102 ダンジョン最下層・激戦⑥
今回は最下層を目指すクレアたちの視点です。
果たして2人は間に合うのでしょうか。
「ガザル……もうすぐ着く!」
前を走るクレアが唐突に告げたが、ガザルにはその理由がわかっていた。
先ほどから伝わってくる振動……それに爆発音。
確実に誰かが戦っている……。
ガザルにもそれはわかっていた。
「かなり激しくやってんな……。」
伝わってくる音と振動から、戦いの激しさが感じられる。
おそらくは、相当な数の魔物と戦っているのではないだろうか。
数匹程度であれば、ここまで激しくはならないだろう。
ガザルはそう考えたが、クレアはそんなガザルの考えを否定する。
「でっかい何かと戦ってるっぽいね。」
頭の中を覗かれた気がして少し驚いたが、クレアの分析を聞いてさらに驚く。
「足音は2種類……ひとつはかなり重量があるけど、もうひとつは軽い……たぶんこっちはパルトだね。あと、でっかいのは何かのスキルを撃ちまっくてる感じかな。攻撃の間隔が似てるし、爆発音はそれが壁に当たった音……」
最下層まではまだ少し距離があるのに……。
ガザルはぶつぶつと呟くクレアを見て、開いた口が塞がらなかった。
(Aランクってのは……やっぱりすげぇな……。)
もちろん、目指すことを辞めやしない。
絶対にAランク冒険者になってやるという気概は、決して消えることはない。
だが、格の違いというものは突きつけられていた。
だが、それとは別にもうひとつだけ。
もうひとつだけ、ガザルには驚いていることがある。
それはパルトが生きていて、最下層で戦っているという事実だった。
もちろん、彼女が死んだとは思っていなかった。
もっと言えば、最下層へ飛ばされてはいないと考えていた。
あのトラップは侵入者を排除するためのもので、飛ばされたのはダンジョンの外である。
なぜなら、このスタンピードが仕組まれたものならば、黒幕はダンジョンへの侵入と元凶の撃破を良しとはしない。
だから、潜り込んだ者を外に排除するために、あの魔方陣を仕掛けた。
そう考えていたし、だからこそ冷静になってクレアを説得できたのだ。
だが、その推測はここに来て外れたと理解した。
クレアの言うとおり、おそらくこの先にはパルトが居て、何かと戦っている。
このモンスタースタンピードの元凶である何か……と。
ガザルもクレアも、その答えにまもなく辿り着こうとしていた。
あと数百メートルで、パルトの下へと辿り着く。
「見えた!!」
クレアが叫んだ先に、明るく差し込む光のトンネルが見えた。
スピードを上げたクレアを追うように、ガザルも両脚に力を込める。
そして、2人は最下層のフロアへと飛び出した。
・
飛び出したクレアの目に、始めに映ったのは巨大な黒い影だった。
よく見れば、それは竜のような形をしており、大きく翼を広げている。
「竜種……!?」
クレアは一目見て、その魔物が竜種であると判断した。
そして、そいつが黒竜であることも。
だが、ひとつだけ違和感を覚えたことも確かだ。
「黒い……あれは皮膚じゃない?」
体の表面には、竜種独特の硬い鱗が見えない。
その代わり、黒いモヤのようなものが這い回っている様子が窺える。
「ありゃ……本当に竜種かい!?」
どうやら、ガザルも同じことを感じているようだ。
彼の言葉を聞き、自分が感じている違和感の正当性をクレアは再確認した。
そんな黒い竜種が、口から突然何かを放った。
口元に収束させた黒い粒子が、一直線に何かに向かって駆け抜ける。
だが、それは何かに当たった様子もなく、その先の壁を抉り、粉塵を巻き上げた。
その一連の動きの中で、クレアはすぐにパルトの姿を視認していた。
黒い竜種に向かって突進しつつ、放たれる黒い砲撃を華麗にかわしていくその姿は、まるで昔聞かされた英雄の様。
しかし、そこに1つの懸念が生まれた。
(何……あの黒いモヤ……)
黒い竜種が纏うものと酷似したそれは、彼女の体の周りから湯気の様に漏れ出ている。
初めて見るパルトの異様な姿に、クレアは大きな不安に駆られた。
瞬時にスピードを上げ、パルトの下へと急ぐ。
その行動に驚いたガザルの言葉を置き去りにして。
パルトはその間にも、華麗に黒い砲撃を避けていく。
種族の名に相応しくウサギのように飛び跳ね、一心不乱に突き進んでいく。
その姿に見惚れてしまいそうになりつつも、クレアは胸の奥に燻る不安と焦りの原因を測りかねていた。
すべての砲撃をかわし切り、パルトが竜種の懐に飛び込んだ。
握る剣を左手で引いて構えたまま、後方に構築された空気の足場にパルトが身を縮める様子が窺える。
一瞬、何をするのかと疑問が浮かぶが、その答えはすぐにわかった。
スキルを纏った強烈な刺突。
兎人族の脚力を最大限に活かした鋭い一閃が、竜種に向かって放たれたのだ。
常人には目に見えはしないであろう、まさに光速の一閃。
それが魔物まで走り抜け、心臓に向けて貫かれた。
見ていたクレアの心は歓喜に満ち溢れていたが、同時に先ほど感じた不安と焦りが大きくなったことを認識する。
パルトの成長を喜びつつも、あの黒いモヤのことが胸につっかえているのだ。
何とも言えない気持ち悪い感情が、クレアをパルトの下へと一層走らせた。
(あのままにしておいちゃ……ダメな気がする!)
まさにそんな考えが頭をよぎった瞬間だった。
胸を貫かれてなお、動く竜種。
その異様な光景に、走りながらもクレアはいち早く気づいていた。
目の前のパルトは、竜種を倒したと思い込んでいる様でまるで気づいていない。
そんなパルトを見下ろす竜種が、口元に再び黒い粒子を集め始めた。
(まずい……!!パルト……気づいて……!!)
パルトのところまでの距離は、あと100mほど。
このままでは間に合わないと考えたクレアは、自身の剣に炎を纏わせる。
パルトを巻き込んでしまうかもしれないが、何かしなければパルトは確実に死ぬ。
瞬時にそう判断したクレアは、反射的に叫んでいた。
「ブレイズインパクト(炎斬波)!!!」
渾身の炎の斬撃が竜種へと駆け抜け、大きく弾けた。
パルトの成長は嬉しくもありますが、やはりパルトの黒い力はクレアにも異様に映る様です。
クレアはパルトを助けられるのか。
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




