ヴィルノス
家に帰り、またいつも通り準備を済ませログインをする。
目を開けるとそこは 始まりの村 噴水前。
その傍らには パートナーのリリィ そして新しい仲間の[紅眼の大蝙蝠の幼体] 名前は……そうだな、ノービィとかどうかな?
ノービィ(仮)を抱きかかえ噴水の腰掛けへと乗せる。
「名前ノービィとかどうかな?」
腰を落とし、しっかりと目を見て問いかける。
「クゥー」
実際のところ、この言葉が伝わっているのかはわからないが甘い声を出して頰を擦り付けてきたところを見ると嫌がっているようには思えない。
今のところはこれで行くことにした。
今夜はみんなの相棒のお披露目とレベル上げをすることになっているが…ログインしたのがリアルでの18時半、待ち合わせの時間はでの19時。
こちらの時間にすると約6時間ほど余裕があるので少し初陣の草原で文字通りの[紅眼の大蝙蝠の幼体]の初陣。
「シルヴァ様!」
移動の途中でリリィが話しかけてきた。
「どうしたの、リリィ?」
「えっとですね、ノービィは蝙蝠系モンスターなのでスライムに対して有効打を与えれません、ですので森寄りの草原で獣系や虫系を狩るのはどうでしょう?」
「ありがとうリリィ、そうするよ。」
リリィのアドバイスが無ければそのままスライムを狩りに行っていたところだった。
移動の途中で他の称号について効果を確認する。
昏きに潜む吸血の王グリムの友
・蝙蝠系モンスターのスカウト成功率上昇
・蝙蝠系モンスターからの攻撃半減
・自身の蝙蝠系モンスターの成長促進
・蝙蝠系モンスターとの親密度上昇
・暗闇での視界良好
・聴覚覚醒
・ブラッドアーツの使用制限開放
・グリムによる位置情報の捕捉
シルヴァはグリムからの称号効果の確認をする。
が、その内容は色々な意味でぶっ飛んでいるものがあった。
いろいろ盛り沢山だ!!!
でもよくみてみると…………………グリムに位置情報がバレている。ストー…いや、違う!自分が弱いから心配してくれているんだ!そうに違いない。
シルヴァは心の中でそう納得させこれ以上の思考を強制終了させた。
そして無心で歩き続けること約15分
初陣の草原に入り左へずっと行くと見えて来る森と草原の境目くらいに着いた。
実際に見てみるとエリアがここで分かれているということが実感できた。
今まで続いていた草原が急に終わり森ができていた。
モンスターを見つけるために少し周辺を歩いていると森の方から大きな音が聞こえてきた。
ギィィ……ドン
ドン
ギィィ、ドン
その音は不規則に重くなり響いていた。
「リリィ、あの音って何かな?」
「なんでしょう?モンスターの縄張り争いでしょうか?」
ドン、ドン
なんの音かと考えている間にその音はどんどんとシルヴァたちの元へと近づいてきていた。
「シルヴァ様?あの音こちらへ近づいていませんか?」
「やっぱり?リリィもそう思う?」
「クゥー?」
シルヴァたちはいつ襲われてもいいように森側に細心の注意を払う。
すると注意をした束の間、大量のモンスター達がシルヴァ達へと襲いかかってきた。
「シルヴァ様!」
「リリィ!」
互いに敵に向かい構える。
先ずは先頭の狼のようなモンスターへと槍での攻撃を仕掛け用とするが避けられた。
が、間髪入れずにもう一撃!と思ったら敵は自分たちを避けそのまま通り過ぎていった。
「え?」
「はい?」
シルヴァとリリィから気の抜けたような声が漏れる。
だがさすがサポート妖精、直ぐに次の行動へと移る。
「しっかりとしてくださいシルヴァ様!さらに強い敵が来ると予想されます。」
「わかった、リリィ」
リリィはあのモンスター達がさらに強いモンスターから逃げていると予想。シルヴァもその意図を理解したのか直ぐに構え直し迎撃の態勢を取る。
バン!
ギィィ…ドン!!
近づいてくるその音に心臓が高鳴る。
立ち上がる土煙。
その土煙の中薄らと影が見える。
その姿は大きな戦斧を持った二足歩行のモンスターに見える。
「ワーウルフでしょうか?」
リリィがそのシルエットから予想を立てる。
「ワーウルフ?」
「はい、ワーウルフは二足歩行の狼系のモンスターです。ですがそのずば抜けたスピードとパワーで森の木などを利用して敵を追い詰めるはずです。そのままでも攻撃力は十分です。
武器はほとんど持たないはず……特殊個体でしょうか?」
「それって強い?」
「はい、かなり……。」
すると敵がシルヴァ達に気付いたようで向かってくる。
「こっちに来てない?」
「これは……気づかれましたね。何か…。」
槍を持つ手が緊張と恐怖のあまり震えだす。
「これはこれは!シルヴァ様ではありませんか。」
どこかで聞いたような声が聞こえる。これは………ヴィルノスさんの声だ!
