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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第2章「戦禍」
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第22話「撤退」

 血を吸ってきたことから、私は昔の記憶を瞬時に思い出した。研究所にいたころにヤバい囚人がいたこと。そして私たちが勘違いしていた最盛の本当の能力、それは。



「あなたに埋め込まれたのは、コウモリ。能力は敵の血を吸いその人間の先天的な遺伝能力を使える。違うかしら?」



 半信半疑ではあったから、最後に問いかけてしまったが続けて最盛は答える。



「ご名答!さすがにあの施設にいた人間は違うわね。そう、私はピースマークの研究所にいた実験体の1人。その記念すべき最初の実験台よ。まだ当時は細胞を埋め込む技術やノウハウが未完成だったの。そんな私は人間には危険とされているコウモリの細胞を埋め込まれたのよ。」



 人間とコウモリの遺伝子では配列順などが違う。無理やりに埋め込もうとすると体が異常反応を起こして時間が経たないうちに死んでしまう。



「私はでも特異体質ってやつでね。実験は成功したのよ。図に乗った職員たちは、さらに私に違う細胞を埋め込んできたわ。そっちは発現しなかったけど。その時私は解放された気分になったわ。だって私は選ばれたんだから、この細胞に!」



 最初の被験体は私たちの頃と比べ物にならないくらいの実験をされたと聞いた。精神が崩壊して使い物にならなかったと。まさか今目の前にいる最盛がそうなのなら、今の私たちでは太刀打ちできない。そうだ!2人も危ない!



「2人とも早く逃げ...!」



 ビュン!



 最盛は一瞬で私の腹に蹴りを入れてきた。回避しようとするも相手の方が早かった。


 ズドッ!鈍い音が重く響く。


「ゴホ!」



 口の中から血の味が滲み出る。息ができない。的確に私の急所を狙ってきた。意識を保ちながら私は蹴ってきた足を持つが、もう片方の足を飛び蹴りし私の顔に直撃した。


 一瞬のことだ。交わそうと体を後ろに下げようとするもこれも相手の方が速い。



「ブッ!」



 私は蹴りの威力に負けて手を離してしまった。これが4割を解放している最盛の実力だ。だがまだこんなものは序の口にすぎない。



「あらあら、もう終わりなの?呆れちゃうんだけど。」



 クソ!こんなにあっさり私の能力をコピーできるなんて!足をタンタンと跳ねながらからかってくる。怒りが頭を支配しそうになるが、私は頭を振り少し落ち着かせていく。



「はぁはぁ!」



 血を口から流しながら私は立ち上がる。息が乱れて呼吸が掠れる。2人を逃すための時間を作らなきゃと思い、私は刀を手に持つ。そして最盛の上空に飛ぶ。久しぶりにあの技を使う時だ。



「開放、3割!」



 刀がギシギシと音を立て始めた。刀が刃こぼれをし始めた。長いこと使っているため耐久性はもうあまりない。だがここで食い止めなければ2人も狙われる。そう思った私は今の渾身の一撃を食らわせようとする。



「くらえ、『涙葬送なだそうそう!」



 渾身の刀の一撃は地面を斬る。そして私の刀から放たれる熱気や血の急激な蒸発で辺りを赤く照らす。


 夜の月明かりに照らされて鮮やかな赤色に。一枚一枚花びらを描いていく。その花は生きている人間が死んだ人間に送る『彼岸花』のように。血の涙を流しながら。


 そして地面の瓦礫が宙に舞い、叩きつけられていった。


       ーーーーーー


「やったか!」


「さすが先輩!」



 あまりの光景に2人は勝ちをつかんだと喜んでいた。この技を使った反動が今にきた。右腕の内側から何かが飛び出してきそうにズキズキと痛む。腕を抑えながら私は2人の元に行く。



「はぁはぁはぁ...。なんとか無事みたいね。こうしちゃいられない。早く行くわよ。」


「え、なんでですか?確認しないんですか?」



 すみれはきょとんとした顔で聞いてきた。



「この技でもあいつはまだ死んでない。あくまでも逃げる時間稼ぎをした程度よ。さぁ、早く逃げましょ。ほら周、早く立って!」



 木にもたれかかっている周を無理やり起こした。腕を肩にかけて急いで逃げなくちゃいけない、そう思いながら3人で小山を降りることにする。いつまた襲ってくるかわからない恐怖が私たちを襲う。



