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13 伝授と勘違い③

「では、さらにもう一度、気を取り直して……」



師匠は咳払いをすると、切り株に腰を下ろした。



「属性"の起源については、お主の父が言っていた内容で違いない。火、水、風、土の自然四大元素と、概念的元素である聖光と闇魔の6種が存在し、これらは女神が生み出した原神たちに関係しておる。」



師匠はそう説明すると、「お主の父は、やはり博識じゃな。」と付け加えてくれた。


それがたまらなく嬉しくて、耳をヒクヒクさせながら食い入るように師匠の言葉に耳を傾ける。



「創成期では原神たちが創造したものにだけ、その属性が継承されておったそうじゃ。」



師匠が言うには、神様たちが創った世界では原神たちにより関連が深いものに属性がついていたそうだ。


例えば、水属性は海のものだけに、土属性は大地のものだけに……というように、原神が創造したものにだけ継承されたらしい。


でも、この世界が創られ、いろんなものが繁栄しては消えていく過程の中で、属性はありとあらゆるものの中に散りばめられていったという。



わたしは師匠の知識の深さに、改めて感嘆した。




「それにのぉ。属性には相関性も存在しとる。特に自然四大元素については、しっかりと覚えておいて損はないのぉ。」



相関性とは、お互いに影響し合う関係性やルールのことだ。


互いに有利・不利の関係にあるため、特に戦いにおいては戦略的な要素となるらしい。


火は水に弱く、風に強い。


水は土に弱く、火に強い。


土は風に弱く、水に強い。


そして、風は火に弱く、土に強い。


また、聖光と闇魔は互いに打ち消し合う。



これをしっかり覚えておくようにと言われ、わたしは大きく返事をした。




「ふむ……では、次は属性とスキルの関係性じゃな。」



師匠は満足したように頷くと、自身の手のひらの上に魔力の球体を生成した。



「これは単なる魔力の塊じゃが……このままでは何にもならんことはわかるかの?」



その質問に、わたしは静かに頷いた。


魔力は魔力であり、それ以外の何ものでもない。


要するに、この状態では何もできないし、何も起こらないのだ。


もちろん、体内においては各器官に魔力を送ることで機能の強化などが見込まれる。


だが、体外においては全く意味をなさない状態。


わたしも以前、それを身をもって教えられたから知っている。



「魔力は、言うなればスキルのエネルギー源じゃ。ならば、スキルはどうやって"体外"で発動させるのか……そこに属性が深く関係しておるんじゃ。」



師匠が少し真面目な顔をしたので、わたしも気持ちが引き締まる思いになった。



師匠の言葉を借りるなら、体外でスキルを発現させるには"属性"という基因が必要だ。


魔力を練り込んだ際、発動したい属性をその魔力に組み込むわけだが、その時に重要なものが"因子"と呼ばれる作用素となる。


"因子"とは、魔力の中に存在している細胞のようなものであり、これを練り上げた魔力に組み込むことで、スキルが発動する。


わたしの場合だと、水属性の因子を魔力に組み込んで、こうやってウォーターボールというスキルを発動しているわけだ。



師匠の話を聞きながら、自分の手のひらに生成した水の玉を、わたしは静かに見据える。



師匠いわく、この世の全てのもの……特に生き物には、全ての属性の因子が存在しているらしい。


もちろん、生きる環境や出自、種族、性格など、それぞれの特性によって魔力に含まれる因子の量は変わってくるため、魔力操作で扱える因子も限定されてくる。


そうすると、自ずと使える属性が決まってくる。


要するに、全属性が使えるなんてことはあり得ないということだ。



例えば、エルフ族。


彼らは森に住み、自然と共に生きる種族。


だから、水属性や風属性、土属性を持つ者が多く、中には聖光属性を持つ者もいたりする。


逆に火は嫌うため、火属性は使えない。


とても優秀な者が多くて、スキルも多種多様。


容姿も端麗な種族。


少し気位が高過ぎるところが、たまに傷だけど……。



あとは、ドワーフ族なら火属性や土属性を得意としている。


彼らは鍛治を生業にすることが多く、それらの属性に特化している者が多い。


でも、逆に水属性や風属性は使えない。


お風呂が嫌いな者が多いらしく、それを聞いて少しゾッとしたけど……。


彼らは武器製作に人生をかける者が多く、こだわり深い。


いわば職人気質の種族。


ちょっと頭が固いところがたまに傷……。



こんな風に、種族だけでも違いがでるのが、属性の奥深さだと師匠は言った。




それなら、兎人族はどうだろう。



そんな思いが、ふと頭によぎる。


正直言って、兎人族はあまり個性が強い種族ではない。


足は速いが、ただそれだけ……。


周りからは最弱の種族と呼ばれているくらいだし……。


現に、周りの仲間たちが水属性以外のスキルを使っているところを、わたしは見た記憶がない。


わたし自身だって、水属性のスキルしか使えていないし……。



そう思うと、何だか気持ちが重くなる。



やはり兎人族は兎人族なんだ……。


夢は夢で終わるんじゃないかって……。



でも、そうやって自暴自棄になったところで、何も生み出さないことはわかっている。


わたしは師匠の言葉を思い返した。



ーーー生き物は、全属性の因子を持っている。



創成期から始まった属性の変遷。


衰退と繁栄を繰り返したことで、様々なものに散りばめられた属性の因子たち。


それが本当なら、それらは今、わたしの中にも存在しているはずなんだ。


