120 武道大会出ろ出ろハラスメント
見失ったエルバはいったいどこへ…
彼女たちを探しに駆け回るパルトたちですが、ゼ・ツイレイクの街ではなにが起こるのか。
つい数分前まで、エルバたちを捉えていたはずだった。
だが、武道大会を目前に控えたゼ・ツイレイクの街は巡礼者と観光客、そして一攫千金を狙う武芸者たちで膨れ上がり、標的の影を容易に飲み込んでしまった。
エルバたちを見失ったわたしは、歩きながら周囲を警戒するように見回してみるが、すでに彼女たちの姿はどこにもない。
少し悔しさを滲ませていると、事情を知ったクレアが別の疑問を浮かべる。
「よく見るとさぁ……街中に衛兵が配置されてるね。」
そう言われて、わたしも同意するように頷いた。
街の中には巡礼者や旅行客のほかに、衛兵らしき者たちの姿が多く確認できる。
その理由は、武道大会が開催されるにあたり、例の宝玉が権威の象徴としてお披露目されるからだろう。
案内所はその話で持ちきりだったし、そこで聞いた話によれば、この街の貴族はその宝玉を代々守ってきたらしい。
そんな大切な宝玉であるが、武道大会では必ずその宝玉をお披露目することが習わしのようだから、貴族にとっては気が気ではないのかもしれない。
だから、これだけ多くの衛兵たちを街中に張り巡らせ、宝玉を確実に守り通すつもりなのだろう。
だが、それを狙っているのがエルバたちだと思えば、少し気の毒な感じもする。
『……ですが、彼らに宝玉を渡すつもりはありません。』
もちろん、その通りだ。
わたしはガイドさんの意見に同意する。
彼女たちに、そう簡単に宝玉は渡すらつもりはない。
例え、この街の貴族を敵に回すことになっても、だ。
「しかしさぁ……だいぶ殺気じみている気がするよね。」
「それはわたしも感じてる……。」
クレアは本当に観察眼が鋭いと思う。
衛兵たちは、単純な巡回や警備を繰り返しているだけのように見えるが、背負っている緊張感にはただならぬモノを感じる。
武道大会の警備という名目にしては、衛兵たちの眼光は鋭すぎる気がするのだ。
特に、巡回中の衛兵たちが手にした槍の石突きが石畳を叩く音には、どこか威圧感がこもっているような……。
「もしかすると、すでに何かあったのかな?」
「ん〜どうだろう。」
「もしかして、エルバたちがすでに宝玉を盗んだとか……?」
「いや~それは考えにくい気がするなぁ。それなら、盗んだ犯人を追おうとして、もっと焦っている気がするし……。」
確かにその通りだった。
なら、衛兵たちはなぜあんなに殺気立っているのだろうか。
『理由は分かりませんが、ひとまずは目立たないほうが良いかと。』
その通り、今目立つのは得策ではない。
ガイドさんの提案を飲んだわたしは、クレアと大通りを外れて路地裏へと滑り込んだ。
・
爽やかな季節にしては湿った裏路地を抜け、入り組んだ階段を上がった先で、不意に視界が開けた。
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った広場の先には、華やかで豪華絢爛な一軒の巨大な邸宅が鎮座している。
彫刻が施された大理石の門柱、そして、重厚な鉄柵と手入れの行き届いた生垣。
おそらく、ここはこの街を管理しているという貴族の邸宅だろうと思われた。
門柱の前には2人の衛兵が立っているが、それ以外にもかなりの衛兵がいる。
邸宅の周りを巡回している衛兵も多数見受けられる。
「ここ……たぶん、貴族の家だよねぇ。」
「うん……そうだと思う。でも、かなり警備が厳重……」
これだけの警備がいるのなら、エルバたちも簡単には忍び込めないだろう。
「エルバたちはこの先に消えたのかなぁ?でも、この警備じゃ鼠一匹入り込めないよねぇ。」
クレアの首を傾げるが、わたしはそうは思わない。
彼女はこっそり忍び込むより、大袈裟に乗り込んで混乱させるほうが得意そうだ。
エルバの言動や行動を思い出して、なぜかそんな結論に至った。
彼女なら、セオリー通りに宝玉を狙うとは思えないのだ。
「少しだけ様子を見てみる……?」
「そうだねぇ。衛兵の交代時間とか、確認しておいて損はないし……」
だが、そんな思惑はすぐに阻まれることになる。
突然、邸宅の巨大な門が重々しく開き、豪華な馬車と共に一団の武芸者たちが姿を現したのた。
おそらくは、今大会に出場する貴族お抱えの「招待選手」たちだろう。
ゼ・ツイレイクの武道大会では、諸外国から多くの強者が集まるそうだが、参加選手はそれだけではない。
この街の貴族は武芸者を金で雇い、彼らをお抱え選手として参加させる。
要するに、その武芸者たちが大会で活躍することで、自分の権威を示すことも目的のひとつなんだそうだ。
この辺も、案内所の人がいろいろと教えてくれたことだけど。
「貴族の顔は……見えないね。このままやり過ごそう。」
建物の影で身を屈めたまま、クレアがそう言うので、わたしは無言で頷いた。
しかし、ここでもその思惑は瓦解した。
「おい、そこにいる嬢ちゃんたち。なぁにやってんだ?」
豪華な馬車を先頭に進む武芸者の団体。
その1番後ろを歩く大柄の男が、こちらに気づいて声をかけてきたのである。
気配を完全に消していたのに……なんで……!?
