第11話
大気圏を割り、光の粒子となって僕が帝都へ戻ったとき――そこに広がっていたのは、言葉を失うほどの地獄絵図だった。下級の鬼を無数に率いて襲来したその男は、帝都の警察や傭兵たちを一方的に皆殺しにし、またたく間に街を占領してしまったのだ。
女性を無理やり侍らせ、男を奴隷のように扱う剥き出しの狂気。
「アハハハ! 鳴け鳴け、もっと心地いい悲鳴を聞かせてくれよぉ!」
血のように赤い着物をだらしなく着崩した男――『狂血のオロチ』。そいつが操るのは、斬った者の魂を吸い込み、切れ味へと変える魔剣『魂喰』。その右に出る者のいない無双の剣技の前に、僕が駆けつけるより早く、白い甲冑を纏った烏丸剣の『機動鎧装』は完膚なきまでに叩きのめされていた。
「がはっ……、あ……あぁ……っ!」
命を削るベルトの過酷な負荷によって血を吐き、装甲をズタズタに引き裂かれた剣。圧倒的な敗北の前に、復讐の鬼だった彼の心は完全に折られ、変身を強制解除されて地面へと崩れ落ちる。
「あ? よく見りゃあん時の一族のガキか。親たちと同じでつまんねぇ間抜けな面だ。さあ、今度こそお前で最後だ。死ねよぉ!」
オロチの魔剣が、無抵抗な剣の脳めがけて容赦なく振り下ろされる。まさに、その刹那だった。
「剣っ! 逃げろォォォッ!!」
泥臭く、命を顧みずに割り込んできたのは――絆万鍛冶店の親方、おやっさん(銀次)だった。
ドズゥッ、と肉と骨を無慈悲に切り裂く嫌な音が響く。銀次さんは剣の身代わりとなり、オロチの刃をその胸に深く受け止めていた。
「おやっ、さん……? なんで、お前が……!」
「命……あとは、お前が……打て……」
銀次さんはそれだけを絞り出すと、どさりと地面へ倒れ伏し、二度と動かなくなった。
「嫌だぁぁぁーーっ! お父ちゃん! お父ちゃん起きてよぉ!!」
駆け寄った命が、父親の遺体に縋り付いて声を枯らして泣き叫ぶ。その痛切な涙を、オロチは首を傾げながら、心底楽しそうに、爬虫類のような目で見下ろした。
「あはっ、お熱いねえ! じゃあ、先にその泣き叫んでる女から喰うかー。まずは服をひっぺがしてよぉー! あひゃ、あひゃ!」
下劣極まりない歪んだ笑みを浮かべ、命の髪を掴もうと、オロチが血塗られた手を伸ばす。そのクズの爪が届く、まさに直前だった。
「そこまでだ――ッ!!」
大気を引き裂く青い閃光が、音速で戦場へと突入した。装甲騎兵に変身した僕は、オロチの伸ばした腕めがけてレーザーブレードを一閃、力任せにその追撃を弾き飛ばした。
「チッ、また妙な鉄クズが邪魔を……!」
反動で大きく距離を取るオロチ。僕は奴への激しい怒りを押し殺し、瞬時に合理的解答を選んだ。遠征によって消耗したエネルギーでは、この化け物と戦いながら二人を守り抜くのは不可能だ。
「命、君の父親の意志を無駄にするな! 烏丸、立つんだ!」
僕は満身創痍の剣と、銀次さんの遺体を抱いて泣き叫ぶ命を両脇に無理やり抱え上げると、光の粒子となってその場を跳躍。オロチの追撃をいなし、そのまま最高速度で如月邸へと離脱した。
「あひゃひゃ! 逃げるか鉄クズ君! どこへ逃げても無駄だぜぇ、お前らの血の臭い、どこまでも追ってやるからなぁ!!」
背後から響くオロチの狂った笑い声を遠くに聞きながら、僕は壊滅した帝都の闇を、必死に駆け抜けていった。




