お子さん十王に測られし虚言
なんか有名な業秤が登場です。
「お子さん十王に測られし虚言」楽しんでいただけたら嬉しいです。
死んで黄泉平坂に辿り着いてから、
早くも28日が経った。
今日で四七日なのだが、こう言われるとなんだかんだ短い気もする。
私自身もこの28日間で、これといって何かした訳でもなく、
隠世莊でだらだら過ごしたり、たまに賽の河原でひなたぼっこしたりと、好き勝手に過ごしている。
(何か勉強しなきゃいけないとか、そういうことはないんだなぁ。)
「綾乃さん?聞いてますー?」
物思いにふけっていた私の肩を叩きながら、ユリさんが顔を覗き込む。
私は半分崩れかけた姿勢を戻しながら「な、なんでしたっけ?」と取り繕う。
「やっぱり聞いてなかったんじゃないですかぁ。
まぁ…そんなに大事なようでもないのでいいんですけどー…。」
(完全に拗ねちゃったなぁ…。)
今までも何回かあったのだが、ユリさんはたまにこういうところがある。
威厳というものはない。
「あーすみません。なんですか?」
適当にあしらいながら聞き返す。
ユリさんは少し不貞腐れた様子を見せたあとに話はじめた。
「今日の審判ですけど、業秤という天秤があるんです。
そこに乗ってもらうので、そのつもりでいてくださいねって話です。」
「あぁなるほど。了解です。」
気を利かせて教えてくれたところを無視してしまって申し訳ない。
私は「すみません」と一言言いながら今回の審判会場に向かった。
「ぉぉおおおおおおお……」
「そんなに驚くものですか?」
ユリさんが訝しげに尋ねてくる。
あの世の住人には慣れ親しんだものかもしれないが、人間の私には圧巻の光景だ。
四七日の審判会場は、まさに童話に出てくるお城っぽい建物で、実際にみたことないほどのスケールだ。
(三七日までのスケールが普通に小さい…。)
そして、今回初めて徒歩移動ではなく電車を使って移動した。
車窓から見える雲海は、文字通り夢のようだった。
私はユリさんに手を引かれながら城の中に入っていく。
中に入ると、早速いかにも高そうなエレベータがある。
装飾や調度が、ここにいるであろう十王の権力を醸し出しているようだ。
「じゃあ綾乃さん、業秤の間に案内しますねー。」
ユリさんが私の手首をぐいっと引っ張る。
私はエレベーターに乗せられる。ユリさんは慣れた手つきで最上階のボタンを押した。
「あの、最上階の間には何があるんですか?」
「ここの間ですか?そうですね、いろんな部署が入ってますよ。まぁ閻魔庁ほどじゃないですけど、
そこの下請けみたいなとこが入ってますね。」
「閻魔庁?」
初耳の単語に、思わず鸚鵡返しにしてしまう。
ユリさんは「あー…」と唸った後に、笑いながら言った。
「えぇっと、ここよりずっと大きくて今回よりびっくりしてほしいので、まだ内緒です。お楽しみに。」
(内緒かい。謎のサプライズ精神…。)
エレベーターがぐんぐんと上がっていく。
乗ってから1分ほどした時、ようやく最上階に到着した。目の前に大きなドアがある。
「この先が審判会場です。私は同伴できないので、お気をつけて。」
そう言いながら、ユリさんは(物理的に)背中を押す。
私は押されるがままに、目の前の大きなドアを叩いた。
ドアがぎぃっと音を立てて開く。
中はかなり大きな吹き抜けのホールのようになっていて、中心には大きな秤がある。
その向こうには数段高くなっている場所があり、その段の上に玉座のような立派な椅子があった。
しかし、玉座に座っていたのは……。
(どこをどうみても…5歳児…。)
玉座に腰掛け、届かぬ足をぷらぷらさせているボブカットの女児。
まさか、この人が今回の審判の十王?
頭の中がごっちゃになっている時、女児が声を上げた。
「ドア閉めて、前の席に座ってください。」
声量があるわけでは決してないのに、あの幼児の一言でなんだか緊張した。
私はばたんと扉を閉め、体をかくかくさせながら部屋の中央に移動する。
「四七日の審判をします。五官王です。」
お互い、よろしくお願いしますと頭を下げる。
私は中央の椅子に腰掛けた。
「城崎綾乃…さんですね。ここでは生前の嘘の多さを調べます。」
ごくりと唾を飲み込む。
正直生前どれくらい嘘をついたのか覚えていない。もしかしたら大量についたかもしれない。
もしとんでもない大嘘をついて地獄に飛ばされたらどうしよう…。
そんなことが頭をよぎり体が小さく震えた。
「目の前の業秤に乗ってください。」
私は重い腰を浮かすと、ゆっくりと秤に乗る。
秤といっても、天秤の皿に人間が乗るレベルの大きさだ。だいぶ大きい。
目をぎゅっと瞑りながら、恐る恐る業秤に乗る。
「はい分かりましたー。」
五官王は一瞬でこちらを見た後に、書類にペンで何やら書いている。
私は自分が重いのか軽いのかを確かめようと身を乗り出した。
(あ…結構重い…)
率直にそう思った。
反対に乗せられている岩が顔あたりにある。釣り合ってない。
私は俯きながらゆっくりと秤から降りる。
五官王は私を一瞥すると、流れ作業を言わんばかりの態度で言った。
「はい終わりです。ここでの聞き取り等はないので、お引き取りいただいて結構です。」
ありがとうございましたと言いながら退室する。
今までの十王は皆大人だったのでなんとか平気だったが、子供の見た目でああいうふうに言われると、ちょっと悲しいんだよなぁ。
私はユリさんと一緒にエレベーターを降りていく。
「ユリさん、なんか今の審判。あんまり良くなかった気がするんです。」
「そうなんですか?」
つい口に出てしまった。私はとめどなく喋り続ける。
「なんか重い気がしたし、生前嘘いっぱいついちゃったのかなぁって。地獄とかに落ちちゃったら、どうしよう…。」
「大丈夫ですよ。」
ユリさんは即答した。
その笑みには、珍しく自信や威厳が見て取れる。
「確かにここの審判は厳しいけど、嘘をついたからってすぐに地獄行きにはなりません。
地獄っていうのは、罪人のいくところです。嘘は日本の法律で裁かれません。よっぽどのことをしない限り。」
「すぐに…っていうと、地獄予備軍があるのでは…?」
「それはありますね。」
「あるんじゃいないですか!」
笑い事じゃないのにけらけらと笑う。
地獄予備軍に落とされないか心配だが、今は考えたって仕方ない。
残り半分のあの世生活を堪能しなければ。
私はそんなことを考えながら、業秤の間を後にした。
習い事のボイトレがわけわかんないことになってきて愉快に翻弄しております。氷室八弥です。
音楽系方って、変な例え話を使ってくる人と、妙に現実じみた例えの人のどっちかに絞られる気がします。
皆さんは今まで何回嘘をつきましたか?
ちなみに私は数え切れないくらいついてます。きっと業秤がパンクするでしょう。(笑)
誠実に生きないと、ですね!
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