116 ダンジョン前の攻防
パルトたちが頑張っていたその裏では、アノーリオンたちもダンジョンから湧き出る魔物たちと戦っていました。
そんな彼らの頑張りも記しておきます!
「まだまだ溢れてきますよ!皆さん、踏ん張りどころです!!」
ゼルケイの街の冒険者ギルドマスターであるアノーリオンがそう叫ぶと、周りの冒険他者たちは皆それぞれが自分を鼓舞するように声を上げた。
パルトたちがダンジョンの中へ向かって数刻ほど経つと、撃ち漏らした魔物たちが入口から顔を出し始めた。
初めは数匹のゴブリンがちょろちょろと飛び出す程度で、大した脅威ではなかったが、ある時を境に入口からは大量の魔物たちが溢れ出してきた。
それもゴブリンだけではなく、オークやオーガなど凶悪な魔物たちまでだ。
その多種多様さには、さすがのアノーリオンも辟易したが、迷っている暇はなかった。
すぐに敷いていた布陣を動かすべく指示を出し、迎撃を始めると、ダンジョンの入口前はそこから総力戦へと移行していった。
しかし、現在まで冒険者側の被害はかなり抑えられている。
と言うのも、アノーリオンは統御と指揮においては、類い稀なる能力の持ち主であった。
アノーリオンはエルフでありながら、閉鎖的な考えは持ち合わせていない。
コミュニケーション能力に長けており、人の心を掴むことを得意とする彼は、"森の隠遁者"と呼ばれるような一般的なエルフとは別である。
その振る舞いは、彼をギルドマスターへと成り上がらせただけではなく、多くの冒険者たちから信頼され、好かれ、尊敬されるほどになった。
だからこそ、冒険者たちは彼の指示に従って、ここまで魔物たちとの戦いを繰り広げている。
彼の言葉を信頼し、戦いに身を投じているわけだ。
だが、冒険者とはいえ、人であることに変わりはなく、体力的、精神的なスタミナには限界があった。
(まずいですね……このままでは押し切られる……)
ダンジョンの入口からは、いまだに止めどなく魔物たちが押し寄せている。
その勢いは止まることを知らない濁流のようだ。
冒険者たちは何とか堪えてくれているが、皆の顔には疲労が浮かんでいることにアノーリオンも気づいていた。
だが、だからと言って自分たちが取れる策は他にない。
クレアやパルトたちがダンジョン奥の原因を排除してくれるまで、ここで魔物たちの進行を封じ込めること。
それがアノーリオン率いる冒険者たちのここでの使命なのだ。
「ギルマス!!西側が劣勢です!オーガ数体が……」
おそらく西側で戦っていた冒険者だろう。
近くまで駆けてきた彼は、アノーリオンへ伝言を告げた。
「わかりました!そちらへは私の分身を送ります!」
アノーリオンはそう言うと、すぐに自分の分身を目の前に創り出した。
【樹木分身】。
土の中に埋まっている植物たちの因子に、大気中に含まれる魔素と自身の魔力を流し込むことで、自身の分身を創り出すスキルだ。
水術と土術の合成スキルである木術は、エルフが最も得意としているスキルであり、この【樹木分身】もそのひとつ。
このスキルで創り出された分身体は、本体とまではいかないがそれなりの強さを持つ。
本体が操作する必要もなく、自動で動いてくれるので、アノーリオン自身も効率的に動くことができる。
「東側にも同じように戦力を送りましょう。私自身の力が落ちますが……それは何とかなる……。」
アノーリオンはそう言うと、もう一体の分身を創り出し、東側のサポートへいくように命令を下した。
西側と東側へ走り出す分身体の背を見て、アノーリオンは自らも弓を取った。
矢は持ち得ていない。
だが、アノーリオンはそのまま大きく弦を引き、魔力を込めた。
両手から緑色に具現化した魔力が弓に流れ込んでいく。
