第7話
天握のアマツを撃破したのも束の間、周囲の闇から、地を這うような無数の不気味な足音が響き渡った。
「クウ……ッ!」
「クウ……!!」
路地裏から、崩れた壁の隙間から、次々と姿を現したのはアマツの残党である人喰いたちの群れだった。その数は数十、いや、百に近い。
「くそっ、この物量は非合理的すぎる……っ!」
アマツとの死闘でエネルギーの大半を使い果たし、僕の身体は限界を迎えていた。スサノオジェネレーターが激しく警告音を鳴らし、装甲の隙間から火花が散る。だが、背後にはまだショックから立ち直れない夜さんがいる。彼女を守りながら盾となって戦う僕の装甲は、次々と化け物たちの爪に切り裂かれ、ついに膝を突いてしまった。
タイミングを合わせるように、夜空からポツポツと冷たい雨が降り出し、瞬く間に激しい大雨へと変わっていく。雨水が僕の割れたバイザーを濡らし、視界を奪う。ここまでなのか。絶望が脳裏をよぎった、その瞬間だった。カツン、カツンと、激しい雨音に混じって、硬い足音が近づいてくる。現れたのは、詰襟を纏った髪の長い青年、鍛冶屋の門前ですれ違った、あの男だった。
「……人喰いどもが。一匹残らず、噛み殺す」
青年の瞳には、底知れない激しい怒りと、冷徹な殺意が宿っていた。彼は懐から、鈍色に光る鋼のベルトを取り出し、自身の腹部へと叩きつけた。
「滅災ノ輪よ......、力を貸せ!」
『 高出力 ―― 蒸気臨界 』
真夜中の広場に、雨音をかき消す地響きのような重低音の機械音声が鳴り響く。
「鎧装!!」
青年が吠えると同時に、ベルトが「生体認証完了」と無機質な音声を返した。次の瞬間、ベルトの排気口からシュウウウッ! とおぞましい黒い煙が噴き出し、激しい大雨を撥ね退けて彼の五体を完全に包み込む。煙の奥から聞こえるのは、ガチガチと激しく噛み合う重厚な歯車の駆動音。
ゴオオォォォンッ!!
突風が黒煙を吹き飛ばすと、そこに立っていたのは、大正の蒸気機関と、古代の白い甲冑が禍々しく融合した、圧倒的な質量感を持つ戦士だった。
「……俺はコイツを、『機動鎧装』と呼ぶ」
蒸気を全身から激しく噴射しながら、白い戦士が地を蹴った。
「裂轟!」
叫びと共にその重厚な右手に、触れるものすべてを焼き切る赤熱大剣が実体化する。
ジュウウウウウゥゥゥッ!!!
裂轟が抜き放たれた瞬間、天から降り注ぐ激しい大雨が、大剣が放つ圧倒的な超高熱によって、触れる前に一瞬で蒸発し、周囲に凄まじい白煙の霧を巻き起こした。雨をも焼き尽くす烈火の刃。
「ハァァァァッ!!」
一振りで十数匹の人喰いが、大雨のなかで激しい炎を上げて両断される。未来の洗練された技術で戦う僕とは違う。それは、ただ敵を滅ぼすためだけに特化した、圧倒的な暴力の塊だった。群がる人喰いたちを瞬く間に蹂躙した青年は、裂轟を上段へと構え、ベルトのレバーを引き絞った。
「滅災断 !」
大剣が激しい雨をすべて激しい水蒸気へと変えながら、真っ赤な超高熱の炎を纏う。青年がそれを振り下ろすと、広場を引き裂くような巨大な炎の斬撃が走り、残った人喰いたちの群れを、その悲鳴ごと跡形もなく焼き尽くした。
ドゴォォォンッ!!!
凄まじい爆炎が雨夜の帝都を赤く染める。人喰いの全滅を見届けた瞬間、僕の緊張の糸はぷつりと切れた。スサノオジェネレーターが強制解除され、僕はその場に崩れ落ちる。薄れゆく意識のなか、視界の端に、変身を解除した漆黒の詰襟の青年がこちらを見下ろしているのが映った。その切れ長の瞳は、僕の左腕のデバイスを冷徹に射抜いている。
「……おい。貴様は一体、何者だ?」
低く冷たい青年の声を遠くに聞きながら、僕の意識は、今度こそ深い闇へと沈んでいった。