驚きを隠せないわたしの横では、クレアがあちゃ〜っといった感じで額に手をやる。
「お前たち、なに奴だ!!不審者か!?それとも、我が主君の選抜に異を唱えに来た野良犬か!?」
男が気づいたことで、貴族の馬車を守っていた衛兵たちがわたしたちに詰め寄ってきた。
「いや、私たちはただ通りがかっただけですよぉ〜。」
「嘘をつけ!!こんなところに偶然でとでもいう気か!」
クレアが苦し紛れの弁明。
だが、衛兵たちが信じる由もなく。
おっしゃる通りです……と思いつつ、この場をどう切り抜けようかと頭を回す。
『逃げるが吉と思われます。』
ガイドさんもそう言っているし、ここは逃げてしまったほうが……
しかし、そう考えた瞬間、最初に声をかけてきた男が、わたしの目の前に立った。
「ほう……その剣、面白いねぇ。それに嬢ちゃん、なかなか強そうだな。」
わたしは唖然とした。
男が詰め寄ってきたことに気づけなかったからだ。
「そっちの赤毛の嬢ちゃんも強……ん?あんた……赤毛とその剣……もしかして……」
わたしを見ていた男は、今度はクレアを見る。
だが、何かに気づいたように目を見開いた。
「あんた、紅蓮だな!?Aランクの……!」
男は嬉しそうに笑うと、馬車に振り返って大声で叫ぶ。
「マージパル!!この2人、大会に出させてもいいかぁ!?」
大笑いしながら理解できないことを叫ぶ男。
だが、馬車の窓が開き、精悍な顔つきの男が顔を出すと、わたしたちの目の前に立つ男に迅速果断に一言返した。
「お前が見初めたのなら構わん!」
「さっすが、マージパル!!良かったなぁ!嬢ちゃんたち!!」
彼らのやり取りも、男が良かったなと笑う意味も、わたしには全くわからない。
だが、男は懐から取り出した申込用紙のようなものに、筆で何かを書き記し、わたしに手渡してきた。
「エントリー済みの申込書だ!俺が書いておいた!あとはサインするだけだからな!」
そこでやっと男の意図を理解する。
「ま……待って……わたしたちは大会に出るつもりなんて……」
「ガハハハハ!い〜や!あんたらは出るさ!俺が見込んだ奴は全員出場する!これは決まっていることさ!!」
その瞬間、男が強烈な殺気を放った。
普通なら、気を失って倒れるような全身を突き刺す殺気。
しかも、それはわたしとクレアにだけ向けられている。
「ぐ…………」
何とかその殺気に耐える。
こんな訳もわからない奴に負けたくない。
そんな気持ちから必死に耐え続けていると、横にいたクレアが口を開いた。
「……出るよ。」
「お?そうだろうそうだろう!!さすがは紅蓮だぜ!!」
「ちょ……クレ……ア……?」
大笑いしている男を無視して、クレアを見た。
彼女の顔には、どこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
ただならぬ殺気を向けてきた謎の男。
彼はいったい誰なのか?
それはおいおい分かります!←当たり前!
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




