資料室の砂
Yさんが勤務していた設計事務所に、ひとつだけ奇妙なところがあった。地下階にある資料室の床に、砂が積もるのだという。
もちろん、定期的に清掃するのだが、それでもいつの間にか砂だらけになっていた。
「天井から落ちてきてるのかな」
設計事務所が欠陥建築だなんて笑えないね、と所長は冗談めかして言った。
ある日、Yさんは資料作りのために残業しなければいけなくなった。
ひとりきり、薄暗い事務所で黙々と作業に没頭し、気づけば終電を逃していた。
「今日は泊まりかな……」
コーヒーでも飲んで気分を変えようと給湯室に向かうと、地下階に降りる階段から、サク、サクと音がする。
さてはネズミか何かいるのかな。もしかして、砂が積もるのもそいつのせいかも知れない。
Yさんはそう思い、マグカップを持ったまま、ゆっくり階段を降りた。
サク、サク、サク。
扉に近づくと、音はたしかに資料室の中から聞こえる。
サク、サク、サク。
ほんの少し扉を開け、中を伺う。
資料室の中に、幼稚園児くらいの男の子がいて、手に持ったスコップで床を掘り返していた。
非常灯の明かりで緑色に照らされながら、何度もスコップを突き立てている。
サク、サク、サク。
Yさんは音を立てぬように扉を閉め、帰り支度もそこそこにタクシーに飛び乗った。
しばらくしてYさんは転職したが、その間、一度も残業はしなかった。
資料室には相変わらず砂が積もっていた。




