騒動 2
「我が国の貴族に対して、失礼な態度は許さないわ」
立ち上がり、エリスはシャルロットにピシャリと言った。
「今、貴女が無礼をはたらいた男爵夫人に謝罪しなさい」
「ハッ、笑わせないで? なんでわたしが男爵夫人なんかに謝らなきゃいけないわけ? 姉に会いに来ただけなのに、邪魔するのが悪いのよ」
ヒステリックに喚くシャルロットに、『ウンザリだ』というような表情のアレクシが『シャルロット、部屋に戻るんだ』と言いながら腕を掴んだが、
「嫌です!」
シャルロットはその手を振り払った。
「アレクシ様には関係ないでしょう! わたしと姉との問題です!」
「……そういうわけにはいかないだろう……すまない、今連れて戻るので……」
そう言いながらエリスを見たアレクシは、驚いたように目を見開いた。
エリスの、美しく光沢のある紫色のドレスを凝視する。
襟や袖口、スカートの裾には銀糸で花と葉の意匠の刺繍を施した、上品で手の込んだドレスだが、なによりもその色!
「エリス、それってもしかして……」
しかしその声を無視して、エリスはシャルロットに諭すように言った。
「シャルロット、今の貴女がどんなか、わかっているの? ドレスのリボンが解けているし、結い上げた髪も乱れているし、おまけに皇太子殿下が追いかけて来ていて……そんな状態でわたしに会いに来たって、止められて当然でしょう? 貴女、ガルシア帝国を代表してこの場に来ているという事がわかっているの? それにそのドレス、貴女が用意してきたものでしょう?」
エリスは、シャルロットが着ている、胸元が大きく開いた濃いピンクのドレスを見て言った。
「フェリックス陛下が用意して下さったものはどうしたの」
「なんでわたしがあんな地味なドレスを着なきゃいけないのよ! あれは、お姉様が仕組んだことなんでしょう?」
「仕組んだ? 何を言っているのかわからないけれど、あなたが今着ているドレスは、国の正式な式典に参加できるようなものではないわ。先日の夜会で、未婚なのに肌を出したドレス姿の貴女を見て、恥をかかないようにと陛下が用意して下さったのに。もしそのドレスが気に入らないなら、自分で用意してきた物を着てもいいけれど、胸元が開いていない物はあるの?」
「なんでわたしがそんな、マルタンのしきたりに従わなきゃいけないのよ!」
「マルタンだけの事ではないわ。ガルシア帝国でだって、式典では襟元の詰まったドレスを着るでしょう? 貴女だってそれくらいの事はわかっているでしょう?」
「わたしはっ! わたしが気に入ったドレスを着るわ! 誰にも文句なんて言わせない! ガルシアは帝国よ! マルタンよりも大きくて力があるのよ。小国の者がわたしに文句をつけるなんて!」
シャルロットが喚きたてる。
「だいたいあのドレスだってお姉様が、自分がそんな暗い色のドレスを着るから、美しいわたしが目立たないようにと手配したんでしょう? ハッ! そんな事したって、わたしの方が注目を集めるわ! 地味なあんたなんかより、ずっとずっと美しいんだから! フェリックス陛下にも、あんたがなにか言ったんでしょう? そうでなければ、わたしを気に入らないわけがないもの。この卑怯者っ! ああ、それとも? あの王は卑しい血が入っているから、あんたくらいの女の方が安心するのかしら?」
「シャルロット! いい加減になさいっ!」
あまりの暴言に、エリスが声を荒げた時、
「いやー、凄いな、シャルロット嬢は」
フェリックスが姿を現わし、その場にいた者全員、いや、シャルロット以外の全員が敬意を表し頭を下げた。
フェリックスに嫌われアレクシに婚約破棄を言われ、原因を一晩考えた結果、姉のせいと考えたわけで。




