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鉄の守り人  作者: Sangomiya
混沌
22/27

第20話

 ドゴォォォンッ!! 


 帝都の広場に、漆黒のレーザーブレードと赤熱大剣『裂轟』が衝突する凄まじい衝撃波が吹き荒れる。


「八雲ォォォッ! 命の痛みを、その身で償えぇ!!」


「落ち着け剣! 君のその不条理な怒りは……」


 言葉を交わしながらも、僕たちの刃は一瞬の容赦もなく互いの装甲を激しく削り合っていた。剣は「命を傷つけられた」という怒りで完全に理性を失っているように見える。合理的に考えれば、このままでは本当に共倒れだ。だが、刃を交え、至近距離で火花を散らし合ったその瞬間、僕のバイザーの奥のセンサーが、剣の『真滅災ノ輪』から放たれている未知のエネルギー波形を捉えた。


(……やはり先程の禍々しい闘気は勘違いではなかったか。剣のベルトの出力波形に、奇妙な『ノイズ』が混ざっている。これは……精神を狂わせる外部からの電磁パルス、いや、オカルト的な『幻惑の術式』か!?)


 勝機は見えた。やはり、僕たちを戦わせようとしている『見えない第三者』が裏で糸を引いている。僕はあえて剣の決定的な死角へと滑り込み、レーザーブレードの出力を瞬時に切り替えた。ブレードの先端から発せられるのは、目に見えない高周波の振動。剣の脳内で暴れる幻術の周波数を完璧に打ち消すための、即席の『逆位相超音波(アンチ・ノイズ)』だ。


 剣のベルトに向け、至近距離で超音波を浴びせた瞬間、彼の脳を縛り付けていた悪質な幻惑回路が激しくアンチノイズと共振した。ベルトからはパチパチと火花を散らしていく。


 だが、術式は深く、根深かった。剣の脳内で「殺意」と「理性」が激しく衝突しているのか、彼の全身から拒絶反応が走る。


「ぐっ……ぁぁッ……!?」


 剣は頭を抱え激しく暴れる。赤熱した大剣が床に落ちる。彼のバイザーの奥で荒い息遣いが漏れ聞こえた。


「な、なんだ……この感覚は……!? 脳ミソが……割れそうだ……! 俺は一体、何を……!?」

 

 暴れ回る剣の両腕を掴み、取っ組み合う様に立ち回る。そして、彼の耳元に向けて言い聞かせる。


 「耐えろ剣! 君の脳を狂わせているのは『毒』だ。命ちゃんは生きている……! 僕の計算に合わせろ、ここから本気の『芝居』を打つぞ!」


「茶髪……お前……っ、クソッ……! ああ、分かった……!」


 脳を焼くような頭痛と戦いながらも、剣の瞳から昏い狂気が剥がれ落ち、野生の闘志が蘇る。洗脳を力ずくでねじ伏せた彼は、僕との意思疎通を完了させると同時に、再び咆哮を上げて大剣を拾い上げた。


「はああぁぁぁッッ!! 吹き飛べぇぇッ!!」


 そこからの僕たちの戦いは、凄絶な同士討ちの演技へと突入した。幻術を完全に欺くため、手加減は一切無し。互いに本気で肉体を削り、装甲を破壊し合う。剣の渾身の裂轟の一撃が僕の胸部に炸裂した。凄まじい衝撃波と共に、僕は派手に地面を転がり、そのままエネルギーが切れたように変身を強制解除してみせる。ボロボロの書生服のまま、僕は「やられた振り」をして地面に倒れ込んだ。


「がはっ……、ば, 馬鹿な……僕の計算が……狂う, なんて……」


 倒れた僕を見下ろす剣もまた、肩を激しく上下させ、膝を突き変身解除をする。完璧な満身創痍感を演出してみせる。2人の戦士の共倒れ。その完璧な舞台整流が完了した、まさにその時だった。広場の闇の奥から、クスクスと、悪趣味で妖艶な笑い声が響き渡った。


「あははは! 素晴らしいねぇ! 見事な同士討ち、実に見応えがあったぞえ!」


 姿を現したのは、妖しい和装に身を包んだ、狐のような目をした美女。市長の背後で帝都を操っていた人喰いだった。


「お前が……裏で俺たちを、かき乱していたんだな……っ!」


 膝をついたまま、剣が血を吐き出すような声で人喰いを睨みつける。その両拳は、地面の石畳を砕かんばかりの力で握りしめられていた。脳を焼くような幻術の毒は引きつつあったが、剣の胸中に渦巻く怒りは消えてなどいない。いや、むしろ「命を誘拐され、その存在すらも弄ばれた」という真実を理解したことで、その怒りは静かな狂気となって激しく燃え上がっていた。


「命はどこだ……っ! おやっさんの娘に……命に何をしたァッ!!」


 咆哮する剣に対し、ナユタは嘲笑を浮かべながら、細い指先で自身の扇子を優雅にあおいでみせる。


「あはは、あの娘なら安心するが良いぞえ。離れの天井を破って浚(さら)ったあと、我ら『万魔殿』の地下実験場へと送ってやったわ。主らを片付けた後、たっぷりとその身を刻んで、極上の実験体にしてやるつもりでの」


