激昂 2
瞬きせず睨み続けるフェリックスに、アレクシはその場から逃げ出したくなったが、必死に堪えた。
王の前から許可も得ず去る事など礼儀に反しているし、今ここで背を向けたらどうなるか、という事も恐ろしかった。それほど、フェリックスは殺気を放っていた。
「そもそも、なんなんだ? 王妃にするつもりだと知っていたら、渡すつもりは無かっただって? つまり、処刑されると思ったからよこしたと言うんだな?」
「い、いえ、そういうつもりは……」
「じゃあ、どういうつもりだったんだ? えっ?」
「…………」
何も、答えられない。
「エリスは何も言わないがなぁ、だからといって何も知らないわけじゃないんだよ、こっちは。賠償金の減額の代わりにエリスを要求した際、すぐに了承したそうだな。お前も、父親も、誰もエリスの処遇について尋ねる者はいなかったと報告を受けている。そもそも、なぜエリスを戦争に参加させた? しかも、象徴としての飾りではなく、実際に戦場に出しただろう。お前が逃げる際には、オトリとして使った」
体が震える。
「邪魔だと思ったんだろう? エリスの事が。エリスを排除し、あの慎みのない女と結婚しようとしたんだろう?」
冷や汗が背中を伝う。
「自分の事を美人だと思って、当然誰からも好かれると思い込んでいるあの女。……まあ、人の好みはそれぞれだ。俺は全く魅力を感じないが、ああいうのが好きな男も多いだろう。自分のその魅力を最大限に生かして世の中を渡って行こうというのなら、それもいいだろう。けどあの女は、他人を貶す事で自分を良く見せようとしていた。最悪だ。醜いとさえ感じる」
フェリックスは大きくため息を吐きながら足を組み、震えるアレクシを見た。
「姉の婚約者に対し、あの女は腕を絡めて胸を押し付けてきたぞ? 『姉は怖いです』『背が高くて力が強くて男性みたいです』『戦争で戦った相手でしょう?』と、婚約者の俺に言ってきたぞ? アレクシ殿下も言われたのか? 『姉は優しくないでしょう? 姉は厳しいでしょう? 姉は背が高いでしょう? 姉は女らしくないでしょう? 姉よりわたしの方がいいでしょう?』と」
見ていたのかと問いたくなるほど言い当てられ、アレクシはギュッと目を瞑った。
「そして、その言葉に惑わされ、エリスを裏切った結果がこれだ。今更『間違っていました、返して下さい』なんて、通用すると思っているのか? だとしたら、お前もかなり愚か者だな」
俯き、震え、アレクシは何も答えなかった。
『言い過ぎたか』と思ったフェリックスだったが、その一方、まだまだ言い足りなかった。
「エリスを裏切り、殺そうとさえしたお前達が、どんな顔してマルタンへやって来るのかと、俺は最初から疑問視していた。しかしまあ、深く反省し、許しを請う為に来るのかもしれないと思い直して迎えてみれば……まったく、エリスが可哀そうになる。何も言わずに庇ってきた元婚約者と妹が、反省も成長もせず、こんなだとはな」
「…………」
アレクシは何も言わず、しかし、体は震え、『ハア、ハア』と呼吸が荒くなっている。
「……この話は、ここだけの話としよう」
ため息交じりに、フェリックスは言った。
「今後、このふざけた話をしないというのであれば、こちらも何も言わない。式典に出席して、大人しく帰ってくれ。だが、懲りずにまた何か言ってくるようなら……こちらも考えがある」
「……わ、わかり、ました。大変、失礼いたしました」
ヨロリ、と立ち上がり、深くお辞儀をしてからアレクシは部屋を出て行った。
フェリックス、どうにか耐えました。




