騒動
「二日後に結婚式があり、それが済んだら一緒の寝室に移られることも決まっていて、ずーっと一緒にいられるというのに、なぜ大切な戴冠式前日に夜更かしをされるのか……わたしには理解できません!」
「夜更かしって……ちょっとお話しをしていただけよ。普段より早く眠ったわ」
「わたしが行かなければ、いつまでもお話ししていたに違いありません!」
口を尖らせてそう言いながら、エリスのドレスに皺がないか、髪の毛一本も乱れがないか、色々な角度から確認しているローラに、サミュエルの妻であるリアーナ・ルグラン侯爵夫人がクスクスと笑った。
「ユーゴー男爵夫人、おめでたい日にそんなにプリプリしていちゃいけませんわ」
「でも、寝不足はお肌の敵です! それに、体調を万全にしておかなくては。今日も明日も明後日もその先も! 結婚式や宴会が続くのですから」
「確かにその通りですけど、お肌に関しては全く問題ないではありませんか。ほら、こんなにツヤツヤで輝いてらっしゃいますわ。ねえ、お義母様」
「ええ、その通りだわ。睡眠を摂るよりも、愛する人と仲良くしている方が肌にはいいんですよ」
サミュエルの母のエマ・サミュエル夫人がそう言って笑った。
「結婚後に一緒にいるのは当たり前。その前にイチャイチャするのが楽しいんですよ。貴女もそうだったでしょう? ユーゴー男爵夫人」
「え、ええ、まあ……それはそうかもしれません……申し訳ございません、エリス様。わたしったら、自分の身分も顧みず、陛下にとても失礼な事をしてしまいました」
「いいのよ、ローラ。ローラがいつも、わたしの事を心配し、一番に思ってくれている事、わかっているわ。陛下もそうよ。だから安心して」
「エリス様……」
その言葉に感動し、ローラは目元をハンカチで押さえながら言った。
「……ありがとうございます。では、今日は早くお休み下さいね」
「……ローラったら……」
どこまでもブレないローラに、皆が笑った。
戴冠式まであと一時間弱。
暗いうちから準備を始め、完璧に着飾ったエリスは、特に親しい女性達と一緒に控室で待機していた。
「エリス様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「大丈夫よ」
「何かつまんだ方がいいのでは?」
「コルセットがきつくて……」
「でも朝から何も食べていらっしゃらないじゃないですか。小さな砂糖菓子はどうです?」
「んー、そうね、空腹で倒れたら大変だし……」
差し出されたガラスの菓子入れから、甘く可愛らしい菓子を摘んだ時、部屋の外がなにやらざわざわと騒がしくなった。
「……どなたか、いらっしゃったのかもしれません。ちょっと様子を見てまいりますね」
ローラが戸口へ向かい、少し気にしながらもエリスは砂糖菓子を口の中に入れた。
シュワシュワとすぐに溶け出し、口の中が甘くなる。
『美味しい……もう一つ食べようかしら』
そんな事を考えていると、
「お待ちください!」
慌てたローラの声が響いた。
控室には、エリスと親しくしていた他国の姫や令嬢達が挨拶に訪れていたので、今回もそうかと思ったのだが、
「なんで姉に会っちゃいけないのよっ!」
良く知るヒステリックな声に、エリスは大きく息を吐いた。
「……ユーゴー男爵夫人、お通ししていいわよ」
『大切な戴冠式の前に会いたくはないけれど、廊下で騒がれるよりいいわ』
半ば諦めの気持ちでそう言ったのだが、
「それが……ガルシア帝国皇太子様もご一緒で……」
「えっ?」
そう言われて耳を澄ますと、『いい加減にしろ』『戻るんだ』と言う声が聞こえた。
『ああ、だからローラが止めたのね。大騒ぎしながら来るなんて……』
「どきなさい! 無礼者!」
ローラを押しのけシャルロットが、そしてその後ろからシャルロットを連れ戻そうとするアレクシが部屋に入って来た。
砂糖菓子は、クリスマスケーキに載っているサンタさんのような物をイメージしています。