「いてて、もう少し優しく引っ張ってくれ。筋肉痛が全身を襲ってんだよ。」


「何今ふざけたこと言ってんだよ。早く逃げないとまたあいつが襲ってくるんでしょ!」



 相変わらずこんなときでも周はふざけるのかと怒りを通り越して呆れてくる。すみれも自分の脇腹を抑えながら必死で走ってるのにそれでも男かと言いたくなる。


 しばらく走り、ようやく小山の入り口を抜けて集落まで戻って来れた。逃げ切ることができたと安堵した次の瞬間。



「あれーどこ行くのお姉ちゃん?」



 集落の井戸の端に最盛が座っていた。私たちを待ってるかのように。あの技ですら今の最盛りにはまるで通用しなかった。



「残念だったわね、あの技は確かに相当の威力を持ってるみたい。でも当たらなきゃ意味ないけどね。」



 手や首の関節を、パキポキと音を鳴らせながらこちらにくる。さすがに私たちも終わりかと半分諦めていた。だがそこへ最盛が持つトランシーバーから連絡が入った。



「最盛、応答しろ。」



 舌打ちをしながら最盛は連絡に出た。



「もー何よ!これからやっと楽しく料理しようと思ったのに!」


「やつの血を吸ったんだろう?計画変更だ、今すぐにチャルヴィッフィ要塞に戻れ。」


「こいつらを食べてからでも遅くないでしょ!」



 だんだんと足を踏みながら苛つきが募るのを目の当たりにしていた。



「ダメだ、次の段階へ移行する。今すぐ戻れ。」


「あーもう!わかったわよ、戻ればいいんでしょ!」



 最盛は怒りを露わにしながら通信ボタンから手を離した。そしてトランシーバーを地面に叩きつけて踏み壊す。



「全く、運がいいわねあんたたち。そういうことだから、今日のところは見逃してあげる。次は必ず食い殺してやる。」



 そうしてるみの体のまま、最盛はコウモリの羽を生やして空を飛ぶ。そしてバサッと音を立ててすごい速さで飛び去って行った。



 間一髪助かった私たちはその場に疲れ果てたように座り込んだ。



「はぁー...。なんとか助かったー...。」



 ため息混じりの声で、すみれはぬぼーっとした顔でほっとしている。私や周も正直体にそれぞれガタが来ている。



「いてて!一体なんなんだあいつは。あんなのがピースマークが研究してたもんなのかよ。」



 周は驚くあまりにジタバタと落ち着きがない。それに関しては私も同意見ではあるけれど。それは私やすみれにも同じことが言えるとも思ってた。



「先輩、彼女も私たちと同じ...。」



 すみれはやはり勘付いていた。いや、すでに知っているような雰囲気を感じる。冷静に探りを入れる。



「そうね。最盛は私たちと同じ実験体、その記念すべき最初の1人よ。」


「やっぱり。あの情報はほんとだったんだ。」



 すみれはやっとボロを出してきた。私はすかさずすみれの頬を手で挟む。



「ふにゅ!先輩一体何を!?」


「すみれ?やっぱりあんた何か隠してるわよね。大丈夫、怒らないから話してみなよ?ほら!」


「ふに、いてぇてぇ、やめてぇよ先輩!」



 指の力を少し込めて少しお仕置きをする。いたずらを制裁するお姉さんのように私は笑って問い詰める。



「待ってぇ!わかった!話す、話すから離してぇー!」



 ようやく話す気になったのか、手を離して事情を聞くことに。



「んで、一体なんなのすみれ。なんで今更私たちと同じ実験体が現れるの?私たちを除いて生き残りはごくわずかなはずよ。そしてあの方って誰なの?」



 すみれはうーんと難しい顔をして少ししてからその訳を話した。



「はぁはぁ。えっと、私も船に乗る前に知ったんです。それでもよければなんですが。」


「いいわ、早く話しなさい。」



 すみれは衝撃的なことを話した。



「この大戦ではピースマークが関わってるんです。そして最盛は、私たち麦国内で大量殺人事件を起こした女なんです。ピースマークは同盟国側で私たちと同じ、細胞を埋め込んだ人間兵器を作り出してるんです。」



 ここにきて私たちが呼ばれた理由がようやくわかった。同じように細胞を埋め込まれた私や、十将だった周でないとその人間兵器を殺せないと。

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