「ヴィルノスさん!ワーウルフの特殊個体の様なモンスターに捕捉されてしまいました。救援をお願いしても良いですか?」
「それは大変です!今直ぐそちらに!」
すると大声に反応したのかワーウルフがものすごいスピードでこちらへ向かってきた。
そして完全に土煙の中からそれは姿を現した。
その姿は全身がほとんど黒く厳つい戦斧を持っていた。
「ヴィ、ヴィルノスさん?」
「大丈夫ですか?シルヴァ様。それで、ワーウルフは何処に?」
ヴィルノスのその姿はは黒い執事服姿で厳つい戦斧を持った、まさに先程のワーウルフ。
………そう、ただの勘違いだった。
「シ、シルヴァ様…。」
リリィが恥ずかしそうにしてシルヴァの後ろへと隠れる。
「どうやら逃げてしまった様で………。」
シルヴァもその羞恥には勝てず歯切れが悪くなってしまった。
「いえ、それなら何よりです。」
何も知らないヴィルノスはただ笑顔でそう答えた。
その後は、シルヴァ、リリィ、ヴィルノスでパーティーを組み森の中で狩りをすることになった。
「ところで、ヴィルノスさんはどうして一人で森の中にいたんですか?」
「モンスターの素材をとりに……後々自分の商会を持ちたいと思っていてその為には色々準備が必要ですしね。」
凄いな!今でもあんな立派な紹介の結構な地位に居るのにさらに自分の商会を持ちたいなんて………。
「私からもよろしいですかな?シルヴァ様は何故あんなところに?」
「今日は新しい仲間の成長のためにです!」
そう言ってシルヴァはノービィを抱きかかえて見せる。
「やはり凄いですね、シルヴァ様は。聞いたこともない職業にその新しい仲間、もし私が商会を開くことができたらお得意様になって頂けると幸いです。」
優しい笑顔でヴィルノスは答える。
そんな感じで答えていると前方から熊の様なモンスターが突進してきた。
毛は黒く立てば6メートルはありそうなほどの巨大な熊。
「シルヴァ様!あれは黒熊です。毛は強靭で繰り出される前脚攻撃はかなりの威力です。」
リリィの敵情報はいつもありがたい。
先ずばその突進を受け流し振り返ってきたところで柔らかそうな目や鼻を狙う。
そう思い構えているとヴィルノスさんが前へと出た。
「ちょうどいい獲物ですね。」
ヴィルノスさんは2メートル超えのムキムキマッチョだが流石にあの突進を正面から受けきれそうには見えない。
「ヴィルノス様!早く避けてください!!」
リリィの必死の呼びかけにも答えずにただ立ち尽くしている。
黒熊が一直線にヴィルノスさんへと突進をしてきた。
衝突するっ!と思ったら全身の骨が砕ける様な音を放ち土煙を上げながらその突進は止められた。
「こんなものですか。」
ヴィルノスさんは片手をただ前へと出しているだけ。その衝撃で後ろへと押されていると思ったが元の場所から一切動いてはいない。
そして戦斧を持った腕を振り上げ無慈悲に振り下ろす。
強靭と言われたその毛も、もともとそんな物はなかったの様にその四肢を切り離した。
いつもの優しい笑顔とは打って変わりまるで鬼人の様な顔をしていた。仲間だと分かっていても恐怖心がこみ上げてきて体が動かない。
そうしている間に完全に敵の息の根を止め次にこちらを振り向いたときにはいつもの優しい顔に戻っていた。
「ありがとうございます。ヴィルノスさん。」
「いえ、そちらのノービィさんでしたかな?経験を積ませる前に狩ってしまって申し訳ないです。」
「いえ、今の敵だと少し荷が重すぎましたから全然何も気にしないでください。」
少し荷が重すぎた、それは嘘でシルヴァ達だけでは討伐できたかどうかすらも危ういほどの敵だった。
その後も強い敵はヴィルノスさんが狩り弱い敵をノービィに、経験を積ませながら狩っていった。
TKG達との集合の1時間前には村へ帰ってきた。
ほとんどヴィルノスさんが狩った敵ということもあり今回得た素材は格安で譲らせてもらった。
その時のヴィルノスさんは本当に困った様な顔をして通常価格で買い取ると言っていたが無理やり格安で譲らせてもらった。
「それではシルヴァ様また機会があれば。今日はありがとうございました。」
「いえこちらこそ、本当に、本当にお世話になりました。」
本当にお世話になりすぎたせいか危うく土下座までしてしまうところだった。
ヴィルノスさんの姿が見えなくなったところで集合時間まで体と心を休めることにした。
リリィもノービィも相当疲れているそうだ。
「なんでも好きなもの食べていいよ!」
そういうと早速周りを見渡す。
「シルヴァ様!あちらへいきましょう!」
そうしてリリィを筆頭にみんなで屋台の方へと進んでいく。




