12 伝授と勘違い②
「さてさて。ほんじゃ、気を取り直して……」
あご髭を触りながら木剣を拾い上げた師匠は、立ち直ったばかりのわたしに向けてそれを放り投げた。
くるくると回りながら、木剣が放物線を描く。
それをうまくキャッチして、わたしは師匠を見た。
「これまでは魔力操作について鍛錬を行ってきたわけじゃが……これからすることは、その応用と捉えればよいからのぉ。」
「応用……ですか?」
笑う師匠の言葉に対して、わたしは眉間に皺を寄せた。
「そうじゃ。だから、そんな気難しそうな顔をせんでも良いて。簡単じゃから。」
師匠はそう言うけど、こういう時の師匠の言葉をわたしは信じていない。
多分だけど、ものすごいことを言い出すんだ……この人は。
絶対に……。
朝だってドラゴン倒すとか言ってたし……。
そんな考えが頭をよぎる。
しかし、だからと言って、言われたことをやらないわけでもない。
だって、わたしは強くなるために師匠の弟子になったんだから。
わたしのそんな思いを感じ取ったように、師匠は咳払いをすると、ゆっくりと話し始めた。
「前にも言ったように、魔力操作は基礎中の基礎であって、あくまでもスキルを発動するための準備にすぎん。魔力操作ができて初めて、効果的なスキルが使えるようになるわけじゃな。」
師匠の話に真剣に耳を傾ける。
一言一句、漏らさないように。
「では、実際にそのスキルは、何を基因として発現しているのか。お主、わかるか?」
「え……?何を基因に……ですか?」
突然の質問に戸惑ってしまうけど、ニコリと笑いながら問いかけてくる師匠を見て、わたしは自分の手のひらに目を移す。
わたしの場合、魔力操作で練り上げた魔力を手のひらに集中させてスキルを発動している。
その時は、手のひらから水が湧いてくるイメージを頭の中で思い浮かべるけど……。
そういうこと……なのかな……?
「頭の中で……イメージを明確にする……ということでしょうか。」
わたしがそう答えると、師匠はまた笑う。
「それも正解じゃ。イメージすることはとても重要なことじゃからな。そもそも、イメージできてなければスキルは行使できん……。」
やった!正解した!
わたしは期待に応えられたことが嬉しくなって、耳をピクピクと動かしてしまった。
でも、それと同時に、師匠が「それも」と言ったことも気になった。
なぜなら、それは他にも正解があるということを示しているはずだから。
そんなわたしの考えを察したように、師匠が口を開いた。
「話を進めるが……実はスキルを行使するには、知っておかねばならぬ重要なことがある。イメージよりも……な。」
「イメージよりも、じゅ……重要な……ことですか?」
「ほうじゃ。例えば、お主が得意なスキルはウォーターボールじゃが……それは何からできるんじゃろうな。」
「え……?何……から……とは……」
予期せぬ質問だった。
わたしは言葉に詰まってしまう。
わたしが使うウォーターボールは水からできてる……
それは森で生きるために必要だったからであって……
そこに何か別の理由なんてないんだけど……
考え出すと頭がパンクしそうになるが、わたしはなんとか冷静さを保つことに成功する。
で……でも!
師匠がわたしに問いかけるってことは、これは本当に重要なことだよね。
おそらく、生きるためとかそんなことではなくて、技術的な部分でのことのはず……
なら、ちゃんと考えてみよう。
わたしは木剣を地面に突き刺し、腕を組んで少しばかり頭を働かせる。
師匠はイメージよりも大切なことがあると言った。
確かに、イメージっていうのは頭の中での想像に過ぎない。
そんな抽象的で不確実なものが、スキルの発動の起因になるんだろうか。
だって、イメージだけでスキルが使えるなら、世界中の誰しもが、自身が想像できるスキルを使えているはずだし。
でも、わたしは基本的にウォーターボールしか使えてない……。
この矛盾を紐解くための、何かもっとこう……必然的な要因があるんだって師匠は言いたいんじゃないかな。
これはなかなか難しい質問だと思った。
感覚でスキルを使ってきたわたしにとって、こういう類の質問にはいつも頭を沸かせてしまう。
でも、何かヒントはないかと頭を捻り続けていると、ふと父の昔話が蘇ってきた。
それは、この世界の誕生の話。
私が寝る前に、よく話してくれた物語だった。
〜〜〜〜〜〜
『パルトはこの世界がどうやってできたか知ってるかい?』
『ううん、知らな〜い。』
『なら、覚えておくといい。これはとても大切なことだからね。』
父はそう言うと、ある物語を話し始めた。
わたしは目を輝かせて、それを聞く準備をする。
遥か遠い昔のこと。
まだこの世界ができる前の話。
誕生を司る女神がいて、彼女は世界を創るため、まず始めに炎神、水神、風神、そして地神を生み、それぞれに役割を与えた。
その役割に倣い、水神はまず海を創った。