「なっ……命ちゃんを、実験台に……!?」


 地べたに倒れ伏した振りをしながら、僕の胸の中で激しい怒りと焦燥が跳ね上がった。奴の目的は単なる分断ではない。命ちゃんそのものの身柄を確保し、僕たちを処理した上で安全に連れ去ることだったのだ。


「妾は蠱夢(こむ)のナユタ。お主らのような邪魔者が帝都におると、妾の実験が捗らんでな。互いに刺し違えて死んでくれるとは、実に素直で助かったぞえ。……さぁ、ここでまとめて消え失せよ!」


 ナユタが勝ち誇り、無防備な僕たちにトドメを刺そうと一歩足を踏み出した、まさにその瞬間。


「引っかかったね、化け物。君を誘い出すための、これが僕たちの最高の『合理的偽装』だ!」


 地面に倒れていたはずの僕は、俊敏な動作で跳ね起き、左腕のデバイスを叩きつけた。


「なっ……お主ら、瀕死状態ではなかったのかえ!?」


「当たり前だ。俺の怒りは……お前が命を攫い、その絆を踏みにじったことに対してだァァッ!!」


 膝を突いていた剣が、噴き出すマグマのような闘志と共に立ち上がる。命ちゃんが生きていること、そして敵の居場所が判明したこと。すべての条件が揃い、剣の瞳に宿る『滅殺の炎』が限界を超えて吹き荒れた。


「激甲!!」

「鎧装!!」


『Drive - Susanoo - System 』

『 高出力 ―― 蒸気臨界 ―― 無限(インフィニティ) !! 』 


 漆黒のスサノオと、純白の蒸気機関を纏った剣が、ナユタの前に並び立つ。


「おのれェェェッ! 謀ったな、小癪な人間どもがァァッ!!」


 完璧な罠に罠で返され、完全に激怒したナユタの身体が、禍々しい漆黒の妖気に包まれた。


「ならば、これを見ても同じことが言えるかえ!? ――妖力解放:玉藻前(たまものまえ)!!」


ゴオオォォォッ!!


 帝都の地響きが鳴り渡る。ナユタの背後から暗黒の炎が吹き出し、それは九尾の尻尾となった。


「我が力はすべての恐怖の再現! 過去の絶望に、押し潰されるが良いわァッ!!」


 ナユタの九尾が黒い闘気を纏う。このドス黒い殺気、覚えがある。


「オロチと同じ……! 悪趣味な女狐が!」


「ふふっ。『化生、面影返し』。おぬしらの恐怖心を感じとり、我が力に変える!」


 ナユタの背中には黒い風の翼、そしてかつてオロチが持っていた魔剣『魂喰(だまぐい)』が現れた。


「感謝するぞ! 大天狗、 そして鬼王。この力を得た妾は無敵じゃあ!!」


 ナユタは、かつて僕たちが倒したアマツの大天狗、そしてオロチの鬼王のエネルギーを完全にコピーし、その五体に宿してみせたのだ。


「ハァァァァッ!!」


 魂喰を身構えたナユタが、大天狗の風の翼を羽ばたかせ、音速を超える速度で突撃してきた。鬼王の圧倒的な怪力によって放たれる魔剣の一撃が、僕たちの装甲をかすめるだけで大気が爆発するように震える。


「くっ、速い……! しかも防御すら先読みされている!」


 僕のレーザーブレードの一撃は、大天狗の気流操作によって紙一重で絶対回避され、逆にカウンターの暴風が僕の胸部装甲を切り裂く。すかさず剣が『裂轟』を叩き込むが、鬼王の剛腕によって真っ向から受け止められ、凄まじい衝撃波で二人は同時に吹き飛ばされた。


「あひゃひゃひゃ! どうしたえ、お主らの力はその程度かえ!? 過去の絶望に恐怖し、平伏するが良いわァ!」


 魂喰を不気味に輝かせ、狂い笑うナユタ。だが、装甲に火花を散らしながらも立ち上がった僕と剣のバイザーの奥の瞳は、一ミリの絶望も、恐怖のデータも宿してはいなかった。本気の同士討ちの演技。あの激闘中で、僕たちのデバイスの波長は、そして心音すらも完全に同調していた。過去の強敵のデータなど、一つになった僕たちの前には一片の脅威にもならない。


「所詮はコピー。合理的解答はもう見えてる! 崩激!」


「命を返してもらうぞ……! 今ここで、貴様を噛み殺す!!」


 二人の呼吸が、一瞬の狂いもなく完全に重なった。完璧なる同調。


「「――おおおおおぉぉぉらぁぁッッ!!!!」」


『 Demolition 』

『 滅災断・獄炎 !! 』 


 未来科学の青き光の粒子を纏った僕のキックと、剣の超高熱の炎の斬撃が、完全に一つになって放たれた。 


ドガァァァァァンッッ!!!!


 大天狗の絶対回避の暴風すら力づくでへし折り、鬼王の剛腕ごとナユタの肉体を真っ向から消滅させる、限界突破の同時必殺技。ナユタは最強のコピー能力ごと、その絶望の悲鳴と共に、跡形もなく木端微塵に完全粉砕されたのだった。

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