11 伝授と勘違い①
朝食を済ませた後、わたしは師匠とともにいつもの広場を訪れていた。
いつものように置いてある木剣を手に取る師匠。
その様子を見ながら、わたしは2つの感情の間で葛藤を続けていた。
ひとつは、これから教えてもらうことに対する期待感。
どんな技を……
どんな技術を……
どんなスキルを教えてもらえるのだろう!
そう思えば、心は昂り、ワクワクが止まらなかった。
だか、その反面ではドラゴンと対峙する恐怖心とも戦わなければならなかった。
ドラゴンと言っても、その種類は多くて一概には言えないが、わたしの妄想に出てくるのはオーソドックスな飛竜。
頭の中でそれがわたしの目の前に立ちはだかり、鋭い眼光と凶悪な牙を向けているのだ。
ドラゴンを倒すとか……師匠は本気なんだろうか……?
ついついそんなことを考えてしまうが、これから数分後にわたしの目の前で起こることに比べれば、そんな妄想は大した話ではなかった。
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師匠の目の前にある大きな岩が、木剣から繰り出された一振りによって粉々に砕け散った。
粉々に……というよりかは、粉微塵にという方が正しいだろう。
黒く変色してしまった大きな岩は、細かい粒子となって辺りに舞い散っていく。
わたしはその様子に、開いた口が塞がらなかった。
「ふむ……やはり木剣だと威力半分といったところかのぉ。」
そう呟く師匠の手元では、炭くれになった木剣が崩れ落ちた。
これで……半分……!?
師匠が下した自身のスキルへの評価は、逆にそのスキル自体の強力さを物語っていた。
ーーー炎爆灰塵……
これが今、師匠が放ったスキルの名称だ。
強力で、驚異的で、それでいて鮮やかだと感じさせられたのは、真紅の炎の妖艶さからだろうか。
それとも、師匠の精錬された剣技からだろうか。
ともあれ、わたしはこんなに強力なスキルを、これまで一度たりとも見たことがなかった。
「スキルは一般的に属性に合わせて火術、水術、風術、土術と呼称されちょるが、今のは火術から進化した"炎術"スキルのひとつじゃな。他にも水術なら"波術"、風術なら"嵐術"などに進化させられる。これらを総じてエクストラスキルと呼ぶんじゃ。」
目を見開いたまま呆然としているわたしに、そう説明する師匠は、相変わらず飄々とした態度だ。
だけど、わたしはその単語を聞いてさらに耳を疑った。
エク……エクストラスキル……!?
それは熟練した冒険者や神に認められた神職者など、ごく一部の者だけが到達できるスキルの極み。
ほとんどの者が到達できないとされる極地である。
冒険者であればS級ランクに達した者が使えると、昔父から聞かされたことがあるけど……。
ちなみに、S級ランクとは冒険者の最高位。
その個々の力は、各国の軍隊に匹敵するほどだと噂されている。
ただし、これまでその領域に到達した者はほとんどおらず、世界でも数人程度しか存在しないとか……なんとかかんとか。
これらも全て、父から聞かされた話であるものの、そもそもS級ランク冒険者なんて見たことも会ったこともないから、わたしには本当かどうかもわからなかった。
ところが、だ。
今、目の前にはそのスキルを使える人がいる。
言ってしまえば、師匠はS級ランク冒険者同等の力を持っているということになるわけだ。
「し……師匠はもしかして、S級ランク冒険者だったんですか?」
ついついわたしがそう尋ねると、師匠は少し驚いた表情を浮かべた。
「ん……?……おぉ、なるほどな。そう思うのも無理はないかのぉ。じゃが、わしは冒険者なんぞやったことはないぞぃ。」
それを聞いて残念なような、ホッとしたような気持ちになる。
「そ……そうですか。でも、まさか師匠がエクストラスキルを使えるなんて……。」
「まぁな。こんなところで毎日武器やスキルを扱っておれば、こんなこともできるようになるじゃろうて。」
……。
いや、そんな簡単にはいかないと思います……。
笑っている師匠を見て、ついつい心の中でツッコミを入れてしまった。
最近思い始めたんだけど、師匠は天然なんじゃないかと思う。
優しく微笑んでくれているけど、言うことはどこかズレているというか……。
朝だって、突然ドラゴンを倒せるようになるとか言っていたし……。
強さに関する感覚が、普通とは違う気がしている。
でも……。
たとえそうであったとしても、師匠が見せてくれたこのエクストラスキルを習得できれば、確かにドラゴンを倒すことが可能だと思う。
S級ランクの冒険者がどうかはわからないが、師匠ならばドラゴン狩りを簡単に実現してしまいそうだし。
やっぱり、わたしは師匠の言うとおりに修練すべきだよね!
