115 帰ろう
サヌラを倒したパルト。
強敵との戦いを終え、パルトは何を思うのでしょうか。
「終わった……。」
倒れているサヌラを見て、わたしは小さく溢した。
彼女はいつのまにか異形の姿から人間に戻っており、チラチラと舞う白い氷の結晶の中で息絶えている彼女の顔には、なぜか笑顔が浮かんでいる。
『お疲れ様でした。』
ガイドさんがわたしに労いの言葉を送る。
その言葉に対して、わたしは静かに相槌を打つが、胸の中ではある懸念が巡り続けていた。
まず、サヌラが使っていた黒い力についてだ。
あれはわたしのスキル【神気(黒)】とかなり酷似していた。
でも、だからと言って、同じものかどうかはわからない。
今の時点では、似ていたとしか言いようがない。
要するに、わたし自身がこの力を理解できていないこと自体が、まず持って問題なのである。
『残念ながら、解析には至っておりません。』
わたしの思いに反応して、そう告げるガイドさんはどこか悔しそうだ。
たぶん、ガイドさんの中で、そういうことは自分の仕事だと自負している証拠なんだろうと思う。
楽観的に考えるならば、ガイドさんでもわからない力だし、わたしが理解できるはずがないと思えばいい。
だが、それだけで今回のことを終わらせるにはいかない。
今回はいろいろなことが起き過ぎている。
サヌラが使った力。
それと似たものが、あの竜種にも発現していた。
もちろん、それ自体もサヌラと同じなのか……わたしの【神気(黒)】と同じかはわからない。
でも、その力に飲み込まれたサヌラも竜種も、異形と化してしまっていることは類似している。
まるで、元々は持ち得ない力を、無理やり体に流し込んだ代償であるかのようにだ。
そう考えると、自分も同じようになるのではないかと考えてしまい、背筋に寒気を感じた。
懸念は他にもある。
サヌラがエルバたちと同じように宝玉を探していたことだ。
エルバが持ち去ったものと酷似したこの宝玉は、いったい何のために存在しているのだろうか。
懐の中にある宝玉を取り出して中を覗くと、黒い何かが小さく揺らいでいる。
だが、これについても今だに何もわかっていない。
これら懸念をぐるぐると頭の中で巡らせていくと、頭の悪いわたしでもある結論に至る。
詰まるところ、わたしの周りで何かよからぬことが起きているのではないか。
必ず最後には、そんな考えに頭たどり着いてしまうのだ。
『宝玉については、これから解析を始めます。』
ガイドさんは意気込んだ様子だ。
その言葉を聞くと、わたしは少しだけ落ち着けた。
ガイドさんのスキルは分析や解析に特化しているし、現物が手元にあるのだから、何かしらはわかるはず。
そんな希望が胸に湧く。
だが、そんな希望を踏み潰すように、後から頭に思い浮かんだのは、あのクソ野郎の笑顔だった。
ミッドウェル……。
わたしの大切なものを奪ったクソ野郎……。
気づけば、自分の拳を強く握り締めていた。
師匠に会えたことで、怒りの感情が再び大きくなった。
あいつだけは絶対に許さない。
わたしから全て奪ったクソ野郎を、絶対にこの手で殺してやる……。
ドス黒い感情が、心の奥底から湧き上がってくる。
だが、そんな感情を抑え込んだのは、姉弟子の優しい言葉。
「パルトぉ〜!!」
「ふぎゃ!!」
突然、真横から抱きつかれ、そのまま地面に2人でダイブ。
わたしの口からは意味不明な声が飛び出した。
「怪我ない!?大丈夫!?」
わたしの上に馬乗りになり、ペタペタと身体中を触ってくるクレアに反抗しようと試みるが、彼女はやはり強い。
どう足掻いてもびくともしない。
「ク……クレア……大丈夫だって!」
「本当に本当に!?」
「う……うん……だから離して……」
そこまで伝えると、クレアは大きなため息をつき、そのまま話し始める。
「はぁ……安心した。しっかし、パルト強かったねぇ!戦う姿見てたら、嫉妬しちゃったよ!」
「嫉妬……?クレアが……?」
何を馬鹿なことを言ってるのか。
わたしの方がクレアの強さに嫉妬しているというのに。
そんなわたしの思いとは裏腹に、クレアは口を膨らませる。
「嫉妬するし!あんな凄い力を見せられたらさ!」
クレアが言っているのは、銀色のオーラの話だろうか。
不安や懸念ばかり考えていたから忘れていたけど、確かに凄い力ではある。
ただ、また使えるかと言われると、何とも言えないけれど。
『スキルが少し変化しています。【神気(黒)】に加えて、【神気(光)】が追加されています。』
それを聞いて、わたしはどう反応するべきか迷ってしまう。
スキルが増えたことは嬉しいが、そもそもどんな力なのかわかっていないのだ。
使い方すらわからないものを、単に喜ぶことはできやしない。
だが、クレアにそんなことは関係ない。
「あの銀色の力!あの時のパルトは、私よりも強いだろうね!Aランクの力は簡単に超えてたと思う!」
嫉妬したと言うくせに、目には好奇心が浮かんでいる。
キラキラと瞳を輝かせながら、わたしの顔をこれでもかと覗き込む姿は、まるで子供そのものだった。
「そ……そうかな……あの時は必死だったから……。」
「どんな感じだったの!?」
「いや……あんまり覚えてなくて……」
「そっかぁ……」
クレアは残念そうに眉を下げた。
本当に子供っぽい部分が多い姉弟子だ。
わたしはそう考えながら、大事なことをクレアに伝える。
「クレア……そろそろ……帰ろう。」
「え?何で……?」
「だって……ガザルが……」
わたしが指を差した方には、青白い顔で寝ているガザルの姿がある。
それを見て、クレアは「そうだった。そうだった。」とため息をつき、すぐに彼の下へと向かうと、ヒョイっと肩に担ぎ上げた。
「とりあえず、帰ろうか!」
優しくて無邪気さが残る笑顔。
わたしはそれを見て、こくりと頷いた。
僕自身もガザルのことを忘れかけてました笑
危うい危うい…笑
とりあえずゼルケイの街に帰ってひと段落です!
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




