
あぁ、頼むよ……。
ーーーでは……
その瞬間、おれが漂う空間に光が差し込んだ。
それは俺を静かに包み込み、空間全体を満たしていく。
ーーー個体名『パルト』に新たな権能を与えます。
俺はその言葉を聞き、安心感とともに再び目を閉じた。
ご愛読ありがとうございます!
これで、この物語の一章にあたる部分が終わります。
家族とじじいの仇であるあの魔人族の男を殺すべく、復讐を違うパルト。
彼女の物語はこれから大きく動き出します!
二章からも引き続きご愛読をお願いしますね!




