心霊確信機関
心霊現象という形で、現世に行きます。
「心霊確信機関」、楽しんでいただけたら嬉しいです。
変成王の審判が終わり、遊園地内を回り出して数時間が経った。
これと言って現世の遊園地を変わったアトラクションがあるわけでもないため、安心安全に楽しむことができている。
あの世のなのだから高齢者が多いのかと思えばそうではなく、幸か不幸か同年代や家族連れ(?)が多くて非常に馴染みやすかった。
「綾乃さん、ちょっと懐かしんでますねぇ。」
「そりゃあ。ずいぶん遊園地なんて行ってませんから。」
唯一変わったところといえば、隣にいるのが弟ではなく黄泉平坂の案内役人ということだろう。最近ここに馴染みすぎて忘れているが、私は42日前に交通事故で死んでいた。
私は遊園地のマップを指差し、案内役人のユリさんに見せながら言った。
「どうします?もう結構回りましたけど。」
「コーヒーカップ乗ってないじゃないですか。」
「あれは酔うからダメです。」
「あの世でも酔うってあるんですかね?今亡者じゃないですか。」
ユリさんは首を傾げて言った。聞きたいのはこっちである。
私は死んで、体の方は火葬されているだろうから、今は魂のみということになる。そもそも三途の川を渡る時に、名前は忘れたが三体の鬼に何やらたくさん取られたため、そこですでに立派な亡者だ。
故に、身体的な機能が残っているかは不明である。
「酔うかもしれないなら嫌ですよ。乗りたくないです。」
「私も知らないんですから、試してみてくださいよ。減るもんじゃないんだから。」
「ユリさん、あなたは案内役人何年目なんですか?」
「あの世に何年とかないんで。ほらここ時間軸バラバラでしょ?」
「何人目なんですか?」
「………。」
沈黙と一緒に目を逸らし、口元がにんまりとニヤける彼女を見て、5人にも満たないことを察した。
私はため息をつき、ユリさんに湿った視線を投げながら言った。
「で、私は実験台としてコーヒーカップに乗らなきゃいけないんですか?」
「興味があればぜひ。」
「興味なんてありません!」
コントをするためにあの世に来ているわけではない。
私は腑に落ちてなさそうなユリさんをぐいぐいと引っ張った。
その時、視界の隅に明らかに怪しそうなテントを見つけた。
ぱっと見ミラーハウスのようであるが、マップを見る限りミラーハウスの記載はなかった。
私は頬を膨らませるユリさんの体をそのテントに向ける。
「ユリさん、あのテントなんですか?」
「あーあれはですねぇ…。行きたいですか?気になります?」
「ユリさん…あのテントなんですか?」
「えっと、降霊場です。」
降霊術というものは聞いたことがあった。
しかし降霊場というものは一体何なのだろう。大体予想はつくが、一応聞いておく。
「そのやたら胡散臭いそれはなんです?」
「降霊術とか心霊現象とかでこちら側から現世の方へお邪魔する場所ですね。あそこで現世のご家族に会うこともできますよ。ただ降霊術に呼ばれるっていうのはだいぶ手練ですね。」
「ようは三途の川渡る時に無言電話かけてたあれの中枢部ってことですか?」
「…まぁ…ね。」
「…まぁ…ね、じゃないでしょ。ただの嫌がらせじゃないですか。」
「こういうのっていろいろ効果あるんですよ。これがなかったらここの存在を誰も信じなくなるでしょう?そうしたら現世で好き放題やるんです。だから我々が気を利かせて、たまに私どもに敏感な人間にアピールしているんですよ。」
生前私の友達で幽霊を余計に怖がっている人がいた。なんでも霊感があったらしく、霊園や事故現場などに行くと、周りの人には見えない非科学的な物事を見聞きするらしく、夏休みクラスメイトで集まった時、悪ノリした友人で肝試しに誘われた時は必死に抵抗していた。
彼女が見ていたのは、明らかにこの降霊場から現世へ出入りしていた亡者たちに違いない。
故に、彼女は黄泉平坂の役人に目をつけられたばっかりに、気まぐれて降霊する亡者たちの相手をさせられていたわけだ。不憫なことこの上ない。
私は現世にいる霊感の鋭い全人類が哀れになった。
そんな私の肩を突きながらユリさんが言う。
「綾乃さん、入ってきたらどうです?」
「心霊現象起こすのはちょっと。友達で苦手な子がいたんです。」
「ご家族と会うのもこれが最後になりますよ?」
その言葉を聞いて頬がぴくついた。
会うということは、以前のテントで見た上映会のようなものとは違うのだろうか?