そして、地神が大地を創り、風神が空と天気を創り、最後に炎神が生き物の根源を創った。
ただ、その世界には色が足りなかった。
それを憂いた誕生の女神は、世界に色をつけるために光神を生み、光神は光を創った。
だが、光神が生み出した輝かしいほどの光は、闇を生み出してしまい、そこから闇神が生まれた。
世界には自然と生き物と光で溢れて、繁栄していった。
その裏で影を生みながら。
〜〜〜〜〜〜
まだ小さかったわたしとって、その話はとても魅力的でワクワクする話だった。
何度も話してもらったから、よく覚えている。
ただ、なんでこの話を今思い出したのかはわからない。
あの時、父は何か大切なことを言っていた気がするんだけど……。
そして、それは師匠の質問に関係があるように思える。
なんだったかな……。
〜〜〜〜〜〜
『ちなみに、パルトはどうしてスキルを使えるか……知っているかい?』
『えっとね〜。女神様や神様が火とか水とかをわたしたちにたくさん与えてくれたから?』
『そうだね……スキルとは、世界の理なんだ。誕生の女神から授けられた恩恵とも言える。そして、スキルに基因する"属性"……火や水、風や土は、四大元神からの恩恵だ。この2つが合わさることで、僕たちは生きていけるんだよ。だから、常に感謝して生きていかなきゃね。』
『はぁ〜い!ありがとうございます。女神様たち!』
〜〜〜〜〜〜
曖昧な記憶の中で、小さな思い出が蘇ってきた。
父との他愛もない会話だけど、今のわたしの思考とリンクしたのは間違いない。
そうだ……"属性"だ。
スキルに基因する"属性"……。
父は確かにそう言っていた。
ということは、師匠が私に問いかけたスキルに必要な要因とは、それは……"属性"の事なんじゃないかな。
そう理解できた瞬間、わたしは嬉しくなって目を輝かせた。
師匠からの課題に対して、初めて1人で答えに辿り着けたことがとても嬉しかったのだ。
「それはもしかして、"属性"に基因しているから……でしょうか!」
「ほう!ご名答じゃ!」
わたしの答えを聞いて、師匠も嬉しそうに拍手してくれる。
それを見て、胸の中にさらなる高揚感が生まれた。
でも、喜んでいる暇はない。
師匠からはすぐに次の質問が飛ぶ。
「さてさて……では、その"属性"についてじゃが、お主はどれほど知っとるかのぉ?」
「………え?属性について……」
やはり、ここでも言葉に詰まってしまった。
実を言うと、わたしは"属性"についてよく知らない。
自分が使っているスキルはウォーターボールと言ってるくらいだから、それが水の属性だということは何となく理解できる。
でも、その"属性"が体の中でどのように作用し、スキルとして発動するのかはまったくわかっていなかった。
「す……すみません。ほとんど……知らないです。」
語尾が小さくなり、それに合わせて体も小さくなる。
魔力操作の講義の時と同じだ……。
わたしは何もわかっていない……。
そう思えば、やはり無知とは恥ずかしいものだと俯いてしまう。
だって、自分の恥を曝け出しているわけだから。
でも、師匠はそんなわたしに優しく笑ってくれる。
「よいよい。お主は自身の無知を気にしているようじゃが、あまり気にするでないぞ。」
「……でも、やはりものを知らないのは……」
「ふむ……まぁ聞きなさい。お主はこんな言葉を知っとるか?"聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥"……わしの座右の銘じゃな。」
初めて聞く言葉だった。
でも、意味はなんとなく理解できた。
「今聞いて学べばよい。そういうことじゃよ。」
わたしの表情を読み取ったのか、師匠は頷いて笑っている。
それを見て、なんだか元気が出てきた。
そうだよね!
今から学んでいけばいいんだから!
そう気を取り直して顔を上げるが、ふとある疑問が浮かんだ。
「でも、師匠。魔力操作の時に"属性"のことも教えてくれれば良かったんじゃないですか?その方が効率的だったと思うんですけど……。」
わたしがそんな疑問を胸に問いかけると、師匠はあご髭をさすりながら悪気なくこう言い放った。
「え……?だって、全部を一気には理解できんじゃろうし……。」
わたしの中に、これまでにない衝撃が走った。
「あの時のお主は、属性よりも魔力操作の鍛錬が必要だと感じたからのぉ。魔力操作もだいぶ練度が上がったから、今日からは属性について学び、スキルの鍛錬をするんじゃ。」
師匠が何か言っている。
でも、今のわたしの耳には何も届かない。
ーーーだって、全部は理解できんじゃろ?
その評価が、今日イチでショックでした。
ご愛読ありがとうございます!
今回はスキルのお勉強でした。スキルとは属性が基因となり発現するものなんですね!単純なようで奥が深そう…
そして、またパルトがかわいそう…笑