だとすれば、わたしも水属性以外の属性を使えるかもしれない。


まだできないと決まったわけじゃないのに、最初から諦めるのは絶対に良くない。


努力すれば、きっと他の属性だって使えるようになるはずなんだ。



自分自身に負けたくないという感情が、いつしか自然と拳を作っていた。


そんなわたしの様子を見て、何か言いたげな表情を浮かべた師匠があご髭をさすっている。



「ちなみにじゃが……」



いつになくその真面目な面持ちに気づいたわたしは、師匠の言葉に静かに耳を傾けた。



どんな話であっても、わたしはもう驚かない。


やると決めたんだから。


師匠にアドバイスをもらって、もっと強くなるんだ。



そう気を引き締めたが、師匠の言葉はいつものようにわたしの想像の域を超えてきた。



「お主、もうひとつ属性を持っとるぞ。」


「へ……?」



思わず、肩透かしを食らったような声が出る。



聞き違い……じゃないよね?



ついつい、師匠の言葉に耳を疑ってしまう。


でも、師匠はそんな冗談を言う人じゃない。


確かに今、師匠は……。



逸る気持ちが、わたしの感情を前へと押し出していく。



「師匠……今、なんておっしゃいました?」


「ん?いや、だからお主が使える属性は……」


「水属性以外にもあるんですか!!??」



師匠が言い終える前に、わたしは師匠のそばに駆け寄っていた。


さっきまで自分は水属性しか使えないと思っていたのに……突然、使える属性が他にもあるって言われたんだ。


こんなの、興奮せずにいられるわけがなかった。



「ちょ……落ち着かんか。」



さすがの師匠も、今のわたしの勢いに驚いているようだ。


だが、わたしにだって譲れないときはある。



「落ち着きますから!だから、今の話を詳しく……!!」


「わかった!わかったから、少し落ち着かんか!」


「はい!落ち着きます!!」



わたしはすぐさま一歩下がると、その場で正座をして師匠をジッと見つめた。



「な……なんちゅう変わり身の早さじゃ……。」



師匠は珍しく動揺し、冷や汗を拭う。


よほど、わたしの気迫がすごかったんだろうか。


だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


属性のことをしっかりと聞かないとならないんだから。



「……で、わたしが使える属性って何なんですか?」


「……冷静に聞いちょる風じゃが、すんごい気迫じゃな。」


「えぇ、自分の属性のことをもっと知りたいんで。」


「そういうのを魔物の前で見せられると良いと思うが……」


「それは言わない約束です。」



わたしの視線が鋭くなったので、師匠は観念したらしい。


苦笑いしながら小さくため息をつくと、再びあご髭をさする。



「では、お主がこの広場までわしを追いかけてきた時のことを覚えちょるか?」



わたしが師匠の動向に疑問を持ち、こっそりと後をつけたあの時のことだ。


そう気づいて小さく頷くと、師匠も頷き返す。



「実はな。あの時のわし、お主がギリギリでついて来られないスピードを出していたんじゃ。」



ん?


ギリギリでついて来られない……?



一瞬、頭が混乱する。


普通、そういう時ってギリギリでついて来られるスピードなんじゃ……。



だが、師匠はわたしに構うことなく、話を進めていく。



「そしたらな。なんとお主はついて来おった。さすがに驚いたもんじゃったが、わしはその時にあることに気づいたんじゃよ。」



あの時はついて行くのに必死だったから、自分がどうやって走っていたのかなんて良く覚えていない。


ただ、師匠に置いていかれないようにと、必死に脚を動かしていただけなんだけど……。


でも、師匠はあの時、わたしの何かに気づいたらしい。


いったい、それは何なのか……。


気になる……。




「お主の足の速さは、身体強化によるものだと思っとった。だから、敢えて追いつけないスピードで走ったんじゃ。じゃが、あの時のお主はそれについてきた。身体強化ではついて来られないスピードにも関わらず……」



師匠は楽しそうにあご髭をさする。


なんだかこの話をするのが嬉しいみたい。


わたしの方は、正直気が気ではないんだけど……。



「ならば、そこから考えられることは、ひとつしかない。お主の走りは単なる身体強化ではないということ。要するに、お主の速さは風属性のスキルからくるものじゃったんじゃな。」



わたしは、あまりの驚きに言葉を失った。


でも、胸の中からは喜びが沸々と湧いて来るのがわかる。



わたしはもっと成長することができる。


強くなることができるんだ。



そんな思いで胸がいっぱいになり、涙が溢れてきた。


自分の可能性が垣間見えたことが、こんなにも嬉しいなんて、思ってもいなかった。





だが、わたしは大事なことを忘れていた。


師匠は今日、伝授することがあると言っていたことを。


そして、師匠は必ずとんでもない課題を突きつけてくることを。



「ということでな。今日からは風属性スキル全開で森を駆け回ろうかのぉ。全開でじゃぞ。その方法を伝授するぞぃ。」



わたしの喜びは、一瞬で掻き消されてしまった。

いつもご愛読ありがとうございます!


まさかパルトが属性を2つ持っているなんて!彼女の足の速さはそういう理由があったんですね。


しかし、喜ぶ時間も束の間。

魔力全開MAXで森を駆け抜ける訓練とは…どうなるか予想できる……


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