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 親子関係のしがらみのせいで祖父母に娘との縁を切らせてしまった私だ。引き取られた当時はそんな風に思わなかったけれど、年を取るごとにそれはどれほど辛い決断だったのだろうかと考えるようになった。


 こんな風に思うようになるのであれば、いっそ施設に引き取られた方が気楽だったかもしれないとさえ思う。感謝もしているし大好きな祖父母だが、その一点だけにおいては酷く後悔しているのだ。


 私の質問に朧月ははっきりと断言した。


「ないな」

「そっか……それは、羨ましいかもです」


 ポツリと呟いた私を見て朧月が優しい手つきで頭を撫でてくれる。


「人間はそのしがらみのおかげで生きていけるとも言えるし、しがらみのせいで苦しんでいるとも言える。妖怪にそういう概念はないが、助け合うという一点においては人間と一緒だ。小春、お前をさっさと端女郎から格子に引き上げるぞ」

「え?」


 唐突な朧月の言葉に思わず首を傾げると、朧月は当然だとでも言いたげに続けた。


「格子になればおかしな客はつかない。楼主はお前に話しはしなかったかもしれないが、お前のようにここへ連れて来られて気をやった者や自害をした者も多くいる。そういう者達は自分の世界に戻る事も出来ず、ここに留まる事も出来ずに輪廻の輪を外れてしまう。ある意味では最も重い罰だ。お前がどんな事情で神に背きここへ来たのかは知らないし聞かないが、俺はこれからもお前の絵が見たい」


 朧月はそう言って私の頬に確かめるようにそっと触れた。


「何よりもお前の身体はすこぶる具合が良い。そんな娘がいつまでも端女郎で居て今日のような事が何度もあったり残虐を好む妖怪に魅入られてしまえば、恐らくお前は助けも呼べずに死んでしまう。それは惜しい」

「……怖いこと言わないでください……」


 脅すような朧月の言葉に私は息を飲んだ。私の周りではまだ心配気な禿達が朧月の言葉に焦ったかのようにじたばたしている。


「おまけにまだ子どものように小さいしな」

「っ!」


 目を細めてからかうような顔をした朧月を見て私は思わず眉根を寄せてしまうが、そんな私を見ても朧月は笑っただけだ。


「俺はお前の話を仲間内にしよう。ここは遊郭と言う名がついているが、お前たちの世界の遊郭とは何もかもが違う。そちらの遊郭では上からの指示でランクを上げる事が出来たようだが、ここで重要なのは容姿と具合の二つに尽きる。ではいつそのランクが決まるのかと言えば、毎年の年末に開かれる品評会だ」


 そんな話を初めて聞いて思わず目を丸くした私に、朧月は肩を竦めた。


「楼主からは聞いていないのか? 半月もあいつの世話になったんだろう?」

「何も……ただ、毎日特訓って言って抱かれただけで……」


 言われてみればこの遊郭のシステムをほとんど何も知らない。愕然とした顔をした私を見て朧月が眉根を寄せる。


「あいつ、まさか小春を任期明けまで理由をつけて囲う気だったのか?」

「囲う?」

「そうだ。いわゆる楼主のお気に入りだな。どこの楼主もそういうのが一人は居ると聞く」


 呆れたような朧月の口調に私は首を傾げた。果たして彼がそんな事をするだろうか? 少しだけ疑問が残るが、それよりもっと気になる箇所がある。


「ここの他にも遊郭ってあるんですか?」

「ああ。全ての妖怪の性欲をここだけで賄える訳が無いだろう?」

「……そうですね」


 言われてみればその通りだ。では一体皆、どうやって目的の遊郭に辿り着くのだろうか。色々と謎はあるが、とりあえず私は朧月の話を聞くことにした。


 ここではまだ私の知らないシステムがありそうだ。

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