101 ダンジョン最下層・激戦⑤
黒い竜種との対峙。
パルトは勝てるのか。
翼を広げ、大きく咆哮を上げる竜種。
その姿は、まさに黒い竜そのものであった。
その姿を見て、自然と剣の柄を握る手に力が入る。
ーーーそれは死にませんよ。
サヌラが言った言葉が頭の中をぐるぐると巡り、わたしは目の前の竜種とどう戦うべきかを考えていた。
もちろん、あの竜種に勝てないとは思っていない。
その自信は黒い力を顕現しているせいかもしれない。
しかしながら、奴を倒せるイメージが湧かないのもまた事実。
細切れに斬り刻むか……?
それとも、一撃で消し飛ばす……?
色々と考えてみたが、浮かんでくるのは今のわたしが実現するのは難しいと判断せざるを得ない方法ばかりだった。
なら、心臓を一突きにしてやればどうだろうか……。
死なない原理はわからない。
だが、さすがに心臓を砕かれては、竜種と言えども生きてはいられないはずである。
その方法なら、今のわたしにでも出来るはずだ。
1人でそう結論づけたわたしは、一気に魔力を解放させた。
それに呼応して、黒い竜種も再び大きく咆哮を上げる。
わたしと黒い竜種の第2ラウンドが今始まった。
黒い竜種……もう面倒くさいので黒竜と呼ぶことにするが、奴は大きく開けた口の前に黒い粒子を収束させた。
黒竜砲……勝手にそう名付けたその攻撃に対して、わたしは風術スキルの準備を行い、走り出した。
自分に向かって走ってくるわたしを見て、黒竜はすぐに黒竜砲を放った。
黒い粒子の塊がビームのように駆け抜けると、地面は抉れ、黒く焦げていく。
それを見るだけで、黒竜砲の威力が理解できるほど。
目の前に空歩による足場を構築。
それを強く踏み込んで高く跳躍すれば、黒竜砲はわたしの下をものすごいスピードで駆け抜けていった。
だが、黒竜の砲撃はそれだけでは終わらない。
すぐさま次の砲撃をわたしに向ける。
それを予測していたわたしは、再び空歩によって体の進行方向を変える。
その直後に、構築した足場を巻き込んで黒竜砲が通り過ぎて行った。
連続で撃てるのか……。
驚きもあるが、わたしは冷静だ。
再び口元に黒い粒子を収束させる竜種を見て、心臓の位置を見定めながら、わたしは奴への突進を止めない。
黒竜砲が再び放たれる。
空歩によって跳躍し、それをかわす。
その動きを予測して、黒竜が砲撃を何度も撃ち込んでくるが、わたしは左右上下への方向転換を繰り返し、アクロバティックに黒竜砲を何度もかわしていく。
その度に地面は抉れ、後方の壁が打ち砕かれ、焦げた臭いが鼻をついた。
奴との距離はほとんどなくなり、数十メートルの位置まで近づいた。
生き物における心臓の位置は、大抵胸の辺りだ。
それにあれだけ体が大きければ、心臓の大きさもかなりのものだろう。
ならば、わたしが狙うのはあの辺りか……。
奴の心臓の位置を粗方想像し、放たれる黒竜砲を難なくかわすと、わたしは握っていた剣に魔力を込めた。
風属性で切れ味を想像する。
氷属性で鋭さを想像する。
水属性でしなやかさを想像する。
そんな強いイメージを剣と魔力に込めて、想像するスキルを放とうと考え、柄を握る手に力を込めた。
だが、黒竜の方も当たらない砲撃から学んでいたらしい。
いつものように収束させた黒い粒子を勢いよく放つが、それらはわたしに向かって突然拡散した。
幾重にも広がる小型の砲撃が、わたしへと襲いかかる。
ちっ……!
この至近距離だと……避けるのがやっとか……!
わたしは空歩による方向転換と、駿歩と駿影を駆使した回避術を披露することで、それらをなんとか避けていく。
黒竜はこれを好機と見たようだ。
今度は腕を振るい鋭い爪から風の刃を放った。
黒い砲撃に加えて、緑の斬撃がさらにわたしに襲いかかるが、わたしは冷静だった。
一歩間違えれば、焼け焦げるか首が胴体とさようならしそうなこの状況。
わたしは、どこかでそれを楽しんでいたのかもしれない。
わたしを近づけまいとする黒竜は、黒と緑の連続砲火を向けてくるが、それらの動きはあまりにも遅く感じられた。
そして、わたしが攻撃を叩き込む番が来る。
先ほどから練り上げていた風、氷、水の属性魔力たち。
本来なら、風と水は氷を成すために使われているので並行使用はできないはず。
なのに、今はなぜかできていることについて、特に疑問は湧かなかった。
さらには【思考加速】までも使用して、黒竜の動きを検知できている。
これも本来のわたしにはまだ扱えない技術。
このおかげで、黒竜の立錐の隙間もない波状攻撃を難なくかわすことができているわけだが、それらを可能としているのはこの黒い力の奔流。
わたしはそれを本能的に理解していた。
空歩によって後方に足場を築き、それを踏み込んだ。
バネを縮めるように膝を曲げ、駿歩による両脚の強化を行う。
そして、弾けたバネのように黒竜に向かって飛び抜いた。
同時に、練り上げた力を解放するようにスキルを放つ。
「フロストファングスラッシュ(凍牙嵐斬)!!!」
氷術によって鋭く変化した剣の切先を、黒竜の心臓目掛けて刺突する。
風術によって斬れ味が増した剣は硬い鱗を難なく切り裂き、鋭い剣筋が奴の胸へと滑り込んだ。
これで終わりだ……死ね!!
頭で考えていたことが、言葉として漏れ出ていたことに、わたしは気づかなかったが、渾身の一撃はわたしの心を鼓舞させたことは間違いない。
めり込んでいく自分の剣を見て、高揚感が溢れていく。
勝利への渇望、サヌラへの怒り、弱い自分に対する否定感。
それらが混じり合って、よくわからない感情のまま、右手で握る剣を刺し抜いた。
だが、肝心の奴の断末魔が聞こえないのはなぜ……?
心臓を刺したのだから、なぜ叫び声が聞こえない……?
これだけ力を込めて刺したのに、なぜ倒れる素ぶりを見せないの……?
小さな疑問が大きな不安に変わっていく。
そうして、見上げた先にはわたしを睨みつける双眸が……真っ赤に光る2つの視線がわたしを見ていた。
優勢に見えていた戦いも、雲行きが、、、
クレアたちは間に合うのか!
今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!




