愛おしい時間
昼の会食では二言、三言言葉を交わす程度で、その後は客人達と個別の会談もあり、エリスに会いに行けたのはサミュエルが予想した通り夜だった。
しかも、ようやく訪れたエリスの部屋にはローラがいて、慣れない外交に疲れ果て、癒しを求めてやってきた王を追い返そうと立ちはだかった。
「エリス様はもうお休みにならなければなりません。今夜はお引き取り下さい」
「えっ!? なんで? まだ寝るのには早いだろう?」
「明日、そして明後日も、エリス様は4時には起きて準備を始めなければいけないのです。寝不足はお肌に良くありません。お引き取り下さい」
「長居はしない! しないからちょっとだけでも」
「駄目です。そう言ってフェリックス様、絶対長居するに決まっています」
取り付く島もないローラ。
部屋の端に控えているトマに助けを求めようとしたが、トマは目線を合わせないよう天井を見ている。
『なんだよトマ! 無視しやがって!』
「さあさあ、フェリックス様も明日に備えてゆっくりとお休みくださいませ」
「いや、でも……」
「ローラ、わたしは大丈夫だからお通ししてあげて」
苦笑しながら、エリスが助け船を出してくれた。
「えっ? でもエリス様……」
「本当に大丈夫よ。まだ眠くないし、それに陛下に伺いたい事もあるの。少しならいいでしょう?」
「……本当に、少しですよ?」
「ええ。わかっているわ」
ニッコリと微笑むエリスに、ローラが折れた。
「かしこまりました。では、ナイトティーでもお持ちしますね。心が落ち着いて、眠りにつきやすくなりますから」
「ありがとう、お願いするわ」
ローラが部屋を出て行き、フェリクスはトマに『お前ももういいぞ』と声をかけたが、トマは首を横に振った。
「今ローラに、ここでしっかりと見張るようにと言われましたので……」
「おいトマ! お前の主人は誰だ?」
「もちろん陛下です!」
「じゃあ、早く出ろ」
「いや、しかし……」
「トマ、陛下の仰る通りになさい。ローラに叱られたら、わたしに命じられたと答えていいから」
「ううう……はい、かしこまりました。では、失礼致します」
エリスにもそう言われてしまっては、退室せざるを得ない。
肩を落とし、トマが部屋を出て行った。
「はー、ようやく二人きりになれたな」
フェリクスはいそいそと、ソファーに腰かけているエリスの隣に座った。
「ごめんなさい、フェル。ローラは決して貴方の事を蔑ろにしているわけじゃなくて」
「とにかく、エリスの事が大切で第一優先、というだけだろう? わかってるし、ありがたいと思っているから大丈夫だ」
笑いながらそう言ったフェリックスだったが、ふと思い出し、エリスを見た。
「そもそも、エリスが我慢するからいけないんだぞ? だからローラも心配するんだ。昨日、あの性悪の妹に色々と言われたという事、黙っているなんて。ローラが教えてくれたから良かったものの、危うく俺は、あんな女の色香にコロッと惑わされた愚か者にされるところだった」
「別に、妹が言う事なんて信じていなかったし、確かに不快だったけれど、わたしが我慢すれば済むだけだと思って……」
「でもトマとかサミュエルは、俺が彼女の胸を見てたとか言ってさぁ」
「彼らも見ていたでしょう? というか、あんなドレスを着ていれば誰だって見るわ、下心の有る無しにかかわらず。……フェル、今日はありがとう。本当はわたしが助言しなければならない事だったのに」
「いや、俺が、もうあの女や皇太子とエリスを会わせたくなかっただけだ。皇太子なんて今日、エリスを返せとか言ってきたんだ。なんなんだ? あの男の考えている事が理解できない、って……」
あまり驚いていないエリスに、フェリックスは首を傾げた。
「あまり、驚かないんだな。……もしかして、エリスも言われたのか?」
「……ええ、昨日ダンスをした時に……そんな事できないし、わたし自身が嫌だとはっきり言ったのだけれど……」
「おいおい、そんな大切な事、どうして黙っていたんだ?」
「きっぱり拒絶したから、もう解決した事と思って……ごめんなさい」
「本当に……他人が困っている事ならばすぐに報告するのに、自分の事は絶対報告しないんだから……」
フェリックスはエリスの手をキュッと握った。
「これからは、ちゃんと教えてくれ。だって俺は、エリスが笑顔でいられるようにって、そればかりを願っているんだから」
「……ええ、ありがとう。でも、貴方がそう思ってくれている限り、わたしは笑顔でいられるわ」
エリスはそう言うと、本当に嬉しそうに微笑んだ。
ジャンルを【恋愛】にしているのに、そういう感じが少ない事に気づきました!