「前見たあれとは違うんですか?」
「ええ、あれはスクリーンですが、今回は本当にあっち側に行きますんで。」
「最後というのは?」
「またここに来るなら最後じゃないですが、もう49日まで時間がないですからね。現世のご家族とはこれで最後だと思っておいた方がいいです。」
私はごくりと唾を飲み込んだ。
家族は霊感がないが、どうせなら最後にお別れを言いたいと思ってしまった。
私の最期はトラックに衝突されて終わりだったので、まともにお別れも言っていない。伝わるかはわからないが、言ってみてはだめだろうか。
隣でユリさんがにやにやと見つめてくる。
「行ってあげたほうがいいんじゃないですか?」
「うーーん……。」
「もう最後ですよ?後悔しないです?」
散々そう急かされ、結局私は了承してしまった。
現世にいる霊感の鋭い全人類に謝らなくてはならない。
私は罪悪感を覚えながらもテントを潜った。
中には数個かプセル型の寝台のようなものが置いてあり、明らかに怪しい。
イメージ的にはコールドスリープで使いそうなあれである。
受付にいる少し眠たそうな目をした眼鏡の男性が説明してくれる。
「ここのカプセルに入ってもらって。あとはこちらが操作します。
向こうでは物が辛うじて動かせるかな?くらいですが、これも人によるのでいろいろ試してみてください。制限時間というものは明確にはないですが、接続環境的に長続きするものではないです。
それでも向こうで飲食物は口にしないでください。帰れなくなることがありますので。」
そこまでいうと、どうぞというように開いたカプセルに私を誘導してくる。
私は恐る恐るその怪しげな箱に横になった。末恐ろしい話ではあるが、これから私は心霊現象を起こすおばけである。
私はぎゅっと目を瞑った。
体がふんわりと浮く感覚がして、私は目を開けた。
そこは自分が住んでいた家の玄関だった。
懐かしい。1ヶ月くらい帰ってなかっただけなのにとても懐かしく思える。あの日、私は普通に家に帰ると思っていた。
「ただいま。」
そう呟きながらドアノブを握り、開けようと手を伸ばした。
伸ばした手でドアノブは握れず、そのまま私はドアを透けて通った。
すかっと通り過ぎたことに、自分が死んでいることを痛感した。
カレンダーを見る限り今日は平日だ。父は仕事に行っただろうか。
リビングに入ると、見慣れない小箱の前に母が座っていた。
私は今すぐ駆け寄り、飛びつきたい衝動に駆られたが、それは一瞬で消え去った。
母が座っている目の前にある小箱の中には、にこやかに笑う私の顔と、煙が立つ線香が備えてあったからだ。
母にそっと近づき、顔を覗き込む。
母は痩せ細った手を必死に合わせ、こけて骨ばった頬につくぐらい祈りながら、呪文のようにぶつぶつと何か唱えていた。
耳を澄ませてみると、
「ごめんね、ごめんね…」
と繰り返していた。
胸に棘が刺さったような感覚に襲われる。
母の目の下には濃いくまがあった。夜も眠れていないのだろうか。
(前まではあんなに元気で、気さくな人だったのに…。なんて言ったらいいんだろう。)
私は母の後ろに声掛け、背中に寄りかかるように座ってみる。
母の背中は暖かくて、安心感はあったものの、こちらに気づく気配はない。
私は恐る恐る声を出した。
「ねえ、お母さん。」
そう声をかけても、母に反応はない。
当たり前だろう。私は勝手に喋り続ける。
「お母さん、ごめんね。今までありがとね。私、お母さんと一緒にいて、いろいろ楽しかったよ。どうせなら、もっとお母さんに親孝行したかったんだけど。
…だからさ、あんまり泣いてばっかりいないでよ。」
途中呟く声が止んで、室内を見回すような素振りをした母を、私はそっと見つめる。
もしかしたら、何か気づいてくれているのかもしれない。
私は母の肩を叩いたり、目の前でジャンプしたりといろいろな奇行に出た。
数分間奇行を繰り返した時、母が小さな声で言った。
「…綾乃…?そこにいるの…?」
「いるよー。」
即答で返事をしたが、母は顔を傾げている。私は母の手を強く握った。
「お母さん、私大丈夫だから!転生しても、みんなのこと大好きだから。
だからあんまり引きずっちゃダメだよ、眠れなくなっちゃうからね!」
そう言って私はきょとんとする母を置いて、窓から透けて外に出た。
父の所在はどこであろうか。多分会社で間違いはないと思うが、仕事中に心霊現象を起こしてもいいものだろうか…?