すると、何もなかったはずのアノーリオンの指先に矢が具現化された。
翠色の鋭い矢が、どんどんとその大きさを増していく。
「シャイン・レイン(木漏れ日の雨)!!!」
そう叫び、彼は天に向けて矢を穿つ。
すると、天高く走った一本の矢が空中で無数の光の礫に散らばって、広範囲を掃射した。
それを受けた魔物たちの多くは、貫かれて絶命していく。
その様子に他の冒険者たちの士気も上がる。
「このまま、入口まで押し込め!!そうすれば、……」
どこかで冒険者がそう叫んだ。
彼の言うとおり、入口まで戦線を押し込めば、溢れ出る魔物たちの数を大幅に減らせるだろう。
ここが正念場。
冒険者たちのそう誰もが確信し、行動に移していく。
「気合いを入れろぉぉぉ!!」
「負けんな、てめぇらぁぁぁ!!」
「ここで踏ん張らんでどうすんだぁぁぁ!!」
ところどころで冒険者たちの声が上がる。
それに比例して、戦線がゆっくりと押し上がっていく。
中央、西側、東側それぞれで冒険者たちの奮闘する姿が目に映り、アノーリオンも自身の士気が高まるのを感じた。
「皆さん!!行きますよ!!!」
だが、そう叫んだアノーリオンが再び弓を構えたその時だった。
「ゴァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
大気を震わすほどの咆哮が、ダンジョンの入口から轟いた。
その咆哮に冒険者たちの動きが止まる。
それほどまでに脅威的な震動。
彼らの視線の先に映るのは、ダンジョンの入口から姿を現した巨大な魔物の姿であった。
「な……なんと……テンペストオーガ……ですか。」
さすがのアノーリオンの顔にも、暗雲が立ち込めた。
テンペストオーガは、オーガの変異種と聞く。
その強さはA〜Sランクに位置し、並の冒険者が集まっても太刀打ちできない強さだとか……。
アノーリオンも目にするのは初めてであった。
(これは……まずいですね……。冒険者たちの士気が……!)
周りを見れば、彼らの顔にも同じように不安が浮かんでいる。
アノーリオンでさえ見たことがない魔物だ。
彼らが不安に感じるのも無理はない。
だが、だからと言って諦めるにはいかない。
アノーリオンにはこの街を守ると言う義務があるのだから。
彼は咄嗟に駆け出した。
分身スキルを解き、その力を自分へと戻し、弓を構えて高く跳躍した。
「天風の鏑矢!!!」
魔力を目一杯に込めた光の矢。
それは軌道修正をしながら、相手の急所を撃ち抜く必中の矢。
力強く引いた弦をさらに強く引き、テンペストオーガに向けてそれを鋭く穿つ。
だが……その矢は簡単にテンペストオーガに受け止められてしまった。
「な……!!」
驚きを隠せないアノーリオンに対し、それを小馬鹿にしたように笑うテンペストオーガ。
握る光の矢を砕き、高らかに咆哮を上げた。
それはまるで、冒険者たちに向けてお前たちはこれで最後だとでも言わんばかりの雄叫び。
それには冒険者たちも士気を削られ、逆に魔物たちは士気を高めるように嫌らしく笑った。
だが、その絶望は一瞬で終わることになった。
ダンジョンの入口の奥から赤い光が差したかと思えば、巨大な炎の刃がテンペストオーガごと薙ぎ払ったのだ。
大きな爆音と共に自分の体が焼き斬られ、そのまま灰燼と化すテンペストオーガと魔物たち。
そして、その奥から現れたのは……
「まじでゴキブリみたいにうじゃうじゃいるね……!」
Aランク冒険者のクレア=デストロイの姿であった。
やっぱりクレアは頼りになります。
アノーリオンが戦うシーンももっと書きたかったんですが、今回はこれくらいにしました。
どこかで活躍させたい!!
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




