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「なるほど。それで逃げようとしたのか」
「ちがっ! っっ!」
そうではない。そう言いたかったけれど、朧月は勝手に何かに納得したかのように首筋に顔を埋めてきた。
「随分と敏感だな。お前からは他の男の匂いがしない。これは良い買い物をした」
口の端を上げて微笑む朧月はハッとするほど美しいが、いちいち力が強い。私は楼主とはあまりにも違う朧月の手つきに思わず顔をしかめるが、そんな表情すら朧月にとっては興奮材料になるようだ。
着物を脱ぎ去った朧月のしっかりと割れた腹筋や、逞しい腕はそれだけでこの鬼がどれほど強いのかを物語っていた。行灯に照らされたその体には無数の傷跡がついているが、その傷すら美しい。
私が無言で朧月の体の観察をしている時、どうやら朧月も私の体を観察していたらしい。
「一つ尋ねるが」
ふと朧月が私の体を見下ろしながら口を開く。
「お前、まさか処女ではないよな?」
「ちっ、違います!」
あまりにもはっきり言われて思わず声を荒らげると、朧月は真顔で頷いてとうとう私に覆いかぶさってくる。
「そうか。それを聞いて安心した」
朧月は言葉とは裏腹に、何故か切なそうな表情を浮かべると、まるで何かをぶつけるかのように私を抱いた。
やがて全てが終わり、ぐったりと朧月に身体を預けていると、そんな私を見て朧月は心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「おい、大丈夫か」
低い声は抱かれる前に比べると随分優しい。私はぼんやりする意識の中でどうにか頷くと、そんな私の頬を朧月がそっと撫でてくれた。
「禿を呼ぶか? それとも共に風呂へ行くか?」
「……禿……ちゃん……」
掠れた声で言うと、朧月が片眉をピクリと上げて頷き手を叩くと、いつものようにどこからともなく禿達がわらわらと出てきて私の世話をし始めた。
動けない私の身体を慣れた様子で禿達は拭き上げて、あっという間に新しい着物を着せてくれる。
その間、私はまだ快楽の余韻にずっと揺さぶられていた。
「生気は十分に注いだはずだが、動けないのか?」
不思議そうに朧月が尋ねてくるが、そうではない。そうではなくて——。
私が答えるよりも先に朧月がそっと私に手を伸ばし私をもう一度抱き上げようとしたその時、必死になって堪えていた快楽がまた襲いかかってくる。
「今、は、——だ、めっ!!」
「は?」
「っっっ!!!!」
私は朧月の腕の中でガクガクと体を揺らした。
そんな私を見て禿が慌てた様子で私の周りを駆け回り、私はと言えばまた制御のきかなくなった体に翻弄されながら過呼吸に陥ってしまう。
「おい、大丈夫か?」
「っ、はっ、あっ、うぅ」
楼主に教えられたように息を吸おうとするが、うまく吸えない。口をパクパクさせるのが精一杯だ。
やがて手と足の先が痺れて来始めた頃、誰かが部屋に飛び込んできた。
「小春!」
楼主だ。楼主は朧月から奪い取るように私の体を抱えると、いつかのように強く抱きしめて私の耳元で囁く。
「大丈夫。ゆっくりだ。ゆっくり息をして」
「っは、はぁ、っふ」
「そう、上手だよ。焦らなくて良いから」
「んっ」
少しずつ体の痙攣が収まり、徐々に呼吸が落ち着いてくる。ようやく体の震えが治まった頃、私は布団に仰向けに寝かされた。
「誤算だったよ。小春を買った者にはこれから注意が必要だな」
「おい、これは一体どういう事だ?」
意識がぼんやりしている私の頭上で楼主と朧月の会話がうっすらと聞こえてくる。どちらも真剣な声だ。