そう考えれば、わたしの中でやる気が漲ってきた。
わたしも必死に鍛錬して、エクストラスキルを習得してやるんだ。
そんな思いが沸々と湧き上がっていく。
実を言うと、わたしたち兎人族はあらゆる種族の中でも最弱と呼ばれている。
力もなく、技もなく、ひねれば簡単に死んでしまうひ弱な種族だ、と。
だから、あんな森の奥で慎ましく静かに暮らしているのだ、と。
そう蔑まされているのだ。
でも、わたしはそうは思っていない。
わたしたちのこの脚だけは……脚力だけは絶対に誰にも負けない。
そう信じている。
そして、それをいつか世の中に証明したいとも思っていた。
だからこそ、わたしは強くなりたい。
家族を守ってくれた父親のように。
小さい頃から聞かされた英雄譚の主人公のように。
目の前にいる師匠のように。
強くなって、兎人族の名誉と誇りを守りたい。
わたしたちの強さを世界に知らしめてやるんだ!
その思いが沸々と溢れ出て、言葉に変わっていく。
「し……師匠!わたし、頑張ります!頑張ってエクストラスキルを習得してみせます!」
「ほえ……?」
わたしの勢いに気圧されたのか。
師匠は驚いた顔を浮かべている。
「そうですよね。突然そんなこと言われても……って感じですよね!でも、安心してください!わたしは必ず、師匠の期待に応えて、エクストラスキルを習得してみせますから!!」
「いやな……それは……」
「任せてください!わたしは証明したいんです!兎人族でも強くなれるんだって!私たちを馬鹿にする他の人たちを見返したいんです!」
「まぁ……それは良い志しじゃ。しかしな……」
「大丈夫です!師匠!弟子を信じてください!」
師匠の言葉を遮って、わたしはそう言い切った。
師匠の期待に絶対応えるんだという思いの丈を、師匠にぶつけたのだ。
これからわたしは、エクストラスキルを習得しなきゃならないんだ。
スキルの極地に届くためには、生半可な気持ちじゃ絶対に無理だよね。
師匠にもわたしの覚悟を知ってもらわなきゃ。
そんな思いの丈を。
だが、師匠からの返事を聞いて、わたしは再び耳を疑うことになる。
「盛り上がっているところで悪いんじゃが、今日お前さんに伝授するのはエクストラスキルではないぞぃ。」
「え……?ちが……違うんですか?」
は……?エクストラスキルの習得が、これからの課題じゃないの?
ちょっと待って……わたし、ひとりで先走った?
「で……でも、エクストラスキルを見せてくれたってことはそういうことだと……。」
「ん?あぁ、違う違う。あれは単に、わしが久し振りに撃ちたくなっただけじゃ。それとこれからスキルの基本を教えるための……」
「え……えぇ!!?」
嘘でしょ……!
久しぶりに撃ちたかっただけ……?!
そんな……ここに連れて来られて、いきなりスキル見せられたら、それを教えてくれると思うじゃん!
紛らわしいこと、しないでほしいよね!
うわぁ……わたし、これ今……めっちゃ恥ずかしくない?
恥ずかしいよね……?
夢とか語っちゃってたよね……!
証明したいんです……とか!
うわぁぁぁぁ!!
直前の自分のコメントを思い出して、四つん這いに倒れ込む。
本当……自害したい……!!
「な……なんか……すまんかったなぁ。」
申し訳なさそうに謝る師匠の言葉が、さらに胸に突き刺さる。
やめてください……師匠!
そんな目で見ないで……!
余計に虚しくなっちゃいますから!!
そのあと、わたしの心が立ち直るまでに、だいぶ時間がかかった。
ご愛読ありがとうございます!
見せたんならそれを教えろよ!
書いてて自分でもそうツッコミました笑
パルト…なんかごめんね…笑




