第14話
純白の蒸気を吹き荒らしながら、烏丸剣の『機動鎧装・命昇』は戦場を圧倒していた。 命を削る旧ベルトの枷を外し、未来のパーツによって無限のエネルギーを還流させた剣の猛攻は、オロチの無双の剣技を力づくでねじ伏せていく。赤熱大剣『裂轟』の一閃が、オロチの肉体を確実に裂いていく。
「行けるぞ! 烏丸!」
このまま勝てる、そう確信した瞬間、剣がベルトのレバーを引き絞った。
『 滅災断! 消えろ! オロチ! 』
激しい炎を纏った大剣が、オロチへ向けて振り下ろされ烈火の斬撃が飛ばされる。
「舐めるなァァァ! ――妖力解放:鬼王!!」
だが、オロチが狂ったように吠えた瞬間、奴の筋肉が爆発的に膨隆し、圧倒的な純粋フィジカルの塊へと変貌した。オロチはその禍々しい肉体だけで、直撃した滅災断の炎を受けきってみせたのだ。
「やはり、一筋縄ではいかないか......」
「あひゃひゃ! 面白くなってきやがったぜぇ、ガキィ!」
ここからは互いの意地と狂気がぶつかり合う、凄絶な超近接戦だった。至近距離で『裂轟』と『魂喰』が激しくぶつかり合い、凄まじい火花が大気を焦がす。しかし、互いのパワーが限界を超えて衝突した次の瞬間――甲高い金属音と共に、両者の武器が弾き飛ばされ、お互いの遥か後ろへと吹き飛んでいった。武器を失った二人は、躊躇なく拳を握りしめた。
「オオオオォォォッ!!」
そこからは、言葉を失うほどの泥臭い殴り合いだった。オロチの鬼王としての豪腕と、剣の魂がこもった鉄拳が、一切の防御を捨ててノーガードで交錯する。鉄と肉がぶつかる鈍い音が響き、衝撃波が広場を震わせる。
ドガァッ!!
オロチの凄まじい一撃が、剣の白い仮面を真っ向から叩き割った。よろめく体幹、砕け散る仮面の破片。剥き出しになった剣の素顔。だが彼はその場で踏みとどまる。露出した右目は、絶望に曇るどころか、烈火のごとく激しく燃え盛っていた。
「いい加減死ねやァァァッ!! ガキィ!!」
「うおおおぁぁぁッッ!!」
怯むことなく剣が放った渾身のカウンターが、オロチの顔面に直撃する。圧倒的な衝撃と共に、オロチの巨体が地面を転がり、遠くへと吹き飛んだ。
「ぐっ、クソがぁ……ッ!」
よろめきながら立ち上がったオロチは、近くに落ちていた魔剣『魂喰』を長く伸ばした舌で拾い上げ、狂気に満ちた笑みを浮かべて剣へと斬りかかろうとした。
「おい、おい、バカがよう。そのボロい鉄で受けきれるかなぁ!!」
ガチリ。
突如として、オロチの動きが虚空でピタリと停止した。いや、正確には、振り上げた『魂喰』の刀身が、何かに掴まれたかのように微動だにしなくなったのだ。
「なぁっ……!? 動かねえ、なぜだ!?」
オロチが驚愕の声をあげる。僕の目には、ただ刀が止まっているようにしか見えなかった。だけど――剣の目には、確かに視えていた。魔剣の刀身を両手で強く押さえつけ、不敵に笑う、あの『おやっさん』の魂の姿が。
「おやっさん……!」
魂喰いに吸収されたはずの銀次さんの魂が、オロチへの反逆として内部で大暴走を起こし、主の制御を完全に拒絶していたのだ。それだけではない。これまでオロチが理不尽に奪ってきた無数の犠牲者たちの魂が次々と逆流し、黒い怨念の手となってオロチの五体をがんじがらめに縛り上げていく。
「お前ら……離れろ! 動け、動けよォォォッ!!」
生まれて初めての『不条理』に、醜く絶叫し、もがくオロチ。剣は後ろへ吹き飛んでいた『裂轟』を引き寄せると、未来のパーツと同期したベルトのレバーを深く引き絞った。青と赤のエネルギーが、大剣の刃へ限界を超えて集束していく。
「……みんな、ありがとう」
散っていった者たちへ、そして支えてくれた仲間たちへ、烏丸は静かに感謝を告げた。
「滅災断・獄炎 !!」
大地を、因果を、世界の闇を真っ二つに引き裂くほどの圧倒的な威力を伴った、炎の縦一文字。
「これで、終わりだァァァッッ!!!!」
「ぎゃああああああああっ!?」
悲鳴をあげるオロチの肉体は、その悪趣味な赤い着物ごと綺麗に真っ二つへと両断され、残った半身もろとも、跡形もなく爆散して消滅したのだった。