そこまで考えたところで、私はあることに気がついた。
(そういえば、私お父さんの職場の住所知らないや。)
生前父の職場くらい覚えなよと散々言われてきたが、本当にその通りである。
私は心の中で、「お父さん悪しからず」と詫びておいた。父がいたからこその思い出もたくさんあるから、多少心残りはあるが。しょうがないと割り切りたい。
それをいえば、渚の病院はどこなのだろう。私はそれすら知らない。
歩く拍子に軽くジャンプをした瞬間、足がふんわりと浮かんだ。
浮いたことに内心大興奮し乗りこなせなかったが、私は空高く飛びながら病院を探すことにした。
しばらく空中を右往左往していたが、直感的に方角がわかるようになってきた。
私はなんとなくの方角へ身を任せ、ふわふわと飛んでいく。
10分ほど飛び続けた時、市の総合病院にたどり着いた。
(渚、ここに入院してるのかな。)
私は窓を通り抜けて侵入した。思いの外、病院にもかなりの亡者の来客がいるようだった。
やっぱり病院におばけって多かったのか…。
私は他の亡者たちに聞いて、ようやく整形外科病棟に辿り着き、渚の病室を特定するためにわざわざナースステーションに侵入して情報収集しなければならなかった。
整形外科病棟18号室。ここが渚の部屋だ。
私は緊張しながらも病室に入り、カーテンを覗き見した。
渚は白いベットに半分固定されるような形で、横になっていた。
私はベットに駆け寄り、渚に「やっ」と挨拶をしてみる。気づかれないと思ったが、渚は何もない空間を見るようにこちらに視線を向けてきた。
(この子、ちゃんと頑張ったらわかるかも…?)
少々気が引けたが、渚の後ろに回るようにして肩を掴んみ、叩いたりさすったりしてみた。
渚は挙動不審になりながら、キョロキョロと病室内を見回している。
「渚、私後ろだよ。」
そう言った瞬間、渚の顔がぐるりとこちらに向いたので、かなりびっくりした。
「…姉さん?」
「はい、お姉ちゃんですよー。」
聞こえるとは思わなかったので変な返事をしたが、渚はそれに対して、「えっ、本当に…?」と声を上げた。これは返事に気をつけなくては。
「姉さん、どこも痛くないの?」
「全然大丈夫。」
「ねえ、渚は大丈夫?ちゃんとご飯食べてるの?」
「…俺は平気だけど…。姉さん、どうしてここに?だってあの時…。」
「何よ、私だってみんなの顔見にいくくらいするってば。可愛い弟遺してきちゃったんだもの。」
「可愛くねぇし…。姉さん変わってないね。」
「お互い様でしょうがー。」
「俺さ、もう脚とかちゃんと動かせなくなっちゃってさ、ずっと車椅子かもって…。」
「うん。」
「どうしたらいいんだろう。高校とか、将来とか。俺何もできないし。」
「それはちゃんと考えなきゃね。でも、何もできないってことはないでしょ。歩けなくても、できることはごまんとあるから。」
渚が苦笑いする。そういえばこんな感じだったっけ。
正直こんなに話せるとは思わなかった。私も嬉しくて、渚の肩に手を置きながら話続ける。
「ねぇ渚、お姉ちゃんそろそろこっから出ないといけないんだって。」
「どういうことそれ。…成仏的なこと?」
「多分。だから渚のところにくるのも最後だと思う。」
そう言った瞬間、渚の身体が小さく震えたのを感じた。
「姉さん、帰ってきてよ。母さんも父さんも責任感じて元気なくて、俺だって寂しいし。いきなり死ぬとか、そんなの聞いてないし。またちゃんと話したいし…。」
「はは、ありがとう。生きてる時はそんなこと言ってくれなかったのにー。」
「それとこれとは話が違うっつーの。」
「ごめんよ、私だって帰れるもんなら帰りたい。でも身体がないからさ。」
「焼かなかったら帰ってこられた?」
「いやいや、生きていけない身体だったらそりゃもう無理よ。」
私は渚の首に額を当て、伝わるようにと声に力を入れて言った。
「私がいなくなってもちゃんとしててよね。渚、自分のことを諦めちゃだめだよ。あと、ウジウジ落ち込んでないで、ちゃんと笑いなさい。お母さんにも伝えて。」
「…頑張るよ。」
「言ったからね?」
「頑張るってば。」
「ならよし。じゃあね。」
そこまで言って私は渚から手を離した。
カーテンを開けて出て行こうとした時、渚が声を上げた。
「お姉ちゃんっ。」
「うん?」
「お姉ちゃんも元気でね。」
「…あんたもね。」
私は名残惜しい気持ちを抑え、病室から出ていった。
蒸発と凝縮を繰り返すようで恐縮です。氷室八弥です。
1ヶ月くらい前に「異世界喫茶に監禁された小説家の話」を投稿して、それ以来でしょうか。長らく長らくで申し訳ないです。
あれから何かとデスクワークに追われ、原稿書くほどの余裕が手首に残らずこんな時間になってしまいました。腱鞘炎みたいになりましたが、今は治ったので大丈夫です。
新しい話の原稿諸々、ちゃんとやっていきたいなと思う今日この頃だったりします。
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