104 理性
火曜日はお休みしてしまい、すみませんでした。
104話更新です!
サヌラとの戦いの最中、パルトに異変が…
サヌラに押し返されたクレアは、すぐにパルトの加勢に向かおうとしていた。
だが、やはりと言うべきか、竜種がそれをさせなかった。
先ほどの【ブレイズインパクト(炎斬波)】の一撃によるダメージはあるようだが、それは決定打にはなっていない。
もちろん、それはクレアも理解して撃ち込んだ訳ではあるが……。
(こいつを倒さないと、パルトのところには行けないか……)
少しだけ呻き声を上げながらも、クレアの前に重く立ち塞がっている竜種を見て、クレアはすぐにそう判断すると、ガザルに指示を出す。
「ガザルはパルトの援護に!!」
「お……おう!」
クレアの言葉に少し戸惑うも、ガザルもこの場の状況と最適解をすぐに理解したようだ。
指示どおりにパルトの下へと向かった背中を確認し、クレアは再び竜種を睨んだ。
「なかなか出会えない強者……!ワクワクするけど、今回は時間はかけてられないね!」
稀に見る出会いに目を輝かせつつも、クレアは短期決戦を選択し、自身の魔力を解放した。
それに対して、竜種も大きく咆哮を上げる。
まるで「相手になろう。」と言わんばかりの強烈な咆哮に、クレアはニヤリと笑った。
・
わたしはサヌラの攻撃を捌くことに、非常に苦慮していた。
サヌラの体は一言で例えるなら異形。
奴自身の手足の他に、黒いオーラで形成された触手のような6本の刃が背中から数本ほど生えていて、それが攻撃と同時に仕掛けてくる。
もちろん、奴自身の手に握られた刃……これも黒いオーラで形成したものだろうが、それによる攻撃も同時に襲ってくる。
合計8本からくる攻撃。
剣で受ければ確実に受け切れず、串刺しか斬り刻まれてしまう未来しか見えないわたしの選択は、回避一択だった。
縦横斜め、縦横無尽に放たれる数々の斬撃。
それらを何とか紙一重でかわしているが、手数が多い攻撃の厄介さを思い知らされる。
避けることは何とかできても、攻撃に転じることができない。
そんなもどかしさが胸を満たしていった。
だが、そこに思いがけない助けが入る。
突然、サヌラの横から飛んできたのは、2本の投げナイフ。
死角からの攻撃を見ることなく背中の刃で弾くサヌラだが、意識の外側からの攻撃に対し、サヌラ自身の思考が一旦止まった。
それを好機と捉えたわたしは、投げナイフの出所を確認することなくサヌラに斬りかかる。
「ちぃぃっ……!」
サヌラが気を取られた一瞬は、高速で移動するわたしには十分な時間。
とはいえ、サヌラの動きも俊敏だ。
わたしの殺気を感じ取り、すぐさま後方へと退避する彼女の胸部を、わたけしの剣が薄皮一枚で斬りつけた。
「パルト……加勢するぜ。」
投げナイフを投げた張本人がすぐにわかった。
わたしの横に素早く移動し、ガザルは背負った双剣を抜いてサヌラを睨らんでいる。
彼の言葉に無言で頷き、わたしもサヌラに剣を構えた。
「不意打ち……なかなか卑怯で魅惑的ですねぇ。」
赤と黒の双眸をこちらに向け、ニンマリと笑うサヌラ。
それにゾクリと身を捩るガザル。
「あの女、なんでぇ……気色が悪いぜ。」
「何かの力を使ったみたい……初めは普通の女の人だった……」
「あの黒いモヤのことか。しかし、もはや人じゃねぇな……。」
ガザルの意見に、わたしも賛同する。
サヌラの姿は、まるで蜘蛛だ。
背中から生える刃の触手が6本で、手に携えた剣が2本。
合計8本の長い手足と刃が蜘蛛の魔物を彷彿とさせた。
「まるでアラクネだな。ありゃ……」
「アラクネ……?」
「なんだ?知らんか?神話に出てくる蜘蛛女の魔物の話だ……。」
わたしは首を傾げた。
父からはいろんな話を聞いたことがあるが、その話は記憶にない。
そんなわたしの雰囲気を察したのか、視線はサヌラに向けたまま、ガザルは少しだけ説明を付け加えた。
「神がこの地に行き、人を作り出した頃の話だな。女の姿をした蜘蛛の魔物がどこからともなく現れて、人を食うっていう……まぁ、在り来たりな物語だ。王国の方では有名な話だぜ。」
そんな話があったとは知らなかった。
わたしは帝国領で生まれ育ったので、王国のことは正直よくわからない。
だが、王国でもそういう神話の類があることを知れて、少し妙な感覚になったのも確かだ。
その原因は、おそらく王国生まれの兎人族……ラビテリアのエルバ。
王国と聞いてすぐにその顔が浮かんだ。
彼女は今、何をしているのだろうか……アラクネなんかの事よりも、そんな考えが頭をよぎる。
だが、その思考はすぐにサヌラによって止められた。
「あははは!何に気を取られているんですか!目の前の私から目を背けてはダメですよぉ!」
目の前まで距離を詰められていたことに気づき、すぐさま回避。
わたしがいた場所が、サヌラの触手で大きく抉られた。
横にいたガザルは、すぐにサヌラへ双剣を向ける。
サヌラは2本の刃でそれを受け止め、残りのうちの2本の刃を彼へと向け返す。
自分に向けられた2本の凶刃を軽々とかわして距離を取るガザル。
そんな彼とスイッチし、動きが止まったサヌラに今度はわたしが斬りかかった。
真っ向斬り、逆袈裟斬り、横一文字斬り。
素早く打てる剣技を選択して組み立て、高速で繰り返し斬りつけるも、残りの4本がわたしの剣の行く手を阻んでいる。
「速い……!速い攻撃……!でも、今なら見えますよぉ!」
反対では、ガザルも同じように攻撃を仕掛けており、挟撃する形でサヌラに剣撃を打ち込んでいく。
だが、両サイドから放たれる連撃を、サヌラは8本の触手を器用に駆使して捌いていく。
攻撃が通らない……!
そんな感情がわたしに焦りを募らせた。
ズキッ……
途端に襲いかかるは、前頭部への突然の痛み。
それに気を取られたわたしは、すぐにサヌラとの距離を取った。
わたしの異変に気づいたガザルも、攻撃の手を一度止め、反対側で同じように距離を取る。
「おい……!嬢ちゃん!大丈夫か!」
「う……うん。」
押さえている頭の痛みは鋭く、終わることはない。
その原因はわからないが、頭痛とともに胸の奥から焦燥感が湧き上がっていく。
この感情は……なに……!?
自分でもわからない感情の渦が、胸の中でどんどん膨らんでいく。
そしてそれが、少しずつわたしの理性を鈍らせていく。
頭に浮かんだのはガイドさんの言葉。
『理性は……失わないように……』
そうだ……理性は……
理性は失わないように……しないと……
痛い……頭が……
目が……視界が…………暗い…………
蘇るガイドさんの言葉。
パルトを襲うのは、あの力の奔流なのでしょうか。
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